ディーン氏のもたらした躍進
アメリカにおいてのネット選挙の始まりは1992年、ブラウン候補が初めて電子メールによる選挙運動を行ったことから始まっています。その後1996年にはインターネットを選挙活動に用いる候補者が急激に増え、個々のホームページの開設が定番化しました。
そして、アメリカにおいてのネット選挙に大躍進をもたらしたのは2004年の民主党予備選のディーン候補です。その頃のアメリカの社会背景として、クレジットカード経由でのインターネット献金が簡単に行えるようになったことにより、女性や若者からの小口の献金が行えるようになりました。そこに目をつけたディーン氏は、ブログという双方向的なメディアを用いて支持者を集め、アメリカにおいて初期のSNSである「Meetup.com」を用いてネット上で支援者を集めました。地域毎に企画した集会をネット上で宣伝し人を集めるなど、ネットの利便性を生かしたネット選挙運動を打ち出していったのです。
2008年大統領選 オバマ陣営による革命
2008年、オバマ氏はディーン陣営のスタッフをメディア・ディレクターとして採用し、そのノウハウを全面的に活用したネット選挙の戦術を展開しました。
「my.barackobama.com」という独自のSNSを立ち上げ、地域ごとの交流を図るだけでなく自身の支援集会の回数や電話で支援を呼びかけた回数、献金額などが誰でも見ることが出来るようにしました。更に小口献金をサイトから簡単に出来るシステムを用意し、ネットを使って友達に献金を促せるシステムを入れ、メールによる追加献金の呼びかけを行いました。その結果、献金額総額のうち51.7%が200ドル以下の小口献金で集まったのです。この選挙によりオバマ陣営は、ソーシャルメディアを本格的に政治において使いこなすネット選挙戦術の世界的な先駆けになったと言われています。
2012年 ビックデータ選挙
オバマ陣営は2008年のネット選挙活動を2012年には更に飛躍させました。まずSNSの発展、ユーザー同士の交流を活性化させる目的でGPS機能を発展させただけでなく、「フレンド」「サポーター」といった自発的な支援者を獲得しその支援者達を組織化、ボランティアの選挙運動員や小口の個人献金提供者を獲得していったのです。
更に、オバマ陣営のネット選挙戦略では潜在的有権者に関する膨大なデータベースを統合・分析し、年齢性別・過去の投票行動・Facebookの連絡情報などの個人情報に応じてそれぞれに見合った異なるメッセージの配信を行いました。このようなターゲット別にピンポイントのアピール戦略を行った事によりオバマ氏への献金額は2008年の大統領選を上回り、その献金額の内訳を見ても200ドル以下の小口献金が60.9%を占める結果になったのです。
アメリカにおける啓示活動
アメリカには有権者登録制度があり、選挙年齢に達しても事前に有権者登録をしなければ大統領選挙への投票は出来ません。そのため、アメリカでは若者に有権者登録を促すための活動に積極的に力をいれています。
例えば、友人を3人連れて有権者登録に行くと活動を支援しているアーティストの楽曲が無料でネット上にてダウンロード出来るといった取り組みが実際に行われました。その他、アメリカの中学や高校では、授業の一環として模擬投票を行い、政治自体に興味を持つ「賢い有権者」を増やすべく啓示活動を行っています。アメリカにおけるネット選挙の広がりは、有権者が前向きに楽しく選挙や政治に関わっていけるよう、より若者に身近なITを活用したネット選挙を展開していこうという狙いも含まれているのです。