大物俳優セクハラ事件は、Netflix帝国を揺るがすのか?

名優、ケヴィン・スペイシーが過去のセクハラについて謝罪。そして、自身がゲイであることをカミングアウトした。
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大物プロデューサーのセクハラ問題に揺れるハリウッド界隈で、新たな衝撃が走った。

大ヒットドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』主演であり、アカデミー賞俳優でもある名優、ケヴィン・スペイシーが、過去のセクハラについて謝罪。そして、自身がゲイであることをカミングアウトした

きっかけは、ドラマ『スタートレック:ディスカバリー』などに出演する俳優、アンソニー・ラップが、過去に舞台で共演したスペイシーから受けたセクハラ行為をインタビューで公表したことから。

約30年前、当時14歳だったラップは、スペイシーの自宅パーティーに招かれ、そこで、酔ったスペイシーにベッドに押し倒されるなどして、迫られたという。ラップは、30年が経っても未だにトラウマに苛まれている。

Netlixの屋台骨『ハウス・オブ・カード』シーズン6で終了

事件報道後、スペイシーが現在出演しているドラマ『ハウス・オブ・カード』の終了が発表された。

『ハウス・オブ・カード』は、動画配信サービスNetflixを初期から支え、現在も圧倒的な人気を誇るドラマだ。

一部の報道によれば、『ハウス・オブ・カード』の終了は数か月前から決定していたものであり、今回のスペイシーの事件とは関係ないとのこと。

しかし、どのみち、この事件を無視して、スペイシーが、フランク・アンダーウッド大統領を演じ続けていくのは、無理があっただろう。

本来、役者とキャラクターは別の人間であると考えられるべきなのは理解しているが、今回の事件に関しては、影響が大きすぎる。

被害者のラップ氏による「今でも彼の顔を見ると気分が悪くなる」というコメントは、衝撃的だった。

この事件は、スペイシー本人だけでなく、彼が主演および製作総指揮を務める『ハウス・オブ・カード』の母体であるNetflixにも、大きな影響を及ぼすに違いない。

フランク・アンダーウッドは、Netflix帝国のベイダー卿だった

近年の映像業界におけるNetflixおよび『ハウス・オブ・カード』の功績は、華々しさを通り越して、嵐のようなすさまじさだった。

それは、ドラマ制作の前段階から始まっていた。

Netflix加入者のビッグ・データ――「デヴィット・フィンチャーの『ソーシャル・ネットワーク』は途中離脱が少ない」「ケヴィン・スペイシー出演作がよく見られている」など――をもとに、制作陣やキャストが決められ、約1億ドルの予算が投入された。

厄介なスポンサーもいないうえに、ネット配信なので厳格なルールもなく、内容の自由度が高い。それは同時に制作者側のモチベーションにつながった。

また、テレビドラマでは不可能な、"1シーズン、イッキ見"を可能にし、ドラマ慣れした視聴者のニーズに対応したのも大きかった。

こうした、過去のドラマ制作セオリーの真逆を行く手法で、Netflixおよび『ハウス・オブ・カード』は、大勝利。

ネット配信のドラマシリーズとして初めて、ドラマ界のアカデミー賞ともいわれるプライムタイム・エミー賞を受賞。第71回ゴールデン・グローブ賞ドラマ部門では、クレア・アンダーウッドを演じたロビン・ライトが主演女優賞を受賞し、翌年の同賞では、ケヴィン・スペイシーも主演男優賞を受賞している。

『ハウス・オブ・カード』をひっさげたNetflixの躍進は、私たちに、"時代が変わる瞬間"をまざまざと見せつけ、動画配信サイトの自社制作ドラマブームに火をつけた。

その中心人物として、スペイシーは、主演だけでなく、ドラマの製作総指揮としても活躍していた。Netflixが帝国を築き上げていくなかで、スペイシーは、欠かせない人物だった。

先進的な取り組みを見せてきたNetflixだからこそ

スペイシー演じるフランク・アンダーウッドの妻、クレア・アンダーウッドを演じるロビン・ライトは、『ハウス・オブ・カード』で監督デビューを果たしている。撮影が終わってからも真夜中まで自ら編集作業を行ったりと、本格的な仕事ぶりだったそうだ。

また、ロビン・ライトは、最新シーズン出演交渉の際に「クレアもフランクと同等の活躍をし、作品に貢献している」と主張し、主演のスペイシーと同等のギャラを要求した。

その姿勢は世界でも絶賛され、ハリウッドにおける性差、ギャラ格差について、一石を投じた。

制作サイドも、ライトの活躍や意見を重要視し、ともに先端を歩んできた。

それだけに、今回のスペイシーの事件は、ドラマだけでなく、Netflixが築き上げてきた先進的なイメージにも影響を及ぼす恐れがある。

あの大ヒットドラマの続編も危うい? 出演者に泣かされるNetflix

しかもここにきて、Netflix周辺が騒がしい。

『ハウス・オブ・カード』と同じくNetflixの大人気オリジナルドラマ『ストレンジャー・シングス』の、メインキャストのひとりが、つい先日、コカイン所持で、アメリカ入国拒否となったのだ。それも、同作シーズン2のパーティーに出席するタイミングで。

10月27日に配信開始された『ストレンジャー・シングス2』は、語彙力を総動員しても表現できないほど最高だった。

ファンたちの間でも早々にシーズン3への期待が高まり始めていただけに、今回の事件によって、制作にも影響が及ぶのではと、懸念の声が上がっている。私も「ジョナサン、何やっとんねん!!」とPC画面に向かって叫んだ。それくらいに、期待度の高い作品だからだ。

『ハウス・オブ・カード』がNetflixのベイダーなら、『ストレンジャー・シングス』は、さながらカイロ・レンだ。

帝国を支えるふたつの作品に、立て続けに起こった悲劇。それでも、帝国を支える兵士もファンも大勢いることには変わりない。

私もひとりのヘビーユーザーとして、このような逆風に気負わされることなく、その帝国を維持し続けていってほしいと願っている。

Netflixが担う、映像業界の未来

今回のスペイシーの事件に関してNetflixは「非常に心を痛めている」とコメント。現在撮影中のキャストたちのもとへ駆けつけ、サポートをしているという。

映像業界におけるセクハラや差別問題は、後を絶たない。ギャラ問題も含め、他業界と比べ、遅れをとっている印象は否めない。

しかし、業界に革新をもたらし、新たな時代を切り拓いてきたNetflixだからこそ、こうした問題と真摯に向き合い、抑止策を講じることができるはずだ。

商業的な意味だけでなく、モラルやイクオリティの面においても、今後のNetflixが担う役割は大きい。

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