グーグルの新会社「アルファベット」発表文に〝隠しリンク〟、そのわけは?

GはグーグルのG」と題した10日付のグーグルの発表で、ネットウオッチャーたちはしばらく持ちきりになった。

GはグーグルのG」と題した10日付のグーグルの発表で、ネットウオッチャーたちはしばらく持ちきりになった。

発表文はグーグルCEOのラリー・ペイジさん名で、「アルファベット」という持ち株会社を新たに設立し、検索サービスの「グーグル」などグループ企業はその傘下に入るという、大幅な組織改編についてだった。

その発表文には〝隠しリンク〟があり、米国で話題の人気テレビドラマ「シリコンバレー」に登場する、グーグルやフェイスブックのパロディーとおぼしき架空のIT企業「フーリー」の公式サイトつながっていた

単なるジョークのようだが、創業者たちはこの「フーリー」に、ちょっとした思い入れがあるようだ。そして、その思い入れは、意外に深いのかもしれない。

●新会社の構成

発表文や同日付で米証券取引委員会(SEC)に提出した報告書によると、持ち株会社の「アルファベット」のCEOにペイジさん、社長にサーゲイ・ブリンさんという共同創業者2人がつき、上級副社長のスンダー・ピチャイさんが新グーグルのCEOに就任するという。現会長のエリク・シュミットさんは、そのままアルファベットの会長に就くようだ。

新グーグルにはグーグル検索、アド、マップ、アップス、ユーチューブ、アンドロイドと関連インフラが含まれ、長寿研究の「キャリコ」、スマートホームの「ネスト」、高速ネットインフラの「ファイバー」、投資部門の「グーグルベンチャーズ」「グーグルキャピタル」、次世代技術のインキュベーション部門「グーグルX」は、別建てになるという。

すでにテックニュースサイト「ヴァージ」は、これらをアルファベット順に整理してくれている。

●発表文のリンク先

持ち株会社設立の発表文は、グーグルの公式ブログのほか、投資家向けページ、さらに新設した「アルファベット」の公式サイトにも掲載されている。

このうち、投資家向けページ以外の発表文の中には〝隠しリンク〟があり、そのリンク先はIT企業「フーリー(※おバカ)」のプロジェクト「XYZ」の公式ページになっていた。

「フーリー」は、米タイム・ワーナー傘下のケーブルテレビ局「HBO」が放映する人気テレビドラマ「シリコンバレー」に、敵役として登場する巨大IT企業だ。

「シリコンバレー」は、昨年4月にシーズン1(全8話)が始まり、今年7月にシーズン2(全10話)が終了した米サンフランシスコ湾岸のIT集積地域シリコンバレーを舞台にしたコメディー。

プログラマーの主人公、リチャード・ヘンドリクスが、勤めていた「フーリー」からデータ圧縮の新技術をひっさげて独立。ベンチャー企業「パイドパイパー(※ハーメルンの笛吹き男)」のCEOとして奮闘するストーリーだ。

「XYZ」とは、このシリーズに登場する「フーリー」の実験プロジェクト。

サイトは、番組放送に合わせて今年5月にHBOが立ち上げたものだった。

ちなみにHBOは、シーズン1スタート時の昨年4月に「パイドパイパー」の公式サイトも立ち上げている。さらに、フェイスブックで同社の求人広告を出したり、シリコンバレーを縦断する幹線道路、国道101号沿いなどにビルボード(大型看板広告)を出すなど、ソーシャルメディアでの話題づくりにも抜かりがない。

●グーグルとフーリーの共通点

「シリコンバレー」そのものがIT業界のパロディで、テックニュース「リコード」の共同創設者ウォルト・モスバーグさんやカラ・スウィッシャーさん、「テッククランチ」の創設者マイケル・アーリントンさん、フェイスブックとの訴訟で知られる投資家のウィンクルボス兄弟、「スナップチャット」CEOのエヴァン・シュピーゲルさんなど、有名人たちが随所で、本人役で登場している。

ことに「フーリー」は、社員たちが集会で順番にCEOに質問を投げかける場面を含め、グーグルなどのIT企業を意識した露骨なパロディーになっている。

「XYZ」は〝ムーンショットの工場〟とされる未来技術の実験場という設定だ。

この〝ムーンショット〟とは、月面着陸レベルの壮大な未来プロジェクトを指す言葉で、「XYZ」のミッション。

ただドラマでは、ロボットや自動運転車の開発のほかに、照準の定まらないジャガイモバズーカやサル用のバイオアームなど、珍妙でポンコツなプロジェクトのドタバタぶりがコメディーらしく描かれる。

それだけでなく、「世界をより良い場所にする」という、グーグルの2004年株式公開時の公開書簡にも盛り込まれたモットーすら、「シリコンバレー」ではギャグのネタだ。

●クレイジーなリアルさ

だが、グーグル側はあまり気にしていないようだ。

何より第1話には、会長のエリック・シュミットさんが本人役で登場している。

しかも共同創業者の2人は、この「シリコンバレー」のファンのようだ。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)支援のために昨夏話題を呼んだ「アイスバケツチャレンジ」では、アイスをかぶるペイジさんとブリンさんは、それぞれ「パイドパイパー」と「フーリー」のTシャツを着ていた

ドラマは、シリコンバレーの成功物語で知られる様々なエピソードを脚色しているだけでなく、クレイジーな部分もあるこの地域の文化や空気感を、かなり現実に近い形で再現しているとの評判だ。

業界著名人たちが本人役で出演し、共感するポイントも、そのリアルさにあるようだ。

「シリコンバレー」のディレクター、マイク・ジャッジさんは80年代後半、シリコンバレーのサニーベール市に住み、IT企業に勤めていた経験があるという。だがすぐに、その偏狭さに辟易してシリコンバレーを離れたと。フィナンシャル・タイムズのインタビューに「これはちょっとした復讐だ」と答えている。

実際に、グーグル、フェイスブック、イェルプ、ドロップボックス、ツイッターといった企業にも取材に訪れているようだ。

結局、ジョークの種にするんだが、それらの企業のことを真剣に理解しようとしたし、そのテクノロジーをリアルにみせようとかなり努力もした。それが彼らにも理解されたようだ。

マザージョーンズのインタビューによると、番組にも登場したウィンクルボス兄弟やカラ・スウィッシャーさん、マイケル・アーリントンさん、さらには有力投資家のマーク・アンドリーセンさんらからアドバイスも受けているという。

ただ、このドラマへの批判派もいるようで、テスラ・モーターズCEOのイーロン・マスクさんは、リコードのインタビューに、「マイク・ジャッジはバーニングマンに行ったことがないんじゃないか? あれこそシリコンバレーだ」と話している。

バーニングマンは毎年8月末から9月にネバダの砂漠で開催される、カウンターカルチャーに源流を持つイベントで、これまでにグーグルの創業者2人やフェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグさん、アマゾンCEOのジェフ・ベゾスさん、そしてもちろんイーロン・マスクさんらIT業界の著名人が参加したことでも知られる

マスクさんの批判は、そんなカウンターカルチャーに根ざしたシリコンバレーの文化やリアルな現場を、ドラマ「シリコンバレー」は描けていない、との指摘のようだ。

●ドメイン「.xyz」

「フーリーXYZ」の公式サイトのアドレスはhttp://www.hooli.xyz/だ。このドメイン「.xyz」は、昨年から新設されたものだ。「X世代」「Y世代」「Z世代」という1960年代生まれ以降の世代向けのドメイン、とされている。

「アルファベット」の公式サイトのアドレスhttps://abc.xyz/が、グーグルで使っている「.com」ではなく、このドメイン「.xyz」を使っている。一つには、alphabet.comというドメインが、BMWによって取得済みになっている、ということもあるかもしれない。

とは言え、「.xyz」を使った上で、「フーリーXYZ」にリンクを張っている点からも、ドラマが描くシリコンバレー文化への思い入れが見て取れる。

参考までに「パイドパイパー」の公式サイトを見ると、ドメインはpiedpiper.comで、「.com」を使っている。

●「アルファベット」の読み解き

「アルファベット」という持ち株会社のもとに再編されることで、(旧)グーグル・グループにはどのような展開が待っているのか。

業界問わず展開するウォーレン・バフェットCEOのバークシャー・ハサウェイ型のコングロマリット(複合企業)か、発明王トーマス・エジソンが立ち上げたゼネラル・エレクトリック(GE)のような、テクノロジーに足場を置き、統一した企業文化を持つコングロマリットか、電話を発明したアレキサンダー・グラハム・ベルのAT&Tのような、独占企業を出自とするイノベーション駆動型の企業グループになるかのか――。

ニューヨーク・タイムズのニール・アーウィンさんは、そんな3つのタイプとの比較からこの再編を整理する。

そのほかにも、シリコンバレーを代表するジャーナリストの1人であり、『グーグル ネット覇者の真実』の著書もあるスティーブン・レヴィさんは、再編された各社、たとえば新グーグルとグーグルXが有機的に連携できるだろうか、との懸念を指摘

一方で、『グーグル的思考』の著書があるブロガーで、ニューヨーク市立大学ジャーナリズムスクール教授のジェフ・ジャービスさんは、何も変わらないだろうが、グーグル嫌いの欧州メディアと規制当局がまたぞろ騒ぐのでは、と同氏らしいコメント

テックニュースサイト「フュージョン」のフェリックス・サーモンさんは、アルファベット26文字に当てはめて、言葉遊びのようなコラムを披露している。

ただ、グーグルでは〝隠しリンク〟は禁じられている、との指摘が出ているようだ。

この問題はどうなるんだろう?

(2015年8月15日「新聞紙学的」より転載)

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