アップルがアプリのジャーナリズムを削除する

アプリによるジャーナリズムの配信経路が、一つ閉ざされたようだ。

ジャーナリズムは、配信の手段をグーグル、フェイスブック、アップルなどのデジタルプラットフォームに依存するようになっている。

それによって、億単位のユーザーに手が届く一方で、配信の可否をプラットフォーム側に握られることの危険性も、常に意識しておく必要がある。

そんな最新の実例を、アップルが提供している。

米国によるドローンの攻撃事例のニュースを配信するiOS用のアプリを、アップルが突然削除したのだという。

アプリによるジャーナリズムの配信経路が、一つ閉ざされたようだ。

●ドローン攻撃をウオッチする

アプリをつくったのは、調査報道メディア「インターセプト」のリサーチエディタージョシュ・ベグリーさん

「インターセプト」は、イーベイ創業者のピエール・オミーディアさんがつくった「ファースト・ルック・メディア」傘下で、ピュリツァー賞を受賞したスノーデン事件のスクープで知られるグレン・グリーンワルドさん(元英ガーディアン・コラムニスト)らが創設したネットメディアだ。

ワイアードニューヨーク・タイムズなどによると、ベグリーさんはニューヨーク大学の院生時代の2012年、パキスタン、イエメン、ソマリアでの米国のドローン攻撃による死傷者の被害情報をプッシュ型で配信するアイフォーン用のアプリ「ドローンズ+」を作成した。アプリで使用したのは、英調査報道NPO「調査報道局(BIJ)」が公開しているデータだ。

BIJのデータはだれでも入手可能になっており、当時、ガーディアンのデータジャーナリズムを先導していたサイモン・ロジャーズさん(現グーグル・データエディター)も、これをもとに、グーグルマップでのビジュアル化地図を公開。アイフォーン上でも今も閲覧できる。

●5度の拒否、承認、そして削除

ところがアップルは、ベグリーさんのアプリ申請に対して、「極めて品位に欠け、不快なコンテンツ」と拒否。申請と拒否の繰り返しは5度に及んだという。

しかし、ベグリーさんはアプリの名前を「メタデータ+」と変えて改めて申請したところ、昨年2月に承認されたという。

ところが米ゴーカーガーディアンなどの報道によると、今年9月末に、アップルが突然、「メタデータ+」をストアから削除したという。理由は、再び「極めて品位に欠け、不快なコンテンツ」。

ベグリーさんは、同種の機能を持つ「エフェメラル+」というアプリも申請の承認を受けていたが、「メタデータ+」の削除からほどなくして、やはり削除されてしまったようだ。

アップルはこれまでも、北朝鮮シリアなどの時事問題を扱ったゲームを削除し、議論を呼んできた経緯がある。

●プラットフォームの〝編集権〟

「メタデータ+」は、紛れもなくアプリのスタイルを取ったデータジャーナリズムの表現方法だ。

ただ、そのジャーナリズムの採否を決めるのは、プラットフォームとしてのアップル。その採否の基準や理由がつまびらかにされることはない。

しかも、アップルは9月から最新版「iOS9」から、アイフォーンなどにニュースを配信するアグリゲーションアプリ「ニュース」のサービスを始めたばかりだ。

ジャーナリズムがプラットフォームに依存する危険が、ここにある。

この問題は、これまでも「ネット企業はどこまでコンテンツを規制すべきなのか」などで紹介してきた。

インターセプトのグリーンワルドさんは、昨夏、「我々は、何を目にし、読むかについて、ツイッター、フェイスブック、グーグルの幹部に判断を委ねるべきか」と題した記事で、こう述べている。

民間企業がサービス内容を選別すること自体、全く合法的なことではあるが、10億人を超すようなユーザーを抱えるフェイスブック、グーグルなどのプラットフォームは、普通の民間企業とは同列には論じられない、と。

グローバルなコミュニケーション手段をコントロールする膨大な力を考えれば、シリコンバレーの巨大企業は、一般的な民間企業というよりは、電話会社のような公共サービスに近い存在だ。特に、アイディア、グループ形成、オピニオンへの抑圧の危険を考えた場合は。

電話会社が通信内容を選別する危険を想像せよ、とグリーンワルドさんは言う。

フォーチュンのマシュー・イングラムさんも、「メタデータ+」と同様の危険は、巨大プラットフォームのフェイスブックやツイッターにもある、と指摘する。

プラットフォーム側は「不適切」との理由で、コンテンツをいつでも削除できる、いわば〝編集権〟を握っている。

ジャーナリズムは、権力の検閲から自由でなければならない。だが今や、それに加えてプラットフォームの〝検閲〟からの自由も確保しておく必要に迫られている。

フェイスブックやツイッターを配信の主体とする「分散ジャーナリズム」も、程度問題と考えておく必要がありそうだ。

(2015年10月3日「新聞紙学的」より転載)

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