アーロン・フィルホファーさんが久しぶりに公の場でしゃべっていた。
フィルホファーさんはデータジャーナリズムの世界的なトップランナーとして知られる。
だが今年5月、デジタル移行を精力的に進めるニューヨーク・タムズの要、デジタル戦略担当編集局次長から英ガーディアンへの移籍を発表。ガーディアンでは新設のデジタル担当編集主幹に就任した。
その動向が気になっていたが、フィルホファーさんが共同創設者の1人でもあるジャーナリスト(ハック=売文家の意味がある)とエンジニア(ハッカー)のネットワーク「ハックス・アンド・ハッカーズ」ロンドンのミーティングに登壇。フィルホファー節を披露していたようだ。
イノベージョンは徐々に起きる、そしてそれは測定可能だ。報道局にはそのためのスキルが必要だし、報道局にはそれが可能だ。
●「スノーフォール」の読者がわからない
参加者のツイートをまとめたキュレーションサービス「ストーリファイ」のページしかみあたらず、フィルホファーさんのひと言集のようになっているが、それでも雰囲気は伝わってくる。
新聞はデジタル移行の中で、失敗を糧に成長することが必要だ。
意外な事実も明かされた。
ピュリツアー賞までとったニューヨーク・タイムズのマルチメディア特集「スノーフォール」だが、アクセスの解析は行われておらず、ユーザーの動向を知る術はないのだ、という。
「『マネーボール』理論をニューヨーク・タイムズに応用してみた」で紹介したように、フィルホファーさんはタイムズ時代、報道局内のデータ解析を先導する立場だった。
話題となった同紙の「イノベーション・リポート」の指摘のいくつかは、フィルホファーさんの取り組みの延長線上にある。
それでも、思うようなスピードで改革を進めるのは難しかったということだろう。
●カルチャーとプロセスを変えよ
「報道局をどう変えるつもりか」との質問に、フィルホファーさんは、こんなことを言ったという。
気に入った人材を雇うことはできる。だが必要なのは、カルチャーとプロセスを変えることだ。
具体的にはこんな風に。
報道機関は95%のリソースを、実際には読者の5%しか見ていないもの(例えば紙)に費やしている。
さらにはこんなことも。
物語は大切だし、信頼も大切だ。ただ、デジタル変革前のやり方で物事を進められると思ってはだめだ。
●改めて「サービス」として
ブログサイト「ギガオム」のマシュー・イングラムさんは、フィルホファーさんのスピーチなどを引きながら、改めて、著名ブロガーのジェフ・ジャービスさんの言葉を取り上げている。
「サービスとしてのジャーナリズム」だ。
私たちがいるのがコンテンツビジネスでないとすると、何ビジネスだ? ジャーナリズムをサービスとして考えてみよう。
何度でも考えるべきポイントだろう。
(2014年9月27日「新聞紙学的」より転載)