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2018年09月18日 16時41分 JST | 更新 2018年09月18日 16時41分 JST

EU著作権改正:「リンク税」と「コンテンツフィルター」は、本当に機能するのか?

EUの新著作権指令案で、一貫して議論の的になってきたのは、「コンテンツフィルター」(13条)と「リンク税」(11条)の規定だ。

EU(欧州連合)の新たな著作権保護の枠組み「EU新著作権指令(デジタル単一市場における著作権)」の修正案12日欧州議会で可決された。

(C) European Union 2018 - Source : EP

6月の委員会では可決、7月の本会議で否決、そして多数の修正を加えた仕切り直しの今回は可決。

「欧州メディア・コンテンツ業界vsシリコンバレーの巨大IT企業」のロビー合戦の果てに、方向性は固まったかに見える。

様々な問題点が指摘された「コンテンツフィルター」や「リンク税」は、書きぶりをマイルドにしつつも大枠は維持したまま、今回の修正版でも盛り込まれている。

ただ、これらの規定は本当に機能するのか?

改めてそんな疑問の声も上がっている。

●賛成438、反対226

投票総数703、賛成438、反対226、棄権39。

欧州議会本会議で12日に行われた新著作権指令案の投票は、こんな結果になった。

7月の同じ本会議の採決では、総数627で賛成278、反対318、棄権31。

この時は30票差という僅差で否決されたが、今回は200票差以上という、ほぼダブルスコアで逆転可決されている。

ポリティコによると、7月には賛否で分裂した議会最大会派(221人)の保守系「欧州人民党グループ(EPP)」が、今回はほぼ改正案賛成でまとまったことが、大きいという。

ただ、個別の条文への賛否を見ると、「コンテンツフィルター」(13条)では賛成366、反対297、棄権40、と賛否の差はぐっと縮まる。

今後は、次の段階であるトリローグ(欧州理事会、欧州議会、欧州委員会の三者交渉)へと進み、合意が得られれば、来年1月にも改めて本会議で採決。

これを受けて、28の加盟国が新指令に基づいて各国の個別法制定の手続きに入る予定だ。

●「コンテンツフィルター」と「リンク税」

EUの新著作権指令案で、一貫して議論の的になってきたのは、「コンテンツフィルター」(13条)と「リンク税」(11条)の規定だ。

※参照:P・マッカートニー対ネットの父、EU新著作権指令案"否決"の背景(07/08/2018)

特に、ポール・マッカートニー氏やプラシド・ドミンゴ氏といったクリエイター側(改正案賛成派)と、「インターネットの父」でグーグル副社長のヴィントン・サーフ氏や「ウェブの父」でワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)ディレクターのティム・バーナーズリー氏といった、インターネットコミュニティ側(反対派)の対立が先鋭化したのが、「コンテンツフィルター」の問題だった。

「コンテンツフィルター」とは、新著作権指令案の反対派による呼び名。当初の条文では「コンテンツ認識テクノロジーの効果的な利用」といった文言があり、著作権侵害コンテンツを覚知し、自動削除するようなフィルタリングシステムをイメージさせたことから付けられた名称だ。

13条のタイトルは「ユーザーによってアップロードされる大量の作品その他の素材を保存し、アクセスを提供するオンラインコンテンツ共有サービスプロバイダーによる保護コンテンツの利用」。

タイトルにあるように、13条の主眼は、ユーチューブのようなユーザー投稿型のコンテンツ共有サイトにおける、著作権侵害コンテンツの排除と、著作権者に対する適切な報酬の分配だ。

このような仕組みとしては、著作権者が自分の著作物を登録し、それを閲覧できないようにしたり、それによる収益を確保するなどの指定ができるユーチューブの仕組み「コンテンツID」がある。

ただ、投稿コンテンツに対して誤った判定をするケースがある一方、同種の仕組みの構築には多額のコストがかかる、などの問題点があった。

このため13条に対しては、「著作権法で認められた引用などの利用も排除させる可能性がある」「コンテンツの監視・削除システムは中小事業者に過大な負担になる」などと指摘されていた。

今回可決された条文は、7月に否決された条文から、骨格そのものは大きく変わってはいないが、批判点の書きぶりがマイルドになっている。

13条では、(1)共有サイトは著作権者とライセンス契約を結ぶ(2)共有サイトはユーザーによる投稿コンテンツがライセンス契約の内容を遵守するよう責任を負う(3)共有サイトはユーザーによるコンテンツ削除などへの不服申し立ての手続きを用意する、といった点を規定する。

さらに、13条bとして、ユーチューブのような共有サイトとは別建てで、「自動化による画像参照を提供する情報社会サービスによる保護コンテンツの利用」を規定。

アグリゲーションサービスなど、大量のサムネイル画像を自動的に表示するサイトについても、要求のあった著作権者とはライセンス契約を結び、適切な補償をするものと規定している。

さらに、「リンク税」と呼ばれる11条「報道出版物のデジタル利用に関する保護」。

11条1はこう規定する。

(複製権や公衆送信権を)報道出版物の出版者に認め、情報社会サービスプロバイダーによるそのデジタル利用に対し、公平で適切な報酬を得られるようにする。

グーグルなどのニュースのアグリゲーションサービスを提供する事業者(情報社会サービスプロバイダー)から、報道メディアがニュース利用の対価を得られる権利を規定したものだ。

「ニュースのリンクへの課金」をイメージさせ、ネット上の情報共有への萎縮効果が懸念されたことから、反対派により「リンク税」という名称がつけられた。

7月に否決された時の条文と、今回の条文とではほとんど内容に変化はない。

前回は、11条はリンク全般には及ばない、とする条文が「ハイパーリンクの行為には及ばない」だったのが、今回は「個別の文言を伴う単なるハイパーリンクには及ばない」と変更されたぐらいだ。

●機能するのか?

現段階の新著作権指令案の条文には、「コンテンツフィルター」「リンク税」の運用面、技術面については、一切書き込まれていない。

ガイドラインや各国の法制化を待たないと、これらの規定が具体的にどのようなものになっていくのか、イメージするのはなかなか難しい。

13条3では、新指令の施行日までに、ステークホルダーの協議の場を設け、ガイドラインを整備するなどと定めている。

ここで、技術的な仕様や著作権者に対する料率などが見えてくるのだろう。

ただ、11条の「リンク税」に関しては、明確な失敗の前例がある。

「リンク税」と同様の試みは、かつて「グーグル税」と呼ばれていた。

※参照:海賊党レダ議員がEU"グーグル税"、著作権改革を批判する(08/28/2016)
※参照:"グーグル税"は欧州全域に広がるのか? 著作権改革文書が流出(11/08/2015)
※参照:"グーグル税"はメディアにどれだけのダメージを与えたか(08/02/2015)

グーグルニュースなどのアグリゲーションに対し、メディア業界にはニュースコンテンツへの「ダダ乗りだ」との不満が根強くある。

「リンク税」の議論は、この不満に端を発する。

この対立の構図が、グーグルとの実際の衝突へと発展した事例として、広く知られるのが、ドイツとスペインだ。

ドイツでは2013年、アクセル・シュプリンガーをはじめとするメディアの後押しで、法改正が成立した。

「副次的著作権」法と呼ばれ、検索結果で記事の抜粋(スニペット)を表示することに対して、使用料を課すという内容だ。

これに対して、グーグル側はスニペットを非表示にするなどして対抗。メディア側は、グーグルの検索結果への表示を拒否するという手段に出たが、2014年11月、アクセスの激減に耐えられずに2週間で表示拒否を取りやめた。

スペインでも、メディア業界の旗振りで2014年10月に著作権法の改正が成立。

ニュース記事へのリンクとスニペットを掲載するアグリゲーションサービスに対して、メディア側が使用料を要求でき、従わない場合には最高で60万ユーロ(約6800万円)の罰金が科される、という内容だった。

これに対しグーグルは、2015年1月の法施行を前に、2014年12月、スペイン版グーグルニュースの閉鎖を表明。結局は、メディアへのトラフィックが減少するという結果を招くことになった。

この経緯を踏まえて、「クオーツ」の記者で、英国政府のジャーナリズムのサステナビリティに関する検討会のメンバーでもあるアクシャット・ラティ氏は、「リンク税」が機能しないシナリオを指摘する。

それは、一部メディアが「抜け駆け」し、グーグルやフェイスブックと"握る"というシナリオだ。

ニュースメディアにグーグルやフェイスブックが誘導するトラフィックの量を考えれば、いくつかのメディアが著作権の主張を放棄することを選び、アグリゲーターに無料で記事にリンクさせる方が、読者を失うよりよい、と考えるかもしれない。

そうなれば、グーグルやフェイスブックは、無料でリンクを許諾するメディアにのみトラフィックを流し、使用料を要求するメディアにはリンクをしない、という立場を取るかもしれない、という。

だからこそ、メディアが団結して交渉に当たる必要がある、と。

●グーグルとフェイスブックの寡占

この著作権指令改正の大きな照準は、グーグルとフェイスブックの広告収入の寡占にある。

世界のネット広告の6割を占めるグーグルとフェイスブック。

その収益の分配を求める著作権者やメディアの要求は、十分な対応を受けてきたとは言いがたい。

EUの5億人を超す市場規模を背景に、今回の指令改正で、それが実現するのか。

もし実現しないとすると、グーグル、フェイスブックが規律する世界と、そこから排除されたコンテンツの世界にインターネットが分断されるのだろうか。

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■新刊『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(朝日新書)

(2018年9月16日「新聞紙学的」より転載)