ウェブページはどんどんと重くなり、表示にはますます時間がかかり、ユーザーのフラストレーションはたまっていく――。
ウェブページは軽いに越したことはない。
昔は1ページあたり200キロバイト(KB)ぐらいが一つの目安で、細かな画像もキロバイト~数百バイト単位で軽量化していたような記憶がある。
だが、現実はどうも反対の方向に進んでいるようだ。
その要因の一つが、狙ったユーザーにピンポイントでネット広告を配信させるため、複雑な仕組みをページに埋め込んだことによるデータ量の増大だ、という指摘がこのところ相次いだ。
そして、モバイル上でその解決策として提示されたのが、フェイスブックの「インスタント・アーティクルズ」とアップルの「ニュース」だと。
肥大化、重量化する外部の広告配信のネットワークを飛び越えて、「ユーザー体験」を理由に、フェイスブックとアップルがそれぞれのコンテンツとユーザー、そして広告を囲い込む。
それはネットにとってどんな意味を持つのか。
●ページが重くなる
ページの重量化に声を上げた一人が、メディアブログ「マンデーノート」の創刊編集長、フレデリック・フィルーさんだ。
フランスのモエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)傘下、ビジネスメディア「グループ・レゼコー」のデジタル担当取締役から転身したメディア人だ。
フィルーさんが指摘するのは、特にニュースサイトの重量化だ。
フィルーさんは、現在のニュースサイトのウェブページデザイナーは、レイアウトやフォントといったそもそものページデザインに加えて、広告やサイト分析、A/Bテスト、その他マーケティングツールなど、様々なコード、ジャバスクリプトをページに抱え込むことになり、どんどんと本来の読者から引き離されている、と言う。
そして、こう述べる。
いつの間にか、パブリッシャーは重要な商品価値を損ねる結果になりつつある:スピードだ。
フィルーさんが、1700語の記事と写真があるニューヨーク・タイムズのページを調べてみると、ページの表示にかかった時間は4分(!通信環境が悪かったのかも知れない)、データ量は2メガバイト(MB)、テキストや画像など、ページの個々のパーツの読み出す(ダウンロード)回数は192回だった。
だが、本文と写真のダウンロード時間だけならわずか5秒。残りは、それ以外の様々なスクリプトの読み込みなどでかかった時間だという。
これに対して、ほぼ同じ文章量の1900語からなるウィキペディアのページでは、表示にかかったのが0.983秒、データ量は168KB、読み出し回数はたった28回だったという。
さらに、広告表示を排除するブラウザーの拡張機能ソフト〝アドブロッカー〟を使って、簡単な実験を行っている(※ユーザーの半数以上が〝アドブロッカー〟を使っている、との調査もあるようだ)。
〝アドブロッカー〟「有り」と「無し」で、個々のパーツの読み出し(ダウンロード)回数と、ページの合計データ量を比較したのだ。
するとサイトによっては、かなり顕著な違いが出てきた。
先ほどのニューヨーク・タイムズは別の記事だが、読み出し回数が320回(通常)から272回(広告ブロック)で15%減、データ量は2MBから1.6MBへと20%減になった。
ただタイムズのケースは穏当な方だった。
英ガーディアンは、読み出し回数355回(通常)から150回(広告ブロック)で58%減、データ量は1.4MBから0.4MBで71%減。
この他にも、英フィナンシャル・タイムズは読み出し回数450回(通常)から160回(広告ブロック)で64%減、データ量も2.2MBから1MBで55%減、ハフィントンポストは読み出し回数が400回(通常)から213回(広告ブロック)で47%減、データ量が2.8MBから1.2MBで57%減。
広告の有無で、ページの読み出し回数もデータ量も、倍近く違うケースが見られたというのだ。
フィルーさんは、パソコン用のウェブとモバイルでも読み出し回数、データ量を比べている。これはある程度予想はつくが、各サイト、モバイルはウェブのほぼ半分程度になっている。
そして、フィルーさんはこう述べる
振り子を効率性とシンプルさへと戻す時だ。ユーザーはそれを求めており、その声に耳を傾けないものには、罰が下されるだろう。
とはいえ、広告配信はサイトのビジネスモデルと直結している。
ユーザー体験と広告配信(とクリエイティブ)の最適解を探すのは、骨の折れる作業になりそうだ。
●モバイルウェブの使えなさ
テックサイト「ヴァージ」の共同創設者で編集長のニレイ・パテルさんは、モバイルの、特にブラウザの〝使えなさ〟に注目。
自身の持つアイフォーン6プラスのブラウザ「モバイルサファリ」を取り上げ、描画スピードの遅さや、メモリー消費などの問題点を指摘する。
そしてモバイルウェブの脆弱さが、アプリ依存を生み、モバイルにおける「ウォールドガーデン(壁囲いの庭)」を生んだのだ、と。
パテルさんが、その象徴的な例と見るのがフェイスブックの「インスタント・アーティクルズ」、アップルの「ニュース」という、それぞれの巨大プラットフォームがモバイル向けに打ち出したニュース配信サービスだ。
両社の動きは、これまでも「フェイスブックとメディアのコンテンツ提携は、モバイルジャーナリズムの実験場になるか」「アップルはニュースの〝音楽配信〟を目指すのか?」などで紹介してきた。
パテルさんは、これら巨大プレイヤーによるコンテンツの囲い込みによって、メディアが自社コンテンツのコントロールを失うだけでなく、外部の広告配信ネットワークも埒外に追いやられてしまう、と指摘する。
またアップルは、次期「iOS9」対応のサファリでは、広告を含む特定のコンテンツをブロックできる拡張機能が搭載できるようになる、と明らかにしている。
囲い込むだけではなく、メディアに対して、自社のウォールドガーデンに〝追い込み〟をかけることにもなりそうだ、とパテルさんは見る。
そして、このモバイルにおける囲い込みが、これまで築き上げてきたオープンなネットを阻害することにならないか、と懸念する。
この状況によって、アップルやフェイスブックのような強力なプレイヤーたちが、そのウォールドガーデンの中にウェブの模造品をつくるようになってきた。しかし、私たちが今、本当に必要なのは、もっと強力で、より強靱なウェブなのだ。
●通信社化するメディア
ワシントン・ポスト出身で新興ニュースサイト「ヴォックス」を立ち上げた編集長のエズラ・クラインさんも、この議論に加わっている。
フェイスブック、アップルの囲い込みの動きを前提に、クラインさんはこんな将来像を描く。
私の予想では、3年以内に、中小も含めた報道機関のニュース配信のスタイルは、自社サイト、モバイルアプリ、フェイスブックのインスタント・アーティクルズ、アップル・ニュース、スナップチャット、RSS、フェイスブック・ビデオ、ツイッター・ビデオ、ユーチューブ、あと少なくとも2、3の主要プレイヤーのサービスを組み合わせるのが一般的になるだろう。最大手のパブリッシャーなら、そのすべてで同時に配信するようになるはずだ。
そしてそれらは、ページの更新データ「RSSフィード」を通じて自動的に各プラットフォームに配信されていくのだ、と。
「RSSフィード」は、ブログの更新通知などに使われてきたデータで、最小限のページ内容を配信する規格だ。
メディア側は一律、RSSフィードによって多様なプラットフォームへコンテンツを配信し、プラットフォーム側で自社のひな型レイアウトにはめ込んでいく。
このため、リッチなページデザインなどをそぎ落とした、まるで通信社の記事配信(ワイヤーサービス)のようなものに、メディアの役割も変わっていくのではないか、とクラインさんは言う。
未来のパブリッシャーは、現在の通信社のようなものになっていくだろう。自社のコンテンツを、コントロールも効かず、デザインも手がけることのない、数多くのプラットフォームへと配信していくのだ。
このところ話題に上る、いわゆる「分散型コンテンツ」という戦略だ。
その利点はフェイスブックなどが抱える膨大な数のユーザーへのアプローチ。
そして課題はメディアブランドの希薄化だ。
その点で、クラインさんはこう指摘する。
自社プラットフォームの読者は、例えその数が(巨大プラットフォームより)少なくても、引き続き重要な存在だ。ゴージャスでインタラクティブな特集はジャーナリズム賞をもたらすかもしれない。(中略)ブランドは重要だし、ある意味で、これからの未来にはさらにその重要度が増すかもしれない。
読者へのリーチとブランディング。
まずは足元の、ページの軽量化が第1歩か。
(2015年7月26日「新聞紙学的」より転載)