〝グーグル税〟はメディアにどれだけのダメージを与えたか

スペインは新聞業界の旗振りもあり、ついにニュースのアグリゲーション(収集)サイトからの罰金つきの使用料徴収、いわゆる〝グーグル税〟を法制化した。

グーグルニュースがメディアの記事を搾取している、との批判は、メディア側に以前からある。

欧州では特にそのことへの反発が強かったが、スペインは新聞業界の旗振りもあり、ついにニュースのアグリゲーション(収集)サイトからの罰金つきの使用料徴収、いわゆる〝グーグル税〟を法制化した。

ところがこの動きを受けて、グーグルはスペインでのグーグルニュースを閉鎖してしまった。

何が起きたか? アクセスの流入口が閉ざされて、ダメージを受けたのはスペイン国内のメディアだった。

スペイン定期刊行物発行人協会(AEEPP)が、その具体的なダメージをまとめた調査報告を発表した。

メディアはプラットフォームとどう付き合えばいいのか、考えさせるデータだ。

●〝グーグル税〟とは

ニュース記事へのリンクと説明(スニペット)を掲載するアグリゲーションサービスに対して、メディア側が使用料を要求でき、従わない場合には最高で60万ユーロ(約8000万円)の罰金が科される、という内容だ。

スペイン新聞発行人協会(AEDE)がその法制化を推進したため、「AEDE法」とも呼ばれる。

これに対してグーグルは昨年12月、翌1月の法施行を前に、スペインのグーグルニュースを閉鎖する、と公式ブログで明らかにした

これにより、スペインのメディアはグーグルニュースに記事を使われることが無くなった代わりに、グーグルニュースからのトラフィックの流入も途絶えることになった。

今回のAEEPPによる報告書は、グーグルニュース閉鎖後、メディアにどのような具体的影響が出ているかを調査会社「NERA」に依頼して調べたものだ。

〝グーグル税〟を推進したAEDEが大手紙中心で35年以上の歴史があるのに対し、AEEPPは中小の新聞社が中心となって2000年に設立された新興団体。

〝グーグル税〟創設に対しては、以前から中小への悪影響を指摘し、反対の立場を取っていたようだ。

●トラフィックの減少と収入減

報告書によると、法施行によって閉鎖したアグリゲーションサイトは、グーグル以外にもいくつか出ているという。罰金の存在でビジネスモデルが立ちゆかなくなり、閉鎖を余儀なくされたようだ。

ネット調査会社「コムスコア」のデータでは、法が施行された今年1月以降、トラフィックが平均で6%減少。特に小規模サイトでの影響が大きく、減少率は14%にのぼるという

さらに様々なデータ推計を実施。

一つは、ユーザー側の損失だ。グーグルニュースの閉鎖によって、ユーザーがニュースを探すために要する時間が増加したことを、経済的損失として換算。スペインのネットユーザーの累計で18億5000万ユーロ(約2500億円)と見積もった。

さらにメディア側の損失として、トラフィックの減少による広告費などの収入減などを算出。約1000万ユーロ(約13億6000万円)と推計した。

また、トラフィックの減少率が小規模サイトで高いことと合わせ、ユーザーは結局、ブランド力のある既存メディアなどの大規模サイトに集中すると指摘。新興サイトがユーザーに接触する機会も奪われ、新規参入のハードルも高くなるとも述べている。

これにより、結果として、メディアのイノベーションと多様性が阻害される危険がある、としている。

結論として報告書はこう述べる。

このような使用料の導入は、競争においてマイナスの影響を及ぼす。それはアグリゲーターの分野だけではなく、ネットのパブリッシャー(発行人)、さらには読者や広告主を含む利用者側にも影響を与えるのだ。

●グーグル対メディア

ニュースの検索を提供するグーグルと、記事の見出しとサマリーを使われる(そしてトラフィックの誘導を受ける)メディアとの対立は、10年ほど前から続いている。

よく知られるのは、2006年から続いた、コンテンツ使用料を求めるベルギーの新聞社グループとグーグルの訴訟

2011年の高裁判決でグーグルが敗訴。判決を受けて、グーグルは当該新聞社の記事を、検索表示から除外した。

ところが、これによって新聞社サイトのトラフィックが急落。あわてた新聞社側は、結局、グーグルと和解し、検索表示は復活した。

同様のどたばたはドイツでもあった。

ドイツの新聞社グループが昨年6月、グーグルに対し、グーグルニュースの広告収入の11%を記事使用料として支払うよう提訴。

ところが10月に入って、グーグルが当該新聞社グループの記事のスニペットを検索表示から削除。

●より複雑化する議論

フェイスブックの『コンテンツ抱え込み』はメディアにとって悪魔の誘いか」「アップルはニュースの〝音楽配信〟を目指すのか?」などでも紹介してきたように、ニュースのプラットフォームは、グーグルだけでなく、モバイルを中心にフェイスブックの「インスタント・アーティクルズ」、アップルの「ニュース」なども次々に登場し、多様化している。

それとともに、メディアはプラットフォームとどう付き合えばいいのか、その主導権を巡る議論も一層複雑さを増してきた。

スペインのケースは、少なくとも何をやるべきでないかを考える、題材にはなるだろう。

(2015年8月2日「新聞紙学的」より転載)

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