「ジャーナリズム」のアンバンドル化が意味するもの

この数カ月、「ニュース」のイノベーションをめぐる話題を目にする機会が、格段に多くなった。人が動き、資金が動き、組織とサービスが目まぐるしく動いているからだ。ひと言でいうなら、「ジャーナリズム」のアンバンドルとリバンドル(再バンドル)という、激しい組み替えが起きている。アンバンドル+リバンドルの動きは、ニュースコンテンツだけでなく、人、組織に及んできている。

この数カ月、「ニュース」のイノベーションをめぐる話題を目にする機会が、格段に多くなった。人が動き、資金が動き、組織とサービスが目まぐるしく動いているからだ。

ひと言でいうなら、「ジャーナリズム」のアンバンドルとリバンドル(再バンドル)という、激しい組み替えが起きている。

アンバンドル+リバンドルの動きは、ニュースコンテンツだけでなく、人、組織に及んできている。

■パブリッシャーとプラットフォームの曖昧さ

キーワードの一つは前回「バイラルメディアに新聞のDNAを埋め込む」でも紹介した「プラティッシャー」。

コンテンツをつくりだすパブリッシャーがプラットフォーム化し、一方でもっぱらアグリゲーションに徹してきたプラットフォームが編集機能を取り込んでパブリッシャー化する――そんな動きを指した、ソーシャルメディア「Sulia」CEOのジョナサン・グリックさんの造語だ。

「ひどい造語だ」と評判は散々だが、パブリッシャーとプラットフォームの境界が曖昧になっていきていることは大事なポイント、とブログメディア「ギガオム」のマシュー・イングラムさんも指摘する。

フェイスブックが3日にスマートフォン用ニュースアプリ「ペーパー」を公開するなど、巨大プラットフォームからのアプローチも目をひく。

そしてこの動きは、パブリッシャーしたプラットフォームの編集責任と透明性など、整理がついていない問題点も抱える。

■「ロックスター」の移籍

アンバンドル+リバンドルを特徴づけるのは、既存メディアの「ロックスター」たちが、続々と新興メディアに足場を移している点だ。

スノーデン事件のスクープで知られる前ガーディアン・コラムニストのグレン・グリーンワルドさんは、イーベイ会長、ピエール・オミディアさんが出資するメディアベンチャー「ファースト・ルック・メディア」に参加。

10日には新メディアの第1弾「インターセプト」をお披露目した。

2012年の米大統領選の勝敗予測を50州すべてで的中させた前ニューヨーク・タイムズのネイト・シルバーさんは、自身のブログ「ファイブサーティエイト」とともに、ディズニー傘下のスポーツチャンネルESPNに移籍。データジャーナリズムの新メディア立ち上げに向けて準備を進めている。

ワシントン・ポストで人気ブログ「ウォンクブログ」を成功させたエズラ・クラインさんは、1月にネットメディアグループ「ヴォックス・メディア」に移籍。やはり新メディア立ち上げのための「プロジェクトX」に取り組んでいる。

ウォールストリート・ジャーナルで人気テックニュースサイト「オールシングズD(現WSJ.D)」を運営していたウォルト・モスバーグさん、カーラ・スウィッシャーさんのチームは1月2日、CNBCと提携したテックニュースサイト「リ/コード」を立ち上げている。

ニューヨーク・タイムズの人気テックコラムニスト、デビッド・ポーグさんのヤフーへの移籍同紙前編集主幹ビル・ケラーさんの新ニュースNPO「マーシャル・プロジェクト」への移籍も、そんな流れの一つだ。

そんな中、ロイター通信のファイナンスブロガー、フェリックス・サーモンさんが、1年前から断続的に掲載している「コンテンツ経済学」で、「ニュース」を取り上げていた。

サーモンさんは、ロイターでブログをかきつつ、ブログメディア「メディアム」にも自身のブログを持っている著名ブロガーの一人だ。

第1部が「広告」、第2部が「ペイメント」、第3部「コスト」、第4部「スケール」、となかなかユニークな視点でコンテンツの世界を整理しているこの連載企画の、第5部のテーマが「ニュース」だ。

サーモンさんは、ネットの中で、新聞などのパッケージメディアのコンテンツがアンバンドル化し、時にはその文脈も見失われる現状を、丁寧にたどっていく。

ポータルサイトがニュースをリバンドルした時代。個々のブログがニュースをアグリゲートし、グーグルを通じてそれが流通した時代。大量のコンテンツを、ユーザーがこまごまと関心領域を設定してフィルターにかけ、パーソナル化した時代。

そしてソーシャルの時代がやってきた。

■無数の編集者がニュースをパッケージ化する

ツイッターやフェイスブックは、操作を徹底的に簡略化し、情報発信のハードルを下げた。それにより、誰もが発信者(ジャーナリスト)であると同時に、誰もがニュースの編集者にもなった。

その結果、ツイッターやフェイスブックは新たな欠かすことの出来ないバンドルツールになった――それによって、ニュースそのものの性質も変えてしまった。ニューヨーク・タイムズを開くとそこに友達の誕生パーティーの写真がが載っていると想像してみよう:それこそが(ニュースの)パーソナル化だ。そしてそれこそが、何百万人もの無給の編集者の手を借りて、フェイスブックがやっていることだ。

ソーシャルメディア上の無数の〝編集者〟による新たなニュースのリバンドル。

今のメディアの生態系を、サーモンさんはそう位置づける。

それによって、これまでは新聞やテレビのニュースには関心の無かった層にまで、友達経由でニュースが届くようになった。ニュースのメディア空間は大きく広がったのだ、と。

そのメディア環境の変化をいち早く捉え、その変化に最適化した新メディアづくりに乗り出す「ロックスター」。そこにビジネスチャンスを見るネットメディア。

ジャーナリズムのアンバンドル+リバンドルが、ここに向けて動き出す。

■ ジャーナリストをアグリゲートする

今はニュースビジネスにとって極めてエキサイティングな時代だ。最近、あるジャーナリストが私にこういった。この8カ月の変化は、過去5年間の変化よりも大きい、と。彼の言うとおりだと思う。その大きな理由は、この変化にテクノロジストたちが参戦してきているからだ:ヴォックス・メディアやメディアムやバズフィードやファースト・ルック・メディアは、数百万ドルを投じて未来のコンテンツ管理システム(CMS)をつくりあげ、そのシステム優位性を駆使してユーザーのアテンション獲得のバトルを勝ち抜こうとしている。

ニューヨーク・タイムズのメディアコラムニスト、デビッド・カーさんの見立てでは、この競争に必要なリソースは2500万ドル。雑誌(5000万ドル)やケーブルネットワーク(2億ドル)の立ち上げに比べれば、はるかに安い、とサーモンさんは言う。

そして、ジャーナリズムの世界の人材の流動も、これまでになくハードルが下がっている、と。資金とスピードに欠ける既存メディア、そして豊富な資金と圧倒的なスピードで物事を動かすネットメディア。

デジタルメディアの企業にとっては、近い将来、様々なウェブサイトを一つのプラットフォームにアグリゲートすることが難しくなったとしても、ジャーナリストたちをアグリゲートする方が簡単になる、というだけのことだ。最も効率的なプラットフォームとユーザーへの最大限のリーチ、そして最高のツール。それさえあれば、人材の獲得と保持では、自然と優位に立つことができる。ただその代わり、伝統的なメディア企業の存続は、ますます難しいものになるのだが。

そうですか。

身も蓋もないが、議論の整理はついている。

(2014年2月20日の「新聞紙学的」より転載)

注目記事