動画にも〝分散型メディア〟の波、米ハフィントン・ポストが「ライブ」終了

米ハフィントン・ポストが、3年半前に目玉プロジェクトとしてスタートさせた生放送チャンネルを他の動画サービスと統合し、事実上終了する。

米ハフィントン・ポストが、3年半前に目玉プロジェクトとしてスタートさせた生放送チャンネル「ハフィントン・ポスト・ライブ」を他の動画サービスと統合し、事実上終了する、とポリティコが報じている

今後は、その分のリソースを、フェイスブックなど外部プラットフォーム上での視聴「分散型メディア」向けの動画制作などに注力するようだ。

メディアサイトのトラフィックの牽引役として、動画の役割がますます大きくなっている。その一方で、動画でもテキストと同じく、ソーシャル視聴、スマートフォン視聴への急激な移行が進んでいることが、方針転換の背景にあるようだ。

●毎日8時間生放送

「ライブ」の開始は2012年8月だった。AOL傘下となってから1年、再スタートを切ったハフィントン・ポストにとっての、目玉プロジェクトだった(※その後2015年6月にはそのAOLがヴェライゾンに買収されている)。

「ライブ」を代表として牽引してきたのは、ハフィントン・ポストの共同創設者で創刊エディターのロイ・シーコフさん

映画・放送業界出身のシーコフさんは、そのコンセプトを「CNNがユーチューブに出会う」と表現していた。

ニューヨークとロサンゼルスにオフィスを構え、スタッフは100人の陣容。

平日5日間、午前10時から午後6時(米東部時間)まで、毎日8時間のノンストップのトークショーは、メディアサイト「マッシャブル」が選ぶ、その年の「イノベーション・インデックス」をメディア部門で受賞するなど、数々の賞を受けてきた。

スタート2年目の2013年には、グローバル展開を打ち出し、国際版「ワールドポスト」を立ち上げ。一方で、ロサンゼルスオフィスは閉鎖している。

ただ、生放送とはいえ、結局、ユーザーの大半は録画コンテンツとして切り出したものを視聴していたようだ。

スタートから8カ月目の2013年3月時点で、月間視聴数は4800万だったが、生放送の視聴はこのうち200万強、リアルタイムの同時視聴数で見ると4万ほどだったという

そして、この〝テレビ型〟の生放送も、メディア環境の変化とともに、曲がり角にきていたようだ。

●共同創設者の辞任

先月、「ライブ」の中心人物で、編集長アリアナ・ハフィントンさんの右腕でもあったシーコフさんの辞任が明らかにされた。

自宅のあるロサンゼルスとニューヨークとの移動が負担になっていた、との理由だという。

その一方で、ハフィントン・ポストはソーシャル対応に大きく舵を切っていた。

昨年9月には、編集主幹のポストに、ニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナルのソーシャルメディアエディターを務めた後、フェイスブックではニュースメディアとのパートナーシップの責任者をしていたリズ・ヘロンさん起用を発表している

フェイスブックが昨年5月からスタートした分散型メディアの震源地、「インスタント・アーティクルズ」の中心人物を、ハフィントンさんの新たな右腕に据えたのだ。

これに先立つ昨年8月には、AOL上級副社長となったジミー・メイマンさんの後任CEOとして、かつてAOLでハフィントン・ポスト買収を手がけた後、音楽配信の「スポッティファイ」で国際事業を担当していたジャレッド・グラスドさんを起用していた。

グラスドさんは、ガーディアンのインタビューで、分散型メディアの潮流を、「ポスト・ソーシャル」という言葉で表現する。

ソーシャルから自社サイトへの流入を主眼とするのではなく、ソーシャルのプラットフォーム上での視聴にシフトする、との意味合いのようだ。

ポスト・ソーシャルとは、多くの点で、1周回って元の場所に戻ったということだ。つまり、AOLやヤフーのようなポータルの中だけであらゆるコンテンツを楽しんでいた、インターネット黎明期のように。(中略)そしてこれは、これまで見たこともない規模のユーザーにリーチできるチャンスを与えてくれる。

●編集長からのメール

1月8日、ハフィントンさんとグラスドさんの連名で送信されたというハフィントン・ポストの社内向けメールを、ポリティコが掲載している。

それによると、現在ある「ライブ」「ニュース」「オリジナルズ」「ライズ(朝のまとめ動画)」の4つの動画ジャンルを、単一のチームに統合する方針だという。

「ライブ」については、3年半で100カ国以上から3万2000人のゲストをまねき、30億ビューに達した、と総括。その上で、メディア環境の変化について、こう述べる。

動画の視聴方法は劇的に変化した。それに伴い我々も、動画をできる限り効果的に配信できるように変わっていこうとしている。毎日8時間の生放送をしながら、共有される動画を切り出すのではなく、拡大する一方の様々なプラットフォーム上で直接共有されるように、動画を制作していくのだ。

今後も、大事件などの際には逐次生放送は実施するとしているが、その際にも「フェイスブック・ライブ」や「ペリスコ-プ」などの外部プラットフォームを活用していく、としている。

そして、この新たな動画プロジェクトを率いるのは、編集主幹、ヘロンさんのチームだと述べている。

●「フェイスブックを注視せよ」

動画の分散型メディア対応に関心を向けているのは、ハフィントン・ポストだけではない。

分散型メディア」への対応では先頭を走り、ハフィントン・ポストの共同創設者でもある「バズフィード」CEOのジョナ・ペレッティさんは、先月開かれたビジネス・インサイダーのイベントで、こう述べている

1年前、フェイスブックには動画のプロダクトは全くなかかった。それが今や、我々に数十億というビューを、また他のメディアにも多くのビューをつくり出してくれる。フェイスブックの〝スーパーパワー〟は常に改良を続け、どんどんといいものになっていく。(中略)

今後数年間で、フェイスブックは動画プロダクトを進化させ、優れた動画、ソーシャル動画、モバイル動画のつくり手たちは、「フェイスブックのプラットフォーム用につくろう」と考えるようになるだろう。フェイスブックがどう進化していくか、我々は注視していく必要がある。

昨年9月の「リ/コード」のイベントで、ペレッティさんは、バズフィード自体のサイトやアプリへのトラフィックは全体の23%にすぎないことを明らかにしている。

最も多いのはフェイスブック上での動画視聴(27%)、次いでスナップチャット(21%)、ユーチューブ(14%)と続き、この3つのプラットフォームだけで6割を超えている。

急成長のバイラルニュースサイト「アップワージー」CEOのイーライ・パリサーさんも、動画に精力を傾けている点では同じ方向性だ。

ポリティコの報道によると、これまで他サイトの動画のまとめ(キュレーション)がメインだったが、独自制作の動画が急速に伸びる中、今月8日付の社内メモで、独自動画をメインに据える戦略を打ち出した

先月の独自動画の視聴は1億6700万ビューで、ほぼ1年前の33倍。今月だけでもすでに6700万ビューに達しているという。

メモでは、分散型メディアへの対応については触れられてはいないが、97人の従業員のうち、14人をレイオフし、そのリソースを独自動画に注力するようだ。

潮目が急激に変わってきていることは感じられる。

(2016年1月10日「新聞紙学的」より転載)

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