「片眼鏡がブーム」ニューヨーク・タイムズの記事をネットで検証する

「今、片眼鏡がリバイバルブーム」ニューヨーク・タイムズの一本のファッション記事が、その真偽をめぐってツイッター上で話題となり、他のメディアも次々参戦する騒ぎに発展した。ネタのテイストも満載、業界のウオッチャー主導の「ネット検証」だ。

「今、片眼鏡がリバイバルブーム」

ニューヨーク・タイムズの一本のファッション記事が、その真偽をめぐってツイッター上で話題となり、他のメディアも次々参戦する騒ぎに発展した。

ネタのテイストも満載、業界のウオッチャー主導の「ネット検証」だ。

■片眼鏡の流行

問題になったのは、3月5日付け(新聞は6日付け)のニューヨーク・タイムズのファッションページに掲載された記事「ミスター・ピーナッツも、おしゃれなヒップスターも―片眼鏡がファッションアクセサリーでリバイバル」。

片眼鏡といえば、米のナッツメーカー「プランターズ」のキャラクターで、シルクハットにステッキ姿の「ミスター・ピーナッツ」。

記事は、それがトレンディーなアイテムとして、リバイバルしているという。

ベルリンのカフェやマンハッタンのレストランなどのトレンディーな場所から、ジンの広告やファッション雑誌まで、片眼鏡は21世紀の重要な装身具として、復活してきている。

...そして、片眼鏡をしたラップミュージシャンや、トレンド専門家が次々に登場し、片眼鏡のトレンドを語る。

■ツイッターで火がつく

ニューヨーク・マガジンによると、 この記事には、掲載から間もなくツイッターで火がついたようだ。

ニューヨーク・デイリーニュースのオピニオンエディターで論説委員のジョシュ・グリーンマンさんは、「ブルックリンに住んでいるが、片眼鏡のヒップスターなんて見たことない」。

ポリティコのコラムニスト、ベン・ホワイトさんも「目の前に片眼鏡がいたら捕まえてやる。一つ目ならもっといいんだが」とツイート。急速にネタ化していく。

ニューリパブリックのライター、アレック・マクギリスさんは、「心配しなくても、片眼鏡をかけた男たちはみんな、ビンテージもののステッキの先から発射した、毒矢が首に刺さっているから」。

テキサス在住のケリー・ライアンさんは、「片眼鏡とグーグルグラスの路上対決を見るのが待ち遠しい」。

■検証に動き出す

さらにプランターズのPR会社を通じて、ミスター・ピーナッツがこの報道にメールでコメントしたというオチまでつけている。「秀でた男の面構えとはどういうものか、理解されてきたということだろう

ネットメディアの「スレート」なども追随し、「ニューヨーク・タイムズのトレンド記事を予測する」と題して「17世紀の貴族が愛用したレース飾りの襟」や「(司法官が着用する)馬の毛のかつら」などを紹介。ネタ扱いは加速する。

ニューヨーク・マガジンはタイムズの過去の記事を検証。この112年間で少なくとも5回の「片眼鏡リバイバル」の記事を掲載していると指摘する念の入りようだ。

さらに調査報道NPO「プロパブリカ」の記者、ロイス・ベケットさんは、データジャーナリズムのスタイルを活用し、ネット上で「片眼鏡の人を見たことがありますか」というアンケート調査まで始めた。

ちなみに、「#monocle(片眼鏡)」のハッシュタグによる、ジャーナリストのツイートをまとめたページまである。

■タイムズ自身が検証する

ニューヨーク・タイムズのパブリックエディター、マーガレット・サリバンさんが、コラムで一連の経緯を検証している。

パブリックエディターとは、読者を代表して、記事への疑問などについて社内の関係者らを取材し、コラムの形で公表していくというポジションのようだ。

今回の騒動では、記事を担当したファッション欄のエディター、デニー・リーさんを取材している。

そしてリーさんによると、この記事は「ジョーク」のつもりだったのだ、という。「(ジョークだと分かるように)大げさな書きぶりにしたんだが」と。

なるほど。

(2014年3月27日「新聞紙学的」より転載)

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