国連がフェイスブックを批判する「ロヒンギャへのヘイト拡散の舞台」

現地オフィスもない国で、フェイスブックは少数民族迫害における情報戦の主舞台として、責任と対応が問われている。

68万人を超えるミャンマーのイスラム教徒ロヒンギャが迫害され、難民になっている問題で、国連調査団代表、マルズキ・ダルスマン氏は12日、国連人権理事会で報告を行い、ヘイトスピーチの氾濫について、フェイクブックを名指しで批判した。

ヘイトスピーチと暴力扇動がソーシャルメディアに蔓延している。特にフェイクブックだ。その大半は何のチェックも受けていない。

By DFID - UK Department for International Development (CC BY 2.0) A young child looks anxiously at the camera as his mum takes him to a clinic to be checked for diphtheria in the Kutupalong camp for Rohingya refugees in Bangaldesh--Taken on January 17, 2018

さらにミャンマーの人権問題に関する国連特別報告者のイ・ヤンヒ氏は、「怪物」という表現も使い、制御不能となっているフェイクブック上のヘイトスピーチの現状について、危機感を表明した。

ロヒンギャへの迫害は「民族浄化の典型例」とされてきた。

現地オフィスもない国で、フェイスブックは少数民族迫害における情報戦の主舞台として、責任と対応が問われている。

この批判に、フェイスブックは「世界をつなぐことが、いいこととは限らない」と、かつてのミッション・ステートメントの負の側面にも言及している。

●「フェイスブックは怪物」

ロイター通信によると、国連調査団代表のダルスマン氏は12日、国連人権理事会での報告の後、報道陣に対し、フェイスブックはヘイトスピーチの氾濫に「決定的な役割を果たしている」とし、こう述べている。

フェイスブックは、言うなれば、民衆の間に、とげとげしさ、あつれき、対立を広げる実質的な要因となっている。ヘイトスピーチは、まず間違いなくその一つだ。ミャンマーにおいては、ソーシャルメディアといえばフェイスブック、フェイスブックこそソーシャルメディアだ。

さらに、特別報告者のイ氏は、その実情について、こう報告している

特にソーシャルメディアにおけるヘイトスピーチは、センシティブな意見、少数派の意見を抑圧する状況にある。今年1月、イスラム教徒の学生が、深夜にヤンゴンの繁華街にいたというだけで、警官に追われ、殴打され、拘束されるという事件があった。この件はソーシャルメディア上で、反イスラム感情による攻撃の発火点となり、その集中砲火がこの学生に向けられた。私自身もミャンマーにおけるイスラム教徒や少数派の宗教の立場を代弁しているため、ソーシャルメディアで、下品で、ヘイトに満ちた、暴力的な攻撃の的になっている。私が繰り返し述べているように、ミャンマーには、国際標準に沿った、差別や対立、暴力の扇動に対処する法律の制定が必要です。

さらに、イ氏も「ミャンマーではあらゆることがフェイスブックを通じて行われる」と、「ソーシャルメディア=フェイスブック」であることを指摘する。そして、報道陣にこう述べている

フェイスブックは公的な情報発信にも使われてきた。だが、極右の仏教僧が自身のフェイスブックページを持ち、ロヒンギャや他の少数派宗教に対し、数多くの暴力やヘイトスピーチを扇動していることも、知られている。

さらに、こう付け加える。

フェイスブックは今や、当初目指したものとは違い、怪物に成り果ててしまったのではないか、と懸念している。

●急増するユーザー

ミャンマーにおける「ソーシャルメディア=フェイスブック」は、そのユーザー数増加にも現れているようだ。

ニューヨーク・タイムズによると、ミャンマーにおけるフェイスブックユーザーは、2014年の200万人から、2017年には3000万人を超えたという。人口5400万人足らずの国で、その存在感は圧倒的だ。

By lirneasia (CC BY 2.0) Buddhist nuns and their phones--Taken on February 28, 2015

フェイスブックはミャンマー国営電気通信事業体(MPT)と提携、データ量制限のない使い放題のフリープランに含まれていることが、その急増を後押ししているようだ。

そして、特別報告者のイ氏が指摘した「極右の仏教僧」とは、反イスラム教徒を掲げる「969運動」を主導する仏教僧アシン・ウィラス氏だ。

ニューヨーク・タイムズによると、イスラム教徒へのヘイトスピーチの中心人物とされるウィラス氏に対し、フェイスブックもページの閉鎖などの対応を取っているという。だが、すぐに新たなページを立ち上げ、ヘイトの拡散を再開するという状態のようだ。

●「世界をつなぐ」ことの問題

国連調査団の批判に、フェイスブック側も反応している。

フェイスブックのニュースフィードの責任者であるプロダクト・マネージメント担当副社長、アダム・モッセリ氏は、ネットメディア「スレート」のインタビューに、こう答えている

世界をつなぐことが、必ずしもいいこととは限らない。時にはマイナスの結果をもたらすこともある。どんなプラットフォームとっても、最大の懸案であり、最も深刻な事態とは、現実の危害が引き起こされることだ。従って、ミャンマーの現地で起きていることは、多くの観点で、深く憂慮している。また、我々としても、いくつかの理由から対応に苦慮しているところだ。

フェイスブックが掲げてきたミッション・ステートメントは、「人々が情報を共有できる、よりオープンでつながる世界の実現」だ。モッセリ氏はミャンマーの問題を引きながら、それがマイナスの結果をもたらすこともある、と認めたわけだ。

ただ同社のミッションは、2017年6月に「人々がコミュニティをつくることができる、より絆の強い世界の実現」に変更されている

モッセリ氏は、ミャンマーの現状とフェイスブックの対応について、こう述べている。

ミャンマーでは、フェイスブックに限らず、一般に偽ニュースは存在する。だが、我々が知る限り、提携先となりうるファクトチェックの第三者機関はない。つまりこの問題には、それ以外の方法で取り組む必要がある。我々は実際に、この問題を重く見ており、問題を引き起こす人物や問題の情報が、利用規約やコミュニティ・スタンダードに違反していないか、それによって問題のコンテンツの拡散に対処できないかを検討していく。また、ユーザーコミュニティの力も借り、クリックベイト(釣り)やセンセーショナルな見出しによるアクセス集めの動機をくじくための、効果的な対応策も検討中だ。

「世界をつなぐ」ことの問題点は、そのフィルターバブルを後押しするアルゴリズムの課題も含め、フェイクニュースなど様々な形で同時多発的に顕在化している。

その対処は、ミッションの書き換えのようには、簡単ではなさそうだ。

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(2018年3月17日「新聞紙学的」より転載)

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