ソーシャルメディア時代の情報の取り扱い方(リテラシー)のガイドブック『あなたがメディア ソーシャル新時代の情報術』(拙訳、朝日新聞出版刊)のPDFを、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示-非営利-継承)により全文公開します。
ベテランジャーナリストで、1999年からのブロガーのさきがけ、現在はアリゾナ州立大学ジャーナリズムスクール教授を務めるダン・ギルモアさんの2011年の著書です。
発行から5年。当時、670万人だったツイッターの国内利用者も今は3500万人に。ソーシャルメディアの急拡大の中で、本書の説く新時代のリテラシーは、ますます重要になってきています。
改めて多くの方に読んでいただければと考えています。
●「みんながメディア」の世界
ギルモアさんは、シリコンバレーの地元紙「サンノゼ・マーキュリー・ニュース」の元看板コラムニスト、ベンチャー起業家、投資家、さらには「表現の自由」推進のアクティビストなど、ネットとジャーナリズムをつなぐ多彩な活動で知られています。
ギルモアさんは、ブログなどのソーシャルメディアの登場によって、ジャーナリズムはトップダウンの「講義」型から、読者との「会話」型へと変化していったと指摘しています。
さらにその読者も、ニュースの「消費者」から、ニュースの「参加者」、さらには「発信者」となり、ギルモアさんの言葉でいえば〝元読者〟へと変貌を遂げている、と。
フェイスブックに投稿し、ブログやコメントを書き込み、写真やビデオをアップロードしている時、私たちはある程度、メディアのクリエーターになっている。
ソーシャル化したメディア空間は、ジャーナリストも〝元読者〟も、ともにニュースを発信者であり、受け手となる「みんながメディア」の世界。
そこでは、これまでの情報の扱い方(リテラシー)のアップデートが必要となります。
そんな〝元読者〟たちに向けたハンドブックが、この『あなたがメディア』です。
●メディア消費の5つのルール
ギルモアさんは、メディアの消費者として、さらにメディアのつくり手として、それぞれ5つのルールを掲げています。
いずれも、ギルモアさんのジャーナリストとして、ブロガーとしての体験に基づく実践的なルールです。
まずは、5つのメディア消費のルール。
疑ってみる:私たちは今や、メディアから受け取るどんな情報も、信頼できるものとしてうのみにはできない。
自分で判断する:私たちは自分自身の頭で、慎重な判断をする必要がある。
視野を広げる:物事をよりよく理解するには、新たな切り口や、自分の見立てに反する視点を与えてくれる情報源を探し出し、耳を傾ける必要がある。
質問をし続ける:正しい判断を導き出すには、規模の大小を問わず、常に調査を繰り返す必要がある。
メディアの手法を学ぶ:多くのデジタルメディアに囲まれている今、それがどう機能するのかを知っておくのは重要だ。
●メディアづくりの5つのルール
メディアのつくり手としても、5つのルールを掲げています。
徹底的に:できる限りの情報収集を。デジタルの世界にはそのための無限のツールがある。
正確に:正確さは信頼される情報の出発点。事実関係を確かめよ。さらに、もう一度、全部。
公平に礼儀正しく:多様な意見、会話を通じて公平性を保つことができる。会話のルールは、礼儀正しさ。
独立して考える:現実に起きていることを、独立した立場で問いただすには、いったん自分に心地よい価値観を抜け出し、自らを検証してみることも必要だ。
透明性を保つ:できる限り隠し立てをせずに透明性を増せば、信頼は向上する。自らの報道姿勢とその判断についての説明責任を果たすことにもなる。
●行動するメディアクリエーター
『あなたがメディア』の原題は〝メディアクティブ(Mediactive)〟。
新たな時代のリテラシーを身につけ、社会を変えていく、〝行動する(アクティブ)メディアクリエーター〟を指す、ギルモアさんの造語です。
スマートフォンを手に、気の向いた時に、気の向いたページから目を通してみて下さい。
そこには、ソーシャル時代のメディアの扱い方について、様々なヒントがあるはずです。
●最初の著書も
今回の全文公開は、著者のギルモアさん、装幀の熊澤正人さん、版元の朝日新聞出版の許諾のもと、実現しました。ありがとうございました。
ギルモアさんの最初の著書『ブログ 世界を変える個人メディア』(2005年、拙訳、朝日新聞社刊)のPDFも、同様の許諾、ライセンスのもとで全文公開をしています。
こちらも是非どうぞ。
(2016年5月12日「新聞紙学的」より転載)