「最下位の職業」新聞記者のサバイバルに必要な、シンプルな4つの心得

「デジタル・ファースト・メディア」のデジタル移行プロジェクト「サンダードーム」は、そんな新聞業界をリードする最先端の試みとして、広く注目を集めた取り組みだ。

米国のキャリアサイト「キャリアキャスト」が毎年公表している「職業ランキング」の最新版で、200業種中、最下位となったのは「新聞記者」だった

この数年、199位と200位を行ったり来たりしている。

そんな業界の苦境を象徴したのが、鳴り物入りでスタートしながらちょうど1年前に頓挫した米大手新聞チェーン「デジタル・ファースト・メディア」のデジタル移行プロジェクト「サンダードーム」だった。

ところが、メディアサイト「ポインター」の取材によると、この時解雇されたプロジェクトメンバー約50人のほとんどが、メディア業界で新たな職場を手にしているという。

そして、そんなサバイバルには、シンプルな4つの心得があるのだ、と。

●200位の職業

キャリアキャストは2009年からこのランキングを公表。政府発表の統計データをもとに、職場環境、収入、成長可能性、ストレスなどのポイントから順位を算出しているという。

新聞記者は2009年には140位(1位は数学者、200位は木こり)だったが、以後、2010年は184位(1位は保険数理士[アクチュアリー])、200位は港湾労働者)、2011年は188位(1位はソフトウエア・エンジニア、200位は港湾労働者)、2012年は196位(1位はソフトウエア・エンジニア、200位は木こり)と順位を下げ、2013年はついに200位(1位は保険数理士)に。

2014年には199位(1位は数学者、200位は木こり)と最下位は脱したが、2015年は再び逆戻り(1位は保険数理士)してしまった。

木こりと記者の最下位争いというのも、奇妙な取り合わせだが、パルプ製造の上流(伐採)と下流(新聞紙の印刷と配送)という意味では、関係業界とも言える。

ネットの広がり、紙の部数減、広告収入減などの要因が、200位というランキングに効いているようだ。これらのデータが、業界の収益や先行きの見通しに影響するのは、いたしかたのないことではある。

2015年の1位の保険数理士は中堅クラスの年収が94,209ドル(1120万円)なのに対して、200位の新聞記者は35,267ドル(430万円)と、3倍近い開きがある。

●最先端プロジェクトの頓挫

「デジタル・ファースト・メディア」のデジタル移行プロジェクト「サンダードーム」は、そんな新聞業界をリードする最先端の試みとして、広く注目を集めた取り組みだ。

「サンダードーム」は、全米および国際ニュースを一括して、ニューヨークを拠点とする編集部チームと外部の提携メディアのコンテンツでカバーし、傘下の新聞社(のサイト)に配信する〝グループ内通信社〟の仕組みだ。

それによって、スケールメリットを生かした取材・配信の効率化ができ、各ローカル紙は地元のニュースに専念できる、という設計だった。

さらに、データジャーナリズムの手法も駆使した、新たなデジタル表現にも挑戦し、20世紀型の報道局を、デジタル時代に最適化した組織に生まれ変わらせる――「サンダードーム」は、世界中の新聞社が知りたがっている、そのノウハウの実験台だった。

だが、プロジェクトは昨年4月、突然、頓挫する。

『デジタルファースト』全米2位の新聞社の戦略はなぜ頓挫したか」でも紹介したが、プロジェクトは目に見えた収益増にはつながらず、ヘッジファンドからのコスト削減の圧力の中で、50人を超すチームは解散。全員解雇、となったという。

●メンバーのその後

「サンダードーム」の頓挫から1年、「ポインター」のクリスティン・ヘアーさんは、50人を超すメンバーのその後の消息をたどっている

そして、そのほとんどが今なおジャーナリズムの世界で仕事を続けているのだと。

ヘア-さんがあげる企業名はこんなところだ。

タイム、ESPN、マーシャル・プロジェクト、グリスト、ヤフーファイナンス、ラスベガス・サン、エスクァイア、フェイスブック、ロサンゼルス・タイムズ、フュージョン、ファースト・ルック・メディア、ガーディアン、コンデナスト、NPR、ニューヘブン・レジスター、ニューリパブリック、ストーリーフル、ニューヨーク・タイムズ

業界にリストラの嵐が吹き荒れている中で、これだけの再就職先が決まったというのは、驚きだ。

ただ、すでに紹介したように、「サンダードーム」というプロジェクトのノウハウは、デジタルとジャーナリズムという、まさに各メディアが直面する課題への挑戦だった。

そのメンバーへの需要は、かなり高かったということのようだ。

●4つの心得

「サンダードーム」のその後をまとめた「ポインター」のヘアーさんは、この混乱を乗り切った元メンバーらのインタビューから、サバイバルのための心得をまとめている

1:これに慣れよ

ジャーナリズムが大激変の渦中にあることは、誰もが知っている。だったら、それに備えつつ、慣れるしかない。

今はヤフーファイナンスのエディターを務めるミーナ・シルベンガダムさんは、「常にリストラに備えよ」という。

預金口座にしっかり積み立て、ネットワークづくりとその強化、履歴書の更新を怠らず、常にアンテナを張り巡らせておくこと。

「デジタル・ファースト・メディア」の編集長として、「サンダードーム」をリードした中心人物、ジム・ブレイディさんはこう述べる。

もはや、何が起きても驚かないことだ。もし仕事を手にして、「ここでこれから10年、根を下ろして働くぞ」と言うなら、それは全くの勘違いだ。

2:人に優しく

狭いジャーナリズム業界、互いにつながり、助けあい、優しく接することは、生きていく上で、とても大事なことだ、と。

実際に、「サンダードーム」のチーム解散前には、メンバー同士で互いに就職先探しに協力したり、面接の練習をしたりしていたようだ。

3:リスクを取る

ここでもブレイディーさんが、端的にあるべき振る舞いを述べる。

イノベーティブに、アグレッシブに、新しいことに挑戦せよ。失敗を恐れるな。人々が求めているのは、オプティミズムだ。

4:くじけない

ファースト・ルック・メディアに再就職したキム・ブイさんの、こんな言葉を紹介している。

失敗やリストラがあったとしても、それは、終わりではない。何か新しくてクレイジーなことに挑戦するきっかけだ。

●47歳からの再出発

ちなみに、ジム・ブレイディさんは、再就職ではなく、自らメディアを立ち上げたのだという。

メディアアナリストのケン・ドクターさんが、ニュースサイト「キャピタル・ニューヨーク」で紹介している

ワシントン・ポストのウェブサイト立ち上げなどを手がけてきたブレイディーさんが取り組むのは、フィラデルフィアを拠点に、ミレニアル世代と呼ばれる10~20代の若者向けの、モバイル発信を中心としたローカルメディア「ビリーペン」だ。

47歳のブレイディーさんは、全米第2位の新聞チェーン編集長から、20代を中心とする5人のスタッフとともに、新たなメディアベンチャーに乗り出している。

サバイバルの心得を、自ら実践しているとも言える。

新聞業界だけではなく、自分のキャリアを、改めて見直す参考になるかもしれない。

(2015年4月19日「新聞紙学的」より転載)

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