ツイッター遮断にグーグル活用で対抗したトルコのネットユーザー

トルコ政府が20日、国内のツイッターへのアクセスを遮断したようだ。大規模汚職事件に絡み、エルドアン首相が息子に資産隠しを指示した会話と見られる音声データがネットに流出、ツイッター経由で拡散したことへの対抗措置のようだ。

トルコ政府が20日、国内のツイッターへのアクセスを遮断したようだ。

大規模汚職事件に絡み、エルドアン首相が息子に資産隠しを指示した会話と見られる音声データがネットに流出、ツイッター経由で拡散したことへの対抗措置のようだ。

だが、ネットの遮断があまりいいアイディアではなく、容易でもない。それを一番わかっていたのは、トルコのネットユーザーだったようだ。

遮断の回避方法は、あっというまにネットで共有され、米ツイッター社も側面支援に乗り出した。

対抗策の一つが「グーグル」の活用だった。「ヴァージ」などの各メディアが報じている。

●ネットを遮断する方法

ネットのアクセスを遮断するのには、様々な方法がある。

一つは、国内すべてのインターネット接続業者(ISP)に、強制的に遮断を行わせる方法。これは実際に、2011年2月に退陣に追い込まれたエジプトのムバラク政権が行った手法だ。

ただこれが可能になるためには、ISPの数がある程度限られていて、強権発動が可能な政治体制であることが必要になる。また、海外との通信ができなくなることにより、企業の経済活動が阻害され、莫大な損害が発生するという副作用も覚悟しなければならない。

この遮断を巡って、ムバラク元大統領らには、70億円を超える罰金支払い命令の判決も下されている。

これに比べればややマイルドな方法が、DNSブロッキングだ。

●ブラックリストで遮断する

インターネットでウェブサイトにアクセスするとき、一般的なのはブックマークや検索サービス経由だろう。

ただ、ブラウザのアドレスバーに「http://www.kantei.go.jp/」(首相官邸)のようにアドレス(URL)を打ち込むことでもアクセスできる。

このアドレス(ドメインネーム)は、まさにネット上の〝住所〟のようなもので、人間には理解できるが、コンピューターには理解できない。そこで、このアドレスをコンピューターに理解できる〝電話番号〟のような「IPアドレス」に変化する仕組みが介在する。

これがDNS(ドメインネームシステム)と呼ばれるものだ。このシステムは、あらゆるドメインネームとIPアドレスの対応表を保存している。

例えば、「www.kantei.go.jp」であれば、「202.232.86.11」というIPアドレスに変換。この数字をもとに、首相官邸のホームページのサーバーとの通信を仲介する。

DNSブロッキングとは、この対応表の中で、特定のドメインネームをブラックリストとして指定し、IPアドレスへの変換を行わないという方法だ。

インターネットのアクセス全体を止めるわけではないので、影響はある程度、限定される。

●遮断を回避する

トルコ政府が取ったのは、このDNSブロッキングだったようだ。つまり、ブラックリストにツイッターのアドレスを指定し、アクセスを妨害したわけだ。

ところが、ネットを使い慣れたトルコのユーザーは、街中にこんな落書きをし、その画像がネットを通じて拡散されたようだ。落書きには、こう記されている。

「DNS:8.8.8.8」

通常、ネットユーザーが使うDNSサーバーは、契約先のISPのものだ。

だがグーグルはこれとは別に、2009年末から、ネット接続高速化のために「パブリックDNS」という無料サービスを開始している

「ドメインネーム→IPアドレス」の変換を、グーグルが高速に一括して行うというものだ。

このサービスを利用するには、パソコンやスマートフォンの設定ページで、DNSサーバーの指定欄に、「8.8.8.8」というグーグルのサーバーのIPアドレスを書き込むだけでいい。

街中の落書きは、そのIPアドレスを告知していたのだ。こうすることで、トルコ国内のISPではアクセスできないツイッターも、DNSブロッキングを迂回して、難なく利用できるようになる。

●ツイッターの側面支援

ツイッターも側面支援に乗り出した。

DNSブロッキングにはひっかからない、ショートメッセージ(SMS)経由でのツイッター投稿を呼びかけたのだ。

ちなみに、2011年のエジプトのネット遮断では、グーグルとツイッターが協力し、音声回線を使ってツイッターに投稿できるサービス「speak2tweet」を立ち上げている

強権的な政権は、情報の広がりが力を持つと、ネットののど元を締め上げれば片がつく、と誤解しがちだ。

だが、現実には、そう簡単ではない。賢いネットユーザーは、世界中、あちこちにいる。

※【追記4】25日8 :30更新

ニューヨーク・タイムズによると、3300人のジャーナリストが加盟するトルコ・ジャーナリスト協会が24日、アンカラの地方裁判所に対し、政府のツイッター遮断は憲法と欧州人権条約が保障する「情報の自由(freedom of information)」を侵害するとして提訴。また、ネット規制が専門の2人の弁護士も、同趣旨の訴えをトルコの憲法裁判所に起こしたという。

※【追記3】23日18:30更新

ネットセキュリティの「レネシス」は、ツイッターのIPアドレスがトルコの複数のISPによってブロックされている、と伝えている。

※【追記2】23日9:00更新

トルコの英字紙「ハリエット・デイリー・ニュース」の記事「トルコがネット検閲を拡大」によると、トルコ政府は22日早朝からグーグルDNSへのアクセスもブロック。ツイッターにアクセスできるのはVPN経由のみ、とネットユーザーらが指摘しているという。

また、ウォールストリート・ジャーナルは、トルコ政府が汚職疑惑をめぐるコンテンツをユーチューブから削除するよう求めたのに対し、グーグルがこれを拒否した、と報じている

※【追記1】22日17:00更新

テックニュースサイト「ベンチャービート」などによると、ツイッター遮断以降のツイート数は、遮断以前に比べ、減るどころか、逆に38%の増加に。「ガーディアン」によると、その総数2500万ツイートは、トルコのツイート数の記録になったという。

また、グーグルでスパム対策チームを率いるマット・カッツさんも、グーグルDNSのアドレスをツイッターで紹介していた。

これを見ると、SMSやグーグルDNSだけでなく、通信を暗号化する無料のVPN(仮想プライベートネットワーク)アプリによる遮断回避も行われていたようだ。

(2014年3月22日「新聞紙学的」より転載)

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