アメリカとインドの向こう-TechNW2016キックオフセッション(7)

トランプ次期大統領になると、大量に優秀なエンジニアを受け入れてきた米国のIT産業が打撃をうける可能性があると波紋が広がっています。

Deloitte Touch Tohmatsu Indiaの安井 啓人さんの帰国を狙って開催した「いまだからエレクトロニクス、変わるエレクトロニクス! テクノロジー × ビジネス - エレクトロニクスの新世界」の後、折しも米トランプ次期大統領の誕生が発表された翌日の11月10日に、インド、モディ首相が来日しました。

日本政府は、昨年2015年12月にインド西部ムンバイ―アーメダバード間の高速鉄道に総事業費約9800億ルピー(約1兆8000億円)で新幹線方式を採用することに合意しています。

そこで印モディ首相は日・安倍首相と11月11日の首脳会談で工期を詰め、2023年に開業することを決めました。11月12日には、揃って東海道新幹線で神戸市の川崎重工業を訪れ、新幹線の車両組み立て工場を視察しました。これにより、安倍首相はインドの他路線でも新幹線導入を促すよう乗り心地や性能をアピールする"トップセールス"を行った(引用:読売新聞)、「首相、異例の新幹線トップセールス」(引用:朝日新聞)と報じられています。

モディ首相は"Make In India"(メイク・イン・インディア)政策のもと、「インド経済は製造業と投資の集積地になることを目指している。日本は不可欠なパートナーだ」(引用:Thomson Reuters 2016)述べ、神戸訪問の模様を自身のFacebookに投稿してアピールしています。

インド人が生みだす発明を、最も積極的に特許取得、知財の創造に取り込んできたのはアメリカ企業ですが、トランプ政権下の先行きは不透明。トランプ次期大統領は選挙活動時、移民政策について、大学卒業(学士)以上に相当する学歴と専門職としての雇用内定を持つ外国人の就労ビザ「H-1Bビザ」制度を廃止するという公約(参照:2016年11月15日 ITpro)を発表しています。これが実行されれば、インドからH-1Bビザで大量に優秀なエンジニアを受け入れてきた米国のIT産業が打撃をうけると、波紋が広がっています。

ITや半導体だけでなく特許取得の分野でもアメリカの後塵を拝してきた日本企業が、秩序が変わるこのタイミングで這いあがれるか、注目されます。

安井さんが述べた、新興国の社会課題につながる"同質化"による競争戦略を考えると、年間約15万人が交通事故で死亡し膨大な経済損失を数えるインドへの新幹線の輸出は、今はWin-Winの構図とみられます。しかし、トップが変われば簡単に反故にされる可能性がある"トップ営業"のリスクを考慮すると、新幹線そのものをインドのニーズで進化させるリバースエンジニアリングが必要となるのではないでしょうか。

イタリアでは、旧国鉄のTrenitaliaが、鉄道運行に車両のメンテナンス予測データを活用してサービス改善するという、ヒト・モノ・コトの連動で変革して、シェアリングエコノミーの代表格Uberに対抗しながら運輸業界で勝ち残ろうという計画です(参照:2016年11月4日 DIAMOND online)。日本の新幹線が技術的に優れているとしても、異質化から同質化のスピードは早いか遅いかの問題でいずれやってくる、差別化できなくなる、と考えられます。そうなると、イタリアTrenitaliaのように、既存の運行方法や産業の枠組みを超えるチャレンジ、長期的な視野でリスクをとって変革を起こす行動力が必要となるでしょう。これは、過去30年間で勝敗を分けた日本産業の勝ち組、自動車も同様で、新たな世界秩序下のサプライチェーン再構築に備えた取り組みが求められるでしょう。

IoTのつまづきから立ち直ろう

IoTのつまづき、と表現されたマネタイズの問題は、企業間取引、BtoBの分野で利益を出せるかにかかっているとみられます。そして今、BtoBのマーケティングでは、ターゲット企業(アカウント)の定義とアプローチを最適化するアカウントベースドマーケティング(ABM)が注目されています。マーケティングがモノを売るための取り組みから、個人・企業・社会の課題発見・解決へと進化したといわれるなか、最新のキーワード、ABMがテクノロジーの発展にどのような考察をもたらすか、興味深いところです。

筆者がボランティア運営委員を務める次世代マーケティングプラットフォーム研究会では、12月2日にBtoBマーケティング、ABMをテーマに第10回総会を開きます。よろしければご参加ください。

本記事はコウタキ考の転載です。

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