フォトブログ―福島第一原発汚染水設置現場 2011年8月

技術者を多数抱える企業が長期的に原発事業から売上を得られないとしたら、その人材を放出せざるをえない。こんな状態では、いくら技術的に英知を集めたとして、現場で実行する母体がその前に潰れてしまう。現場の努力に応えられるようなまともな組織を皆でつくらなければいけない。
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福島第一原発汚染水設置現場2011年8月

写真は2011年8月上旬に撮影した福島第一原発の汚染水設置現場の写真である。私が入構した当時の写真を見返していたら、汚染水漏れのあったタンクと同形のタンクの設置時期であったことを思い出した。写真の有用性は分からないが、当時はまだメディアの取材が許されていない東電から一方通行の写真しか存在しなかった。何かの参考になればという想いと、当時の状況について思い出しながら、自分なりの今の思いを書いてみる。

当時、タンク設置業者に直接話を聞く事は出来なかったが、あの頃から現在に至るまで私が出会った作業員のほとんどが口にする事は、現場からの改善要求に対し、東電がコストの問題を理由に対応しないということだった。現場作業効率化による被曝低減、資材や機械導入に対する提案。現場にいる2、3次以降の下請業者が元請、東電と改善要求をしていくどこかの段階で、その話は活かされないまま消えていった。(中には東電社員が積極的に改善に関わっている現場もあったが、小額案件であった。)

当時は、私自身、東京電力に対する苛立ちを感じていたが、冷静に考えると企業として、当然のコスト低減を行っているだけだと今は思う。負債しか生まない事業に資金を大量に投入するなんて、そんなことを企業が出来るわけが無い。 世界的な大事故とは言え、利益を上げる事を優先せざるをえない株式会社が、その為の経営的判断を行っているに過ぎない。そう思う。金子勝教授が良く仰っていることかもしれないが。

私の前職は金融業界の営業マンである。京都南部と滋賀県全域の新規開拓を担当していた。営業のいろはで基本中の基本は、口説き落とすべき人間、キーマンを知るということであった。現場からの改善要求に対し、東京電力が1台数億の建機を導入するとしたら、その決済権限は誰が持っているのか。現場決済なのか、役員クラスまでの決裁になってしまうのか。そのキーマンを誰かが口説き落とさない限り、せっかくの提言は無駄に終わってしまう。

しかし、この状況下で積極的に予算を割ける人間が東電の中にいるのか。それはいないだろう。福島第一原発がいくらかでもお金を生み出す事業であったのなら、それは可能になるのかもしれない。しかし、利益を生み出さない以上、この現場に割ける予算には限度がある。キーマン不在のまま、現場からは切実な要求があがり続ける。そんな状況ではないだろうか。そして、そんな状況を強いているのは、本来キーマンに名乗りを上げなければいけない国である。多重下請け構造のトップにいる東京電力を口説き落とすことが不可能だとしたら、それは変えるしか無い。

それを行わなかった影響が今回の汚染水漏れの公表の遅れ、対応の遅れをはじめとする度重なる「不測」の事態である。(現場作業員がずっと前から指摘してきたことが大半であると思うが。)しかし本来であるならば、国が事前に抜本的な介入をすべきであった。それは、汚染水問題に対し、国が前に出る程度の「消極的」な話ではなくて、全ての事業に置いて国が積極的に前に出なければならない。

国は多重下請け構造のもと東京電力が発注し、競争入札で収束作業が進行するという異常な構造、 現在のほとんどの問題の諸悪の根源であるこの収束事業の構造に介入しなければいけないはずであった。汚染水問題に技術的に改善がなされたとしても、問題が生み出される構造が変わらない以上、場当たり的な対応以外の何者でもないことは明らかだ。 資金の流れ、管理体制、その構造自体を変えなければいけない。

先月、ある3次下請けの企業の危険手当が半分に減額された。(具体的な額は企業の特定を防ぐため避ける。)その原因は、競争入札案件を取る為のコスト削減策として、下請企業の危険手当を元請が削減したからであった。もはやその額は除染作業員の危険手当を下回る。

また、競争入札に変更されて以降、収束現場は、これまで原発産業に関わりのなかった企業も多数参入して受注競争にしのぎを削る、純粋なビジネスの場の様相を呈している。当然ながら、人材コストの高いメーカー系やこれまで原発産業で仕事をしてきた競争力の弱い地場の中小零細企業が案件を受注出来ないという、長期的な人材確保を考えれば、あってはならない状況が起きている。技術者を多数抱える企業が長期的に原発事業から売上を得られないとしたら、その人材を放出せざるをえない。こんな状態では、いくら技術的に英知を集めたとして、現場で実行する母体がその前に潰れてしまう。

現場の努力に応えられるようなまともな組織を皆でつくらなければいけない。早くしないと本当に取り返しのつかないくらい大きな負債を子ども達に残してしまう。

小原一真講演会/写真展情報

■写真展「見えない風景」■

被災地に生きる人々、福島第一原発作業員のポートレート、インタビュー。原発の輸出される村の生活を追った写真等約70点を展示。

会期:8.29(木)-9.4(水)

入場料:無料

時間:10:00~20:00(29日は17:00~/4日は17:00まで)

場所:広島県民文化センター/広島市中区大手町1丁目5-3

・写真展関連イベント

(1)写真展ギャラリートーク 8月29日(木)18:00~ 展示写真を小原本人が紹介します(参加無料)

(2)取材報告会:8月31日(土)13:30~16:00(入場13:00~) 福島第一原発で働く作業員とその家族の想いをインタビュー動画で紹介。その他、福島に関する最新の取材報告。

場所:広島市まちづくり市民交流プラザ北棟5階 研修室 500円(資料代として)

広島市中区袋町6番36号

東日本大震災復興チャリティライブ "Power of Tap"

9.1(日)東日本大震災復興チャリティライブ "Power of Tap" の会場に写真を展示(当日、会場にはおりません)

時間: 2回公演 [昼公演] 15:00開演 (14:00開場) / [夜公演] 19:00開演 (18:00開場)

出演:足音CREW / TAPPERS RIOT / つむぎプロジェクト / Enjoy

スペシャルゲスト:橋本 祥 / 吉野 寧浩 (J-CLICK)from 大阪

料金:前売¥3,500- 当日¥4,000- (入場時ドリンク代別途必要)

ご予約・お問合わせ:info@poweroftap.com ※3日以内に返信がない場合はお手数ですが再度ご連絡下さいますようお願いいたします。

場所:吉祥寺スターパインズカフェ

東京都武蔵野市吉祥寺本町1-20-16 / TEL:0422-23-2251 / (各線吉祥寺駅より徒歩5分)

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