日本の原子力平和利用技術 〜 海外進出による収益確保は国益

日本国内の原子力平和利用については、実にもったいない状況が続いている。なぜなら...

日本の原子力平和利用技術を輸出しようという動きが、また一つ具体化しようとしている。

今月上旬、英国での原子力発電所建設事業を前進させるため、日立製作所と日本原子力発電が協定を結んだとの報道が配信された。Horizon Nuclear Power Limited(ホライズン・ニュークリア・パワー;日立製作所傘下の原子力発電事業会社)が英国内で進めている原子力発電所の新規建設に対して、原子力発電専業の日本原電が協力するというもの。

日立製作所の発表資料によれば、ホライズン社は英国内に複数の原子力発電所を新設する予定。

アングルシー島のウィルヴァ・ニューウィッドに建設するABWR(改良型沸騰水型原子炉)は、2018年までに英国政府による全ての許認可を取得し、2019年に着工、2020年代前半の運転開始を目指す。日本原電の経験を活かし、建設費の評価、設計・調達・建設契約作業、許認可取得、試運転や各種メンテナンス計画の策定を進める。

日立製作所は日本を代表する総合電機メーカーで、英国内では鉄道事業などで活躍している。原子力発電でも三菱や東芝と並んで、多数のBWR(沸騰水型原子炉)やABWR(改良型沸騰水型原子炉)を手掛け、日本国内では共同建設を含め計23基の原子力発電所の建設に携わっている。

日本原電は、

①日本初の商業用原子力発電所である東海1号機としてGCR(黒鉛減速炭酸ガス冷却型原子炉)を英国から導入、

②日本初の軽水炉である敦賀1号機としてBWRを米国から導入、

③東海第二1号機(BWR)、敦賀2号機(PWR(加圧水型原子炉))を建設・運営するなど、

GCR、BWR、PWRというタイプの異なる原子炉を運営してきた国内唯一の事業者で、相当のノウハウが蓄積されている。

日本原電にはまた、ベトナムやトルコ、カザフスタンで原子力発電所建設に関する調査経験があり、更には、米国の大手電力会社と提携して米国規制基準を取り入れ、新興国の原子力発電の建設・運営にも参画する方針を示している。

英国では現在、14基のAGR(改良型ガス冷却型原子炉)と1基のPWRが運転中だが、全てのAGRを2020年代前半までに停止する計画であるとともに、温暖化ガス削減のため全ての石炭火力発電所を2025年までに閉鎖する方針

このため実は、英国では近い将来に深刻な電力不足が起こると予想されている。EU(欧州連合)からの離脱や原子力政策を推進してきたキャメロン前首相からメイ新首相への交代があったが、原子力発電所を建設しなければならない状況に変わりはない。

このように、英国では建設と運営が一体となった日本の原子力平和利用技術が必要とされ、そして開花しようとしている。

しかし、日本国内の原子力平和利用については、実にもったいない状況が続いている。2011年3月の東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故の後、安全対策が大幅に拡充された新強い規制基準が導入され、今月8日で丸3年を迎えた。

日本国内で26基(16ヶ所)の原子力発電所が再稼働に係る申請を行ったが、それに合格したのは7基(3ヶ所)のみ。再稼働したばかりの関西電力高浜原子力発電所3号機は、大津地裁の運転差し止め仮処分決定を受けて1ヶ月半運転しただけで強制的に停止。

現在稼働している九州電力川内原子力発電所1・2号機も、"原発停止"を公約に掲げて鹿児島県知事選に当選した三反園訓氏の行動に振り回される可能性がある。

私は以前から再三再四問題提起してきたが、日本国内では、世界に類を見ない異常な原子力規制運用によって、低廉安定な原子力発電の再開が阻まれるだけでなく、化石燃料の輸入増(年間3〜4兆円)に因る電気料金の高止まりなどの大きな経済的損失が顕在化している。

今の安倍政権は、原子力発電を「重要なベースロード電源」と位置付け、2030年時点の電力供給における比率を20~22%と決めたが、それを達成していくための明確な具体策を示していない。

今月10日に参院選があった。政権与党が勝利し、次の政治的関心事は憲法改正に移っていくだろう。そうなると、『原子力正常化』のような"耳障り"だと思われている政策には手を着けようとしなくなる可能性が高い。

しかし、それでは困る。

政治主導によって原子力規制運用の改善(発電と審査を並行させることや、新規制基準に係る猶予期間の設定など)を早急に進めるとともに、来年にも見直しが予定されている「エネルギー基本計画」の中で新増設を含めた原子力発電の位置付けを国民に示す必要がある。

今回の日立製作所・ホライズン社と日本原電が協定を結びながら外国での収益源を模索することはとても健全なことだ。日英双方の国益に繋がる。日本政府と英国政府は一丸となって、このプロジェクトを成功させていくべきだ。

そのためにも、安倍政権は先ず、日本国内の『原子力正常化』の実現に向けた英断を下すべきだ。

改憲論議は、経済を好転させるものではない。しかし、『原子力正常化』は、年間3〜4兆円の日本国内資金が外国に逃避することを確実に回避させる。

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