原子力発電をしながら同時に消費した核燃料以上の核燃料を生産することができるのが『高速増殖炉』。その原型炉である「もんじゅ」(福井県敦賀市)は、未だに竣工の見通しが立っていない。
それどころか、原子力規制委員会が、運営主体の日本原子力研究開発機構(JAEA)を所管する文部科学省に対して、昨年11月13日、JAEAに代わる運営主体を特定するか、「もんじゅ」の在り方を抜本的に見直すかを迫る勧告をした〔資料1〕。
<資料1:勧告の概要>
(出所:文部科学省「高速増殖炉「もんじゅ」の経緯と現状について」(2015.12.28))
文科省は現在、有識者による検討会で、その勧告を踏まえた検討を行っている。この勧告の内容は、「もんじゅ」に関するエネルギー政策上の位置付けへの注文や、設備面での不具合に関することではなく、あくまでも組織管理上の不備への指摘である。
高速増殖炉は、核燃料を再利用する原子炉の一種。他方で、既設の原子力発電所の原子炉は全て軽水炉であるが、その一部の発電所でも核燃料を再利用している。この方式はプルサーマル(軽水炉サイクル)と呼ばれ、先月29日に再稼働した関西電力・高浜原子力発電所3号機は、まさにこのプルサーマル発電を行っている。
このような核燃料の再利用を行う一連の工程が「核燃料サイクル」で、上述のように、高速増殖炉向けと軽水炉向けの二つに大別される。軽水炉向け核燃料サイクル事業では、原子力発電所での発電後に出た使用済燃料から再び発電用燃料として使えるウランやプルトニウムを回収する「再処理」を行った上で、ウラン・プルトニウム混合酸化物である「MOX燃料」が製造される。
日本では現在、①ウラン資源の節約(プルサーマルにより、23~26%の天然ウランを節約)や、②高レベル放射性廃棄物の減容と安定化 といったメリットもあり、使用済燃料の全量を再処理することを政府方針としている。
更に、国内にある使用済燃料1万7千トンを全量再処理することにより、①コストの面では、最近10年間の原油価格の変動を勘案すると、原油換算で概ね10〜20兆円程度に相当し、②発電電力量の面では、日本国内の原子力発電電力量の5年分、日本国内の総発電電力量の1.5年分に相当する。
再処理や、それによるMOX燃料製造を国内で行う役割を担うのが、日本原燃が運営する六ヶ所再処理工場(青森県六ヶ所村)とMOX燃料工場(同)である。だが、未だ竣工していないので、これまではフランスやイギリスの企業に再処理を委託していた。
そういう状況下で「もんじゅ」への勧告が出たからであろうか、最近、"「もんじゅ」がダメなのだから、核燃料サイクル事業全体もダメだ"との論調が溢れている。実際、幾つかの大手マスコミも、次のような論調を出している。
◎NHKニュース(2015.11.13)「もんじゅ・規制委勧告決定 問われる存在意義 核燃料サイクルに影響も」・・・もんじゅの存廃をめぐっては、核燃料サイクルのさまざまな面で、大きな影響を及ぼす可能性があります。
◎毎日新聞(2015.12.28)「もんじゅ:新主体、検討開始 来夏までに結論 有識者会合」・・・文科省が来年夏ごろまでに新組織を示せない場合、廃炉を含めた核燃料サイクル政策の見直しが現実味を帯びる。
◎日本経済新聞(2015.12.29)「「人材不足」指摘相次ぐ 文科省もんじゅ検討会初会合」・・・有馬氏、(略)原子力発電所から出る使用済み核燃料を有効利用する核燃料サイクル政策への影響について「極めて大きなものがある」と語った。
◎読売新聞(2015.12.31)「核燃サイクル 岐路に 施設トラブル相次ぐ 最終処分場決まらず」・・・もんじゅが存続するかどうかも、核燃料サイクル事業に大きな影響を与えそうだ。
しかし、六ヶ所再処理工場は、国の許可上では、軽水炉向けMOX燃料を抽出するものであり、「もんじゅ」向けの事業は行われない。「もんじゅ」の帰趨が六ヶ所再処理工場への逆風世論を助長する懸念はないこともないが、実際には、両者は互いに無関係なのだ。
核燃料サイクルへの反対を主張する勢力には、「もんじゅ」への逆風を六ヶ所再処理事業も含めた核燃料サイクル事業全体への逆風として利用したいのだろう。更に、"「もんじゅ」がダメになれば、核燃料サイクル事業全体もダメ"で、ひいては"原子力発電事業全体がダメ→だから"脱原発だ!"という物語を描きたい勢力がまだまだいるということかもしれない。
しかし実際には、六ヶ所再処理工場と「もんじゅ」の間には、明確な仕切りがある。六ヶ所再処理工場の再処理能力は年間800トンで、そこから出てくる核分裂性のプルトニウムは4トン強。これらのプルトニウムの使用先は「もんじゅ」ではなく、既設の原子力発電所の軽水炉と、現在建設中の電源開発・大間原子力発電所(青森県大間町)の軽水炉。
ただ、資源エネルギー庁が作成している資料〔資料2〕が大きな誤解を招いているというのはある。
<資料2>
(出所:資源エネルギー庁「使用済燃料の再処理等に係る制度の見直しについて」(2016.1.20))
これでは、六ヶ所再処理工場で原料として抽出されたMOX燃料の一部は、あたかも「もんじゅ」に向けたものであると言わんばかりだ。このような資料を使い続けていては、六ヶ所再処理工場と「もんじゅ」は深い関係があるとの誤解は解消されない。
もちろん、六ヶ所再処理工場では、プルサーマル向けMOX燃料の原料として全量使用されるわけではない非核分裂性プルトニウムも精製されるので、将来その使用先として「もんじゅ」が浮上することは十分にあり得る。
それまでは、そうした原料は六ヶ所再処理工場に中間貯蔵していくことになる。これは、日本にとっては国産資源なので、将来のことを考えて中間貯蔵しておく価値は高い。ただこの件に関しては、政府も日本原燃も、説明が不十分だと言わざるを得ないので、その点は今後丁寧な説明が必要であることは言うまでもない。
いずれにせよ、「もんじゅ」と核燃料サイクル事業の関係についての政府の基本方針は、昨年12月13日に菅義偉官房長官が会見で「もんじゅ」の廃炉の可能性を問われた際に語った「核燃料サイクルすべてに影響するものではない」というコメントに集約されている。これは、従来から何ら変わることのない、これまでも説明されてきたスタンスである。
原子力発電や核燃料サイクルに対する偏ったイデオロギーを捨て、エネルギー自給率向上を引き続き目指していくことが国益の追求に繋がる。資源無き国の宿命でもある。