原発を巡る「事実誤認」はいつなくなるのか?? ~ 様々な"権力者"が各々違うことを言っていると、円滑な脱原発は進まなくなる・・・

原子力発電所を巡って、全く異なる2つの司法判断が下された。端的に言うと、司法権力者にも行政権力者にも「事実誤認」が多いという話。

先週と今週、原子力発電所を巡って、全く異なる2つの司法判断が下された。ごくごく簡単に見ていこう。端的に言うと、司法権力者にも行政権力者にも「事実誤認」が多いという話・・・。

先週4月14日、関西電力高浜原発3・4号機(福井県高浜町)について、福井地方裁判所は、「国の新しい規制基準は緩やかすぎて原発の安全性は確保されていない」と判断し、再稼働差し止めを求めた仮処分申し立てを認めた。これにより、高浜原発の再稼働については、原子力規制委員会とその事務局である原子力規制庁による再稼働に向けた諸手続は進められるものの、この仮処分決定が翻るまでは再稼働できないことになる。

この決定の直後、福井地裁前では、再稼働差し止めを目指す人たちが"司法が再稼働を止める"、"司法はやっぱり生きていた!!"と書かれた垂れ幕を掲げながら悦びを露わにしていた。これは、当日の朝日新聞ネット記事などで報じられている。

ところが今週22日、九州電力川内原発1・2号機(鹿児島県薩摩川内市)について、鹿児島地方裁判所は、「国の新しい規制基準に不合理な点は認められない」と判断し、再稼働差し止めを求めた仮処分申し立てを却下した。これにより、川内原発の再稼働については、規制委・規制庁による再稼働に向けた諸手続が進むことになる。

この決定の直後、鹿児島地裁前では、再稼働差し止めを目指す人たちが、"不当決定"、"私達は屈しない"と書かれた垂れ幕を掲げながら悔しさを露わにしていた。これは、当日の日本経済新聞ネット記事などで報じられている。

上記の2つの異なる司法判断に対して、規制委・規制庁はどのような見解なのだろうか。

福井地裁決定に対して、15日の定例記者会見で、規制委の田中俊一委員長は、「この裁判の判決文を読む限りにおいては、事実誤認、誤ったことがいっぱい書いて」あると述べている。

福井地裁決定と鹿児島地裁決定が異なったことについて、22日の定例記者会見で、田中委員長は「プレスの皆さんが・・・きちっと正しく理解して、それを伝えていただくことが国民にも正しく伝わる・・・初めに結論ありきみたいな報道も時々私は目にするので、そういう姿勢は良くない・・・」とも述べている。

この一連の田中委員長の発言は非常に興味深い。福井地裁の決定に『裁判官の事実誤認』があることを指摘しているだけではない。これまで規制委・規制庁の一挙手一投足を取材し、報道してきたマスコミに対して、『マスコミの事実誤認』を指摘している。

この田中委員長の見方は、実にごもっともだ。しかしながら、当の田中委員長を始めとした規制委・規制庁も、別のところで『事実誤認』をしてきていると、私には見える。上記の15日と22日の田中委員長の発言は、そっくりそのまま、規制委・規制庁が現在審査中の原発に係るものに置き換えられる。

それは、敷地内の破砕帯が"活断層"であるか否かに関する評価が行われつつある日本原子力発電敦賀原発2号機や東北電力東通原発1号機についでである。敦賀原発2号機の例で見てみよう。

日本原電は、敦賀原発2号機の敷地内の破砕帯を"活断層"と判断した規制委の有識者会合による評価書について、「66の問題点」を公表し、「誤認した事実に基づく誤った主張などが多数記載されている」と反論している。だが、規制委・規制庁の判断が「事実誤認」であると原子力事業者から指摘されていることに関しては、規制委・規制庁はどう対応しようというのか。

今までの事例から推測すると、規制委・規制庁は事業者と対話せず、門前払いするだろう。田中委員長を始めとした規制委・規制庁は、「審議は全て公開している」として詳しい説明をせず、国民にわかりやすく説明するのはマスコミの役目だとし、説明責任を果たそうとしないように見える。

マスコミに責任の一端があるとの田中委員長の見解は、一面では全くその通りだ。しかし、最終的にはやはり規制委・規制庁による確たる科学的・技術的な根拠による説明が必須であるはずだ。

私には、司法権力を持つ裁判所も、行政権力を持つ規制委・規制庁も、自ら、科学的・技術的な根拠を基に説明していないことが多いと映る。脱原発への道は、既存原発の適切に運営し、ヒト・モノ・カネを中長期的かつ計画的に投じてこそ円滑なものになる。

これは、日本だけでなく世界共通の課題。既存の原発を適切に運営していかなければ円滑な脱原発への道は険しくなるばかりである。

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