原発を巡る活断層の認否:日本原電・敦賀2号機は、"有識者"と『専門家』で違うという奇妙な状態のまま安全審査が始まるのか?

日本原子力発電の濱田康男社長は、敦賀原子力発電所2号機(福井県敦賀市)の再稼働に向けた規制基準適合性審査(安全審査)に係る申請を「夏から秋ごろには行いたい」と述べた。

先月21日付け福井新聞ネット記事などで既報の通り、日本原子力発電の濱田康男社長は、敦賀原子力発電所2号機(福井県敦賀市)の再稼働に向けた規制基準適合性審査(安全審査)に係る申請を「夏から秋ごろには行いたい」と述べた。原子力規制委員会とその事務局である原子力規制庁は、この申請に対してどのように対応していくだろうか?

 この敦賀2号機を巡っては、少々不可解な経緯がある。

 昨年12月10日、敦賀2号機について、規制委の"有識者会合"が書いた評価書案について『専門家』の意見を聴くピア・レビュー会合が開かれた。"有識者"による評価書案を『専門家』が評価する場だ。この評価書案では、"敦賀発電所2号炉原子炉建屋直下を通るD−1破砕帯は後期更新世以降の活動が否定できず、したがって、設置許可基準規則解釈における「将来活動する可能性のある断層等」 であると判断する"と書かれている。これは要するに、"敦賀2号機は、その直下に活断層がある可能性が否定できないので、廃炉しろ"という話。

 ただ、その時の議事録会議映像を見ると、この評価書案に対して、『専門家』たちからは相当の疑問が示されていることがわかる。にもかかわらず、その後は有識者会合が開かれることはなく、こうした疑問への回答がどのように評価書に反映されたかは、全く不明確なのだ。

 そんな状態のまま、今年3月25日の規制委の会合で、規制委・規制庁は結局、先の有識者会合による評価書案と同じ内容の評価書を正式に受理した。議事録を見ると、規制委の田中俊一委員長は、「有識者会合の評価結果は重要な知見の一つとして審査の参考とする」と述べている。また、この評価書は、「ピア・レビュー会合での議論を踏まえたもの」との位置付けとされている。

 そして、上述の日本原電社長会見の翌日である先月22日の原子力規制庁記者ブリーフィングでは、敦賀2号機の安全審査に関して、「ピア・レビューの先生方の見解というのは重要な知見の一つとしてお考えなのかとどうか」と記者から質問が出た際、規制庁の担当課長は、「有識者会合による評価を重要な知見の一つとして参考にするというところまでしか決まっておりません」と回答している。

 これを見て私は愕然とした。

 まさか、規制委・規制庁は、上述の『専門家』の疑問に対して明確に答えていない有識者たちによる評価書を、敦賀2号機の安全申請の審査において"重要な知見の一つとして参考とする"方針なのだろうか?ピア・レビューで鋭い異論が出たにも拘わらず、"評価書に反映済み"との詭弁で活断層の存在を認定するよう強引に突き進む気でいるのか?

 敦賀2号機の破砕帯が"活断層"と判断された日本原電は、これまで、評価書の結論に関わる「事実誤認」や、規制委・規制庁や有識者会合の「審査プロセスの問題点」などをホームページ上で公表している。これに対して、規制委・規制庁は無視し続けている。ここが実に不思議でならない。規制委・規制庁は、なぜ、自信を持って日本原電に対して科学的な根拠を添えて説明しないのだろうか?私が思うに、真っ向から議論したら、規制委・規制庁は、日本原電に勝てないとわかっているからなのではないだろうか?

 日本原電による「事実関係」や「根拠」に関する指摘は、規制委・規制庁が標榜する「科学的議論、科学的判断」に直結する。それらに対してきちんとした反証をしないと、原子力規制当局としての規制委・規制庁の権威は失墜してしまう恐れがある。科学的な議論を拒む姿勢は、原子力基本法第1条に定める「原子力利用を推進することによって、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り・・・」に反する。

 日本国内では、今もまだ"嫌原発"や"反原発"の空気がメディアを支配しているようなので、日本国内での規制委・規制庁の評価はあまり話題にはなっていない。しかし、外国勢の視線はそれほど甘いとは思えない。日本の新しい原子力規制当局のこれまでの『非科学性』や『独善性』を見逃すはずはない。このような状況は、将来、日本にとって必ず大きな痛手になるだろう、と。

 今、敦賀2号機は、運転開始から40年を迎えるまではあと12年、運転開始から60年を迎えるまではあと32年、『現役』で稼動することができる。それを、規制委・規制庁の"メンツ"を立てるために潰そうとしているのではないのか。行政機関の実績づくりのための"生贄"は有害無益だ。

 規制委・規制庁は、敦賀2号機に係る設置を許可した当時の行政判断を翻すのであれば、それに足りるほどの科学的な根拠を明示していく必要がある。過去の行政判断に係る科学的な根拠を当時の専門家から聞かずして"事業者からの説明が足りない!"などと一方的に叫ぶというのは、規制委・規制庁には科学的な根拠を示す能力がないことを自ら吐露しているようなものだ。

 今のような状態を続ける限り、国内からのみならず、世界から信用される原子力規制機関にはとても昇華できない。

関連記事

注目記事