厚生労働省「一億総活躍社会実現本部」御中 〜 高齢者向け予防接種の充実で介護予防を!

厚労省は、インフルエンザ予防接種の接種率を上げるための追加予算措置など施策の充実に取り組むべきだ。

厚生労働省「一億総活躍社会実現本部」の意見募集が10月21日から始まった。募集期間は11月6日まで。せっかくの機会なので、私も意見を提出しようと思う。今回は、高齢者向け予防接種の充実で介護予防を!という話。

今年もインフルエンザの季節になった。厚労省の説明資料によれば、ワクチン接種を受けた高齢者は、死亡の危険が1/5に、入院の危険が約1/3から1/2にまで減少することが期待できるそうだ。高齢者が重症化すると、介護サービスが必要になる場合も十分想定される。高齢者の医療・介護費を増やさないためにも、国や自治体は、インフルエンザに係る万全の予防体制を敷く必要がある。

ところが、今年から予防接種に使われるワクチンが変わった。対応するインフルエンザウイルスの型が、3価から4価に変更されたからだ。これは、世界保健機関(WHO)の方針に合わせて予防可能範囲を増やすための措置。この変更により、製薬会社側で対応が遅れたり、供給量が不足したりといった影響が出ている。また、製造コストが上がったことで、医療現場からは、値上がりによる接種率低下や感染率上昇を危惧する声が上がっている

厚労省は、以上のような実態を踏まえて、インフルエンザ予防接種の接種率を上げるための追加予算措置など施策の充実に取り組むべきだ。

インフルエンザ以外にもある。肺炎だ。日本では肺炎球菌ワクチンが接種可能になっている。肺炎も、高齢者の場合には特に重症化しやすい。いったん肺炎にかかると、体力が低下して日常生活での動作がしにくくなる。あまり動かなくなることで、更に心身機能が低下する恐れがある。寝たきりになったりすると嚥下能力が低下し、ますます肺炎が悪化するという悪循環に陥るケースも多い。

肺炎は死因の第3位。介護予防のためにも、早めの肺炎予防が重要なのだ。実際に、肺炎予防による医療・介護費の削減効果について、厚労省は、現行の高齢者向け肺炎球菌ワクチンを全ての65歳の人に接種すれば、その効果が持続する5年の間、年間で約5,115億円の医療費削減効果があると推計している。その上で、肺炎予防による2025年の医療・介護費の削減効果8,000億円という目標を掲げる。

昨年10月に高齢者向け肺炎球菌ワクチンは定期化された。だが、これは非常に複雑で、本当に高齢者が率先して肺炎球菌ワクチンの接種をしているか、かなり心許ない。例えば、66歳の人が接種してほしいと希望した場合、4年間も待たせるのか、自己負担での早期接種を勧めるのか、曖昧だ。あまり接種率が上がっていないとの報道もあるくらいだ。

更に、高齢者向け肺炎球菌ワクチンには現在、接種可能なものが2種類流通している。この2つのワクチンはそれぞれ特性が異なるが、いずれも高齢者向けとして承認されている。にもかかわらず、一方は公的接種の対象となるため自己負担は費用の一部のみ、もう一方は全額自己負担。これは、一般の高齢者からすれば実にややこしいだろう。本来評価に値する肺炎球菌ワクチンの定期接種化が多少拙速となってしまったことで、かえって医療現場や高齢者の間で混乱を招いてしまったと報道されてもいる。

厚労省はまた、「予防接種に関する基本的な計画」で、定期の予防接種の接種率を上げるため、関係行政機関で取り組んでいくべき旨を掲げている。こうした取組みの一環として、例えば、高齢者世代のみならず、高齢者世代の親を持つ現役世代への周知・啓蒙を併せて行っていくことで、高齢者世代の接種率向上を図ることができるのではないだろうか。予防接種の副反応などのリスク情報と併せて、予防接種の重要性を広く周知していく普及啓発も、定期接種化の実現とともに重要である。

医療費削減効果を高めていくには、高齢者向け肺炎球菌ワクチンの接種率を上げることで、肺炎予防効果を高めていくことが何よりも効果的であろう。そのためにも、高齢者の個別事情に応じて、特性の異なる複数の肺炎球菌ワクチンを医療現場で選択できるように関係各所が努めていくべきだ。

2013年度の国民医療費は40兆円を超え、7年連続で過去最高を更新した。団塊の世代が75歳以上になる2025年には54兆円を超える見通しだ。医療・介護財政を持続可能なものにしていくには、医療・介護費の抑制に資する施策を一つ一つ積み重ねていくしかない。

2025年を見据えて政府が推計している医療機能別必要病床数を見ると、通常の病院のみならず、回復期での一部在宅医療や、慢性期の療養病床の発展的位置付けとしての在宅や介護施設、高齢者住宅にて提供されるケアへの期待が大きい。しかし、これを実現するには、在宅や介護施設、高齢者住宅での介護に従事する介護職員や家族が相当数必要となる。健康寿命の延伸に資する施策をできるだけ充実させていくことが望ましい。

高齢者の病気予防は、まさに「一億総活躍社会」の目標の一つである『介護離職ゼロ』や『生涯現役社会』の実現に向けた具体策としても捉えられる。厚労省は、上記のような介護予防の観点に立った施策の拡充に必要な予算措置や制度運用改善に取り組むべきだ。

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