史上最強クラスの寒波に震え、大雪に翻弄されている内、いつの間にやら一月も今日で終わり。
もう幾つか寝ると節分、その翌日には立春と、暦の上では新たな春がスタートします。
そんな新春を寿ぐ、とっておきの銘菓をご紹介します。 京都の菓子司「亀末廣」の謹製『京の十二月』。
12ヶ月毎の季節の移ろいを、京の都の風物詩とともに表現しているこの御菓子は、毎年、宮中の歌会始にも献上されるという逸品。
どれも干菓子ですから、もちろんすべて食べられるわけですが、あまりに美しく、なかなか口に運ぶ気になれないのが悩ましいところ。
上品で透明感のある甘みがとても美味しいので、今年こそ湿気ない間に食べよう!と思うのですが、ためつすがめつしている間に、ほぼ全容が変わらぬまま一年が過ぎ去ってしまいます。
各月の御菓子には、掛けられた薄紙に記された通り、それぞれ"銘"が付されています。
この銘を頼りに、その月の御菓子が何を表し、どのような世界を描いているかを紐解いて行くプロセスが、何よりの楽しみでもあります。
ただ、もっと自分に京都についての知識や古典の教養があれば、もっと深い美意識を理解でき、感動も深まるだろうにと思うと、ちょっと口惜しい気持ちにもなります。
新年を祝う特別なお菓子のため、製作は年末のみ。また、とても繊細なその造作ゆえ配送はできず、姉小路通から烏丸をちょっと東に入った亀末廣さんまで、受け取りに伺わねばなりません。
ちなみに亀末廣さんの店構えは、京の町屋の中でも格別な歴史の重みと風情を感じさせてくれますから、お店まで足を運ぶ価値は十二分にあります。
ただ、この御菓子の申し込み締切は受け取りの約3ヶ月前と早いので、購入を希望される方はどうぞお気をつけください。
亀末廣は、文化元年(1804)創業。江戸時代には徳川家が宿館とした二条城に、また、都が東京に遷るまでは、御所にも菓子をおさめる老舗となりました。
お店の印にあしらわれた、末広(扇子)にカメさんも実に愛らしいですが、菓子箱を包む金茶の風呂敷に染め抜かれた、亀枠に"すゑひろ"の文字もなんとも粋で、見惚れてしまいます。。。
京の都の底力、奥深さを静かに教えてくれる逸品です。
それでは、『京の十二月』を一月から順に見て参りましょう。
一月の銘は「御所」。
京都御所の紫宸殿前に植えられている"右近の桜"、"左近の橘"を象った和三盆の干菓子が、端正に並んでいます。
さすが、長きに亘り帝(みかど)に御菓子を献上し続けきた御用達の菓子司という、凛とした矜恃が伝わってきます。
二月の銘は「稲荷」。
四角の種合わせ(薄い煎餅種に餡をはさんだもの)に施された、赤い鳥居が続く刷り込みから、稲荷とは伏見稲荷大社であることが伺えます。
二体の紙垂(しで)の下には、愛らしい土鈴と飴細工の榊の葉がぎっしりと詰められ、ちなみに土鈴は振るとカラカラと音までする念の入れよう。
眺めているだけで、まるで伏見のお稲荷さんへ初詣したかの如く、清々しい気持ちにさせていただける御菓子です。
三月は「圓山」。
八坂神社や知恩院に隣接する円山公園と言えば、やはり"枝垂れ桜"。
ということで、祇園の舞妓はんを飾る簪(かんざし)のように、はんなりとして繊細な桜の小枝が詰められています。
もう一方は、「祇園豆腐」という田楽豆腐を模した干菓子。
祇園豆腐は八坂神社の参道に今も残る老舗料亭「中村楼」の名物料理です。
創業は今を遡ること450年という中村楼、格式高い高級料亭として威容を誇りますが、昔の茶屋の雰囲気を味わえる店構えも残しています。
実にリアルなこの御菓子を見て、以前、初夏の縁台で風に吹かれながら味わった祇園豆腐が懐かしく蘇ってきました。
四月は「都をどり」。
都をどりは、京都祇園の芸妓衆によって、甲部歌舞練場で4月1日から30日まで行われる催しで、春の季語ともなっています。
祇園のシンボルである"つなぎ団子"が焼印されたぼんぼりを模した種合わせの下には、舞妓はんのダラリの帯を再現した飴細工が詰められ、舞い散る桜の花びらが添えられています。
まさしく京の春爛漫という御菓子です。
〔後編〕につづく・・・