スナップチャットはメディアをどう変えるのか?

バズフィードのアクセスは、5分の1がスナップチャット経由。

(photo credit: Snapchat via photopin (license))

今年8月にニュースレターをはじめました。まだたった5通ですが、500名弱の方々が受け取ってくださっているようです。改めていまだに多くの人が使うメールというメディアのおもしろさを実感しています。

今回はそんなニュースレターから「スナップチャットはメディアをどう変えるのか?」という4000字コラムを転載します。今後は徐々にニュースレターに移行していけたらなあ、と考えています(もちろんブログもゆるく続けていきますが)。

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■ スナップチャットは(アメリカ)メディアをどう変えるのか?

これは個人的にいちばん気になっているトピックです。しかし、日本で流行ってないこともあるのか語られることがほとんどありません。スナップチャットは2011年にスタートした、写真や動画を送ることができるメッセージアプリ。送信者が10秒以内の閲覧時間を設定、受け手はその時間以上コンテンツを見ることができないのが特徴です(後述しますが「リプレイ」機能はあります)。

毎日1億人以上が利用し、月に40億回の動画再生がおこなわれるスナップチャットのCEO・エヴァン・シュピーゲルはなんと1990年生まれ(同じ年というのが恐ろしいです!)。今年は「Forbes 400」入りし、世界最年少のビリオネアとなっています。

そんな新世代がつくる革新的なサービスについてくるのはやはり若者です。comScoreの調査によれば、ユーザーの71%が18〜34歳。それでも少しずつ上の世代は増えているようです。こういったユーザー状況にも合わせるように、瞬間的なメッセージのやりとりに加えて、24時間だけ友人にコンテンツを公開できる「Stories」といった機能もできました。

■ 1メディアに1日100万人が訪問

スナップチャットの概要を簡単に紹介しました。いまメディアが気にかけなければいけないのは「Discover」という機能でしょう。今年1月にはじまり、各メディアのコンテンツが24時間限定で閲覧できるページです。

現状、バズフィードやCNN、ヴァイス、ナショナル・ジオグラフィックなどWebメディアや雑誌、放送ネットワークなど新旧かつ多様なジャンルから14媒体集まっています(フェイスブックによる記事のホスティングサービス「インスタント・アーティクルズ」は30媒体以上が契約。最近ではワシントン・ポストがすべての記事を載せることを発表)。

たまにDiscoverを使っているのですが、記事や動画を超えて新体験といった感じで、「記事とはなんだったのか」みたいなことを思ってしまいます。観ているとちょくちょく動画広告が入るので、すばやくスワイプでかわしていきましょう。

AdAgeによれば、Discoverのなかには1日平均2.5個の広告が入っているようです。リンク先の記事には、参加媒体のストーリー数と広告数のグラフがあるので関心ある方はぜひ見てみてください。媒体社のコンテンツは1日平均110本とのこと(各社で1日5〜17個と幅があります)。

1媒体あたりの訪問数は1日100万人ほどですが、チャンネルを見てみると媒体によって力の入れ具合がクオリティに良くも悪くも反映されていると感じます。これにはスナップチャットに特化したコンテンツを制作できる人材が(特に大手)メディア側にいないからでしょう。

■ バズフィードのアクセス、5分の1がスナップチャット経由

そのため、企業やメディアではまずはスナップチャットに慣れ、使いこなせるようにがんばっているようです。ツイッターやフェイスブックにも効果的な使い方などについての講座や研修があるように、スナップチャットにも同じ流れが来ています。

チームがSnapchatを完全に理解することができるようになる方法について私は考えた。

そして思いついたのが、会社で「Snapchatデー」を開催することだった。1営業日のメール、IM、チャット、テキストメッセージ、Trelloでのコメント、Githubのバグ対応、更には電話も含め、全ての社内コミュニケーションを禁止した。代わりに、全ての社内コミュニケーションをSnapchatで行うのだ。

「Snapchatデー」の出だしは困難なものだった。Snapchatは、効率的な社内コミュニケーションツールとして設計されていないことは明らかだし、それを実感した。ただ、一日の半分が過ぎたころには、チームの全員、このプラットフォームでのメッセージの送受信が上手くなり、操作方法をある程度学ぶ必要のあるインターフェースの基本的な使い方を覚えていた。Snapchatでどのようにバグ対応を連絡するかって?コミット画面の写真を撮って送っていた。

(「Snapchatのような最新テクノロジーを理解できない大人がすべきこと」より)

いままでにないユーザー体験をもった「Snapchat」は、利用することでのみ理解を深めることができる。ニューヨーク・ブルックリンに本社をもつヒュージが「Snapchat」研修を従業員に課す理由も、そこにある。同社は今年の夏を「Snapchatに完全に対応するためのシーズン」だと位置付け、社内研修「夏の飛躍の日」に「Snapchat」講習を組み込んだ。また、ヒュージの「Snapchat」のアカウントで、休日の様子を投稿することを奨励した。

ハヴァスでも、同様の取り組みをしている。アプリ内で全米オープンゴルフの無料チケットを入手できる社内イベント「『Snapchat』トレジャーハント(宝探し)」を開催したのだ。

「マーケターとして、われわれは最新のプロダクツやテクノロジーに習熟しておかねばならない」と、ヒュージのソーシャル・ディレクターであるジョー・マカフィー氏は語る。「ソーシャルチームの全員が、すべてのプラットフォームの専門家になることを期待している」。

BBDOニューヨークでは、この夏にユニークなゲームに興じた。オフィスの全員を「Snapchat」に精通させようと、日々の日課に組み込ませたのだ。「Snapchat」の24時間消えない「ストーリーズ機能」を使って、毎日異なるお題に関する体験談やエピソードを投稿する試験を実施。このテストには100人超の従業員が参加し、最終的に「BBDOストーリーズ」と呼ばれた1本のハイライト映像にまとめあげられた。

(「『Snapchat』研修」を社員に課すエージェンシー。プラットフォーム攻略で主の心を掴む」より)

海外メディアのなかにはジャーナリストやデータアナリストに並んでスナップチャット用のコンテンツをつくれる人材を募集することが増えてきました(Mashableではすでにスナップチャット専任が10名ほどいるそう)。縦型のストーリーや動画への対応に備えて、先述のDiscoverにまだ参加していないメディア企業(たとえばVox Mediaなど)でも人材獲得が急務となっています。

スナップチャットの影響力が上がっていることは、バズフィードの流入経路を見ても明らかです。同メディアCEOのジョナ・ペレッティがRe/codeに明かしたところによれば、27%がフェイスブック動画、23%が直接もしくはアプリ、21%がスナップチャットという順番となっており(グーグル検索はたった2%)、トラフィックの5分の1がスナップチャット経由からなのです。

また、スナップチャットの縦型動画のほうが横型よりも9倍のエンゲージメント率を記録するなど、メディアにとって外せない存在となりつつあります(USA TODAYより)。

■ 動画と若者に強み、収益化が課題

それでも課題はあります。たとえば、企業の動画広告がほぼゼロ秒でも再生カウントされていること。再生数に応じて料金が発生するメニューのため、このビューアビリティ基準については今後議論になるでしょう。ただ、「約70%のユーザーは3秒で動画広告をスキップしている」というデータもあり、個人的には10代を中心としたユーザーたちが3割も視聴完了しているのはすごいと思います。

エンタメ寄りだけでないコンテンツをどれだけ増やして存在感を出していくのかも課題のひとつ。スナップチャットのニュース部門トップには元CNN政治記者を引き抜き、「Live Stories」の動画ニュースを制作・配信に注力しているところです。

Live Storiesは1日に平均2000万回閲覧されるようで、多いときは4000万回再生されるシリーズもあったのだとか(音楽フェス「コーチェラ・フェスティバル」に関するもの)。動画に強く、若者にリーチできるプラットフォームとして、スナップチャットは徐々に社会性も帯びてきています。

ほかのメディアを振り返ってみても、たとえば、ネコのリスト記事やクイズなどで急成長してきたバズフィードは政治メディア・ポリティコ出身のベン・スミスを編集長に迎え、調査報道をはじめとする硬派な側面を強めてきました。フェイスブックのデータを用いて選挙と感情の関係性について特集記事を出していたこともあります。

スナップチャットは2016年の大統領選に向けてニュースチームを強化中です。いまのところ動画再生数でフェイスブック(4月に40億回超え。スナップチャットは9月に40億回超え)に次いでいますが、若者に政治・社会トピックを届けられる場所としてさらに価値は上がっていくでしょう。

ここまでメディアにどのような影響があるのかを見てきました。ただ、今後どのように収益化していくのかはとても大きな課題です。9月にはリプレイ機能を有料化し、さらなる売上を図ります。これまでも1日1回は無料でリプレイできましたが、これからは99セント支払うことで3回リプレイできるようになったのです。

ビジネスインサイダーによれば、年間1億ドルの売り上げも見えてきたとのこと。広告と課金による収益化と新しいストーリーテリングの発明に期待したいです。

(2015年10月10日「メディアの輪郭」より転載)

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