入試も終わりどこに進学するのか、あるいは浪人して再チャレンジするのか。
今年から時期が後ろ倒しになりましたが就職活動も始まりました。
私の身のまわりでは、学部の3年生が大学院に進学するか、就職をするかを決める時期でもあります。
以前に比べれば選択肢が増えた分、迷うこともあるでしょう。就職では、大企業に入ったところで一生安泰ではないことがほとんどで、どうすれば良いのか、迷うことでしょう。
まあ、実は以前から、歴史のある企業に入っても一生安泰でなかったわけで、入る前から「どうなるかわからないぞ」と覚悟してある方がまし、とも言えます。
長い間続く企業というのは、同じ事業がずっと続くというよりは、時代の変化に合わせてフレキシブルに事業を変えて生き残る。事業が変われば古い事業の売却によって人も入れ替わることも多いので、会社が安泰だからといって従業員が安泰とは限らないのです。
進学にしろ、就職にしろ、入ってみなければわからないのに、決めなければいけない。
悩むのが当然ですね。
例えば私の専門の電気、電子、情報のような技術は多くの産業の基盤です。基盤の技術だけに、実際に仕事として何をするのかイメージつかみにくい。一見、電気や情報と関係ないように見える車には多くのCPUが搭載され、電力にしても巨大なITのネットワークによって制御されている。そういった現実は、ある程度の専門知識がないとわからない。
一方、わかりやすい仕事や学科はどうでしょうか。
例えば建築は最もわかりやすい分野の一つでしょう。建築のデザインに憧れる人は多いですが、実は根本的なデザインに携われる人はごく一部のようです。現実は、材料の開発だったり、構造計算だったり、あるいは誰かが設計したものの施工管理だったり、華やかな建築デザインには縁の下の力持ちのような仕事に従事する人の方がむしろ多数のようです。
宇宙・航空関係の仕事というのも、イメージと実際が異なる場合があるようです。私が就職した電機メーカーは事業の領域が広く、同期で入社した友人には衛星の開発をする人もいました。ところが、その多くが社内で仕事を変えてしまったり転職したり。理由を聞くと、衛星は10年、20年のスパンで開発するもので、開発期間が非常に長い。巨額な投資が必要で、トライ&エラーするわけにはいかない、「絶対に失敗が許されない」仕事だったことが、窮屈に感じたようです。
確かに、私が関係するメモリやストレージの分野でも、コンシューマー製品、特にモバイル製品では製品寿命が短く、万が一製品に不具合が出ても人の生死にかかわることも少ないことから、挑戦的な最先端の技術を積極的に使えます。
一方、企業向けのシステムでは、製品寿命は長く、高い信頼性が必要とされます。そうすると、技術の選択も慎重になり、技術者にとってはあまり面白くないケースもあります。
同様に、最新鋭の航空機に搭載されているCPUよりもスマホのCPUの方が最先端の技術で高性能というのが一般的でしょう。航空機のCPUにバグがあったら、最悪の場合、事故が発生し人が死にますから、どうしても新しい技術の採用には慎重になるでしょう。
こうして書けば、その分野・業界の人にとっては当たり前のことですが、進路を決める前に理解することは難しい。
ではどうやって決めるか?
完全な正解は無いのでしょうが、私の場合は人を見て判断してきました。学校でも職場でも、そこに居る人がいきいきとしていれば、そう間違えはないだろう。
また、「この人と一緒に働きたい」という直感を大切にしてきました。
何をやっているかは実際のところはわからないけれど、こういう人になりたい、ロールモデルを見つけることが、自分にとって就活や人生の選択だった気がします。
それは学生の時だけではありません。
私は今まで転職を2回して、企業から大学に移りましたが、大学の教員の仕事というのは、事前に想像しているものとは全く違いました。
教えること、研究することは当たり前。むしろ、研究するためのお金を集めなければ研究自体ができない。資金を集めるための企画、マーケティング、営業がこれほどまでに重要であるとは思いませんでした。
人生で選択する上で「ロールモデルを探す」というのは、私には良い方法でしたが、誰にとっても当てはまる正解ではないかもしれません。
例えば、他の人がどうであれ、自分の考えを貫き通すという選択も良いでしょう。
進学にしろ、就職にしろ、わからない中で決めていくプロセスは、自分なりに「どうやって選択するか、決める方法を見つける」ことなのでしょうね。
そして、選択する時は悩むでしょうが、決めたらとりあえず全力でやってみる。
選択した場所が事前に想像していたところとは違う方がむしろ普通でしょう。
それでも、まずは全力でやってみる。
やってみれば、その先に方針を転換するとしてもどうすればよいかが、少しずつわかってくるのではないでしょうか。
(2015年3月15日 「竹内研究室の日記」より転載)