東芝のような巨大企業を経営する困難さ

東芝、ソニー、パナソニック、日立・・・このような総合電機メーカーと言われた企業の多くはこの10年ほどの間に苦境に陥りました。

東芝、ソニー、パナソニック、日立・・・このような総合電機メーカーと言われた企業の多くはこの10年ほどの間に苦境に陥りました。

日立のように苦境から立ち直った(ように少なくとも外から見える)企業もあれば、ソニーのように今でも苦しんでいる企業もあります。そして「勝ち組」と見られながらも実は不適切な会計処理によって利益をかさ上げしていた東芝。

それぞれの企業の苦境の原因は個別の事情があるのでしょうが、どこもが広すぎる事業ポートフォリオをどのようマネジメントするか、「選択と集中」で事業領域をどのように絞って強みを強化できるかに苦しんでいたように感じます。

こうして言えば簡単ですが、事業を絞るということは、従業員をリストラしたり工場・事業所を閉鎖したり、従業員や地域に大きな影響を与えますので実行は簡単ではありません。

そして「選択と集中」により事業を絞ったとしても、それでもかなり広範な事業をマネジメントすることは容易なことではない。

例えば東芝の歴代社長の出身をみると、現在の室町社長が半導体、その前がパソコン、電力、パソコン・・・と様々です。

ソニーではテレビ局出身のハワード・ストリンガー氏が経営者になったことの功罪が、特にハードウエアの関係者から囁かれています。

とはいえ、誰が経営者になったところで全ての事業領域の経験があるわけではありません。

以前のように世界での競争も今ほどは厳しくなく、変化が緩やかな時代では、各事業部門からのボトムアップで事業を決め、経営トップの役割は「人身掌握」(その定義も曖昧ですが)で良かったのかもしれません。

しかし、どの事業も厳しい競争にさらされ、迅速な経営判断が必要とされている今では、トップのリーダーシップなしでは生き残ることが難しくなっています。

こうした「総合」メーカーの経営の困難さは日本企業に限らないでしょう。日本の総合電機メーカーがお手本としたIBMやGEも1990年代に苦境に陥りました。

IBMはルイ・ガースナーによってビジネスソリューション事業に集中、GEはジャック・ウエルチの「世界1,2位の事業に集中する」方針の下に家電事業などをリストラし、インフラや金融事業を中心とする企業に変身しました。

そのGEにしても、一時は大きな収益を上げていた金融事業を縮小・売却し、インダストリアルインターネットと言われるような、IT技術をコアに進化するインフラ・製造業に特化しようとしています。

東芝の問題に関しては「東芝の不適切会計に見る、会社と個人の平行線 キャッシュ・カウと言われた人たち」にも書いたように、成長事業を見誤った部分もあるのではないでしょうか。

不適切会計の舞台になった事業のいくつかは、かつて「将来性のある新規事業」と期待され、重点的に投資された事業です。

ガバナンスや「上司にノーと言えない文化」などが不適切会計の原因とされていますが、そもそも事業戦略の失敗を不適切会計でごまかさざるを得ない状況に追い込まれた、という面はないのでしょうか。

このように後出しジャンケンで戦略の失敗を指摘することは簡単ですが、問題はこれからです。

以前よりは事業の取捨選択が進んでいるとはいえ、それでも東芝のように非常に広範な事業を展開する企業の戦略を決めることは、誰が経営しても大変難しいと思います。

東芝だけに限りませんが、1つの企業としてマネジメントするのが困難であれば発展的に事業別に分離・統合する、ということを改めて考えた方が良いのかもしれません。

日本では事業が大赤字になってから、不採算事業を各企業から切り離し、統合することはしばしば行われます。

その一方、GEが現在も利益をあげている金融事業を切り離そうとしているように、苦境に陥る前に積極的な分離というのも、もう少しあっても良いのかもしれません。

日立がHDD事業(HGST)を売却したのは積極的な分離の例の一つかもしれません。売却時にHGSTは黒字でまだ保有していても良いのにと思ったものでしたが、コンポーネントビジネスから距離を置く、という判断だったのでしょうね。

(2015年8月23日「竹内研究室の日記」より転載)

注目記事