国家安全保障としての保健医療:日本版CDCの設立を

公衆衛生と言えば、日本では、役所や保健所、大学、研究所があるではないかと言う方もいるだろう。もちろん、そうした機関も大事なのだが、国家安全保障的役割が重要であることを忘れてはならない。その一番分かりやすい例が、感染症対策だ。

僕の最も尊敬する臨床医の一人に青木眞氏(感染症コンサルタント・JIGHアドバイザー)がいる。若手の研修医にも絶大な人気を誇る感染症の専門医だ。

先日、彼との会話の中で、なぜ日本で風疹などの感染症対策がうまく行かないのか、という話になった。

公衆衛生には、国家安全保障的役割もある。それが日本では正しく理解されていないのではないか、という話題になった。

公衆衛生と言えば、日本では、役所や保健所、大学、研究所があるではないかと言う方もいるだろう。もちろん、そうした機関も大事なのだが、国家安全保障的役割が重要であることを忘れてはならない。

その一番分かりやすい例が、感染症対策だ。

例えば、将来起こりうる鳥インフルエンザの大流行などでは、基礎研究、臨床、公衆衛生の知見を総動員しなくてはならない。そして、国家安全保障的観点からの対応が必要なのだ。

ここ数年の中国の感染症への対応は驚くべき迅速だ。遺伝型の同定、症例の把握、疫学研究などが世界の一流雑誌に即座に発表される。

その中心が中国・疾病管理予防センター (Center for Disease Control and Prevention: CDC)である。

米国CDCをモデルに設立されたこの組織は、単なる公衆衛生の役所でも、一研究機関でもない。それは、まさに「国を健康の脅威から守る」というミッションを持っている。

私がWHOで働いていた時に仲の良い米国CDCに勤務する疫学者の友人の一人が幹部に昇進したお祝いに自宅に呼んでくれ、そのまま泊めてくれたことがあった。翌朝CDCに出勤する時の彼の姿に驚いた。

彼は軍隊の制服を着ていたのだ。公式の会議ではCDCの幹部はいつもそうだと言う。

CDCは基本的には軍隊と同じ発想なのだ。ただし、戦う相手が感染症や地球規模の健康課題なのである。もちろん平和のための組織である。

米国CDCのエリートは、Epidemic Intelligence Service (EIS)というコースの卒業生だ。EISは公衆衛生のウエスト・ポイントであり、ここの卒業生がWHOをはじめ世界の感染症対策を仕切っている。Intelligenceという言葉にCDCの感染症対策に対する思想が込められているといって良い。

安倍政権の下、各省庁バラバラであった医学研究費を統合し、日本版NIHが設立され、戦略的な投資が期待される。私は、次に、国家安全保障的観点からCDC機能の設立が緊急課題であると思っている。

ワクチンを含めた感染症対策は、役所や研究所の場当たり的な判断に任せることはできない。国民の命を守るという発想で対応することが必要だ

感染症、あるいは、PM2.5による大気汚染は他の国との国境はない。お互い最新情報をわかちあい助け合わなければ健康被害を食い止めることはできない。保健医療に敵はいない。

日本外交が大きなトラブルに見舞われている今、CDC機能の確立のための議論が盛り上がることは日本のみならず、健康の脅威に苦しむ世界の国へも大きな平和のメッセージとなるだろう。

是非、日本版CDC設立の議論を早急に開始してもらいたい。将来日本で感染症が蔓延してしまったら、と考えると恐ろしい。あの時に準備しておけば、こんなことにはならなかった、では遅すぎる。

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