[世界の食卓を実際に訪ねてみた vol.12 キューバ編] 社会主義国家キューバの首都ハバナでいただく陽気な朝ごはん!

今回の舞台はカリブ海に浮かぶ社会主義国家キューバ!ハバナに住む老夫婦の食卓を訪ねた時のお話。KitchHikeの旅、初めての朝ごはんです。

●住所/キューバ・ハバナ

●家族/奥さん(65歳)、旦那さん( 65歳)

●住まい/鉄筋コンクリート造マンション 2LDK

●キッチン/ガス

●得意料理/アロス・コングリ(赤豆ご飯)

●今日のメニュー/雑穀のバンズ、トマト、スライスオニオン、ハム、サラミ、チーズ、目玉焼き、バナナ、グァバ、スイカ

●コメント/旅を楽しんで! いつでも戻ってきていいんだよ。ハバナは最高だろ?

こんにちわ、KitchHikeの胃袋外交大臣、山本雅也です。前回のメキシコ編に続いて、今回の舞台はカリブ海に浮かぶ社会主義国家キューバ!ハバナに住む老夫婦の食卓を訪ねた時のお話。KitchHikeの旅、初めての朝ごはんです。

キューバってどんな国?

「革命と情熱の国」、キューバ!ざっと歴史をおさらいしてみましょう。キューバは、1492年にコロンブスが上陸してからのおおよそ400年、スペインの占領下に置かれていました。

先住民や送り込まれた奴隷が労働力として扱われ、大規模な砂糖きびや葉巻のプランテーションが行われました。首都ハバナの港を中心に、スペインの大西洋航海の中継地点としても発展を遂げます。その影響で、公用語は今でもスペイン語となっているわけです。

1899年、ついにスペインから独立したわけですが、アメリカの息のかかった政権が続きます。腐敗した政治、民衆の暴動、アメリカの過干渉。キューバ国内はめちゃくちゃな状態だったと言われています。

1950年代、チェ・ゲバラとカストロ率いる革命軍が、農民ゲリラ兵とともに武装蜂起。1959年、ついにアメリカ追従のバティスタ傀儡政権を陥落して、国を民衆の手に取り戻しました。

チェ・ゲバラは、実は、アルゼンチン出身!ですが、貧困や病気、圧政と不平等に苦しむキューバ国民を救うため、全身全霊で革命を指揮しました。内務省外壁の大きなオブジェを見ればわかるように、今でもキューバ国民に心から敬愛されています。

この物悲しくも浪漫を感じざるを得ないストーリー。キューバを語る上で、知らないわけにはいきませんね。

街中がクラシックカーの博物館!

まったく既視感がないハバナの街並み!50年近く時が止まっているよう。それもそのはず、キューバは、アメリカの経済制裁によって、アメリカ諸国から一切の貿易を禁じられています。外界と異なる時間が流れるパラレルワールドにいる感覚を覚えるのです。

中でも、注目したいのがクルマ!大通りを矢次早に走り抜けていくのですが、見たことのあるクルマは、ひとつもありません。そう、すべて、クラシックカー。緑、赤、ピンク、紫、焦茶、水色、群青、漆黒。どれもシビれる渋さなんです。

自分で塗ったんじゃないか?とも思える、ところどころ剥げかけたマットな塗装がたまりません。遙かな時を刻んだシヴォレーやフォード。「ヴヴボボボボボ!」と死ぬほど燃費の悪そうな重低音が、空きっ腹の胃袋の中で反響しているのがわかります。

キューバの食卓を訪ねました。この旅初の朝ごはん!

「デサユーノ!デサユーノ!(朝ごはんだよ!)」

女性のしゃがれた声が飛び交う。今回、朝食を作ってくれたのは、恰幅がよく表情豊かなノリスさん!ハバナ生まれハバナ育ち、生粋のキューバのおばあちゃん。いつもガハハと笑っています。

同い年のお爺ちゃん、カルロスと2人で暮らしています。顔も体も大きいノリスと、痩せ気味で背の小さいカルロスが並んでいるのを見ると、漫画のキャラクターのようです。

キューバでは、カーサ(家)と呼ばれる一般の人の家に泊まることができます。人の家のごはんを食べ歩くKitchHikeの旅には持って来いの国!市民が外国人から直接外貨を稼ぐ手っ取り早い方法として、重宝されているよう。ご近所さん同士、宿に困っている旅人を見つけると電話で連絡を取り合って、空いている家に送り込みます。道で話しかけた人が偶然紹介してくれたのが、ノリス夫妻の家だったというわけです。

いつも通り、キッチンを見せてもらいました。台所はいつも楽しい!暮らしの顔色が一番良く出ていると改めて思うのです。ちょうど、牛乳をステンレスの鍋で煮沸した後、丁寧に濾しているところでした。

「この牛乳は珈琲用。キューバの珈琲は、世界一うまいのさ!」

世界中の珈琲を飲んだことがあるのか?と思ってしまいましたが、口には出さずに、おいしそうだね!と言うと、とろけるような笑顔で喜んでくれました。よく笑った人生を送っているのでしょ、顔中の笑い皺が弾けます。

朝ごはんはシンプルだけど色鮮やかなビタミンカラー。

テーブルの上に並んだ彩色豊かな食材たち。雑穀のバンズに、トマト、スライスオニオン、ハム、サラミ、チーズ、目玉焼き。デザートに、バナナとグァバとスイカ。タバスコと塩はお好みで。

熊の形をしたポットに入ったハニーは果物にかける。カラフルなランチョンマットと食器、そして大きな窓から差し込む朝陽。うーん、なんと鮮色の多い食卓だ!これがキューバの朝か!と思った。ビタミンカラーが多いと、それだけで元気になれますね!

トマト、スライスオニオン、ハム、サラミ、チーズ、目玉焼きの順にバンズに乗せ、軽く塩を振って、もう片方のバンズで挟み込みます。ハバナバーガーの出来上がり。ハンバーガーやサンドイッチの類は、どれだけに大胆に食べるかだと思うわけで。冬だったら、確実に唇が切れて出血するほど口を大きく開けて、思い切りかぶりつきます。

バンズの雑穀の感触を歯で感じ、順にそれぞれの食材の風味が口の中にふわっと広がります。見た目よりジューシーなハム、若干酸っぱく辛いサラミ、もしかして山羊か?と思わせるクセのあるチーズ、新鮮なみずみずしいトマトとオニオン。想像の斜め上の味ではあったけど、口の中のハーモニーが完璧!ハムもサラミもあるが、それほど肉肉しくない絶妙なバランスの味。

ハバナの朝を、空きっ腹で存分に味わうことができました。

「ムイ・リコー!(めっちゃおいしい!)」

とそう言うと、ノリスは自信満々に、

「そうだろう、そうだろう。わたしは、このサンドイッチを30年以上も旅人に食わせているんだからね!」

と言います。え、30年!?それ本当!?

AirbnbにもAgodaにもログインできず。IT革命が越えられない歴史と経済制裁。

キューバでの苦労のひとつは、インターネットがほぼ機能していないこと。中でも一番驚いたのは、街に一ヶ所だけ開放されているホテルの有料Wi-Fiに辿り着いた時。

なんと、AirbnbやAgodaなどの宿リストにキューバの登録が一軒もないのです。一切ログイン出来ないサイトもいくつかありました。宿を探すこともできない、そもそも宿の登録がないのです。

つまりは、アメリカのサイト経由でキューバにお金が落ちることは、あってはならないのです。ITは、世界を変える、フラットにする、と思っていました。でもここでは、まったくフラットではありませんでした。ITでは越えられない歴史を目の当たりにして、とても気持ちが落ち込んだのを覚えています。

ノリス夫妻が、30年間旅人を招いているのはどうやら本当のよう。見せてくれた宿帳には、世界各国からの来た旅人たちの数え切れないメッセージがありました。インターネットも存在しない時代、また存在していても活用できない時代でも、やることは同じ。旅人との心の通った交流。人と人との距離を近づけること。

ぼくは、ノリス夫妻の30年にその原点を見たました。WEBがなくても、つながるところでは、ちゃんとつながっている。初心に帰った気がしました。

社会主義国家キューバの今後。

「国民みな平等」の理念のもと、教育も医療もすべて無料。志があれば無償で学び続けることができるし、お金がなくとも病院に通うことができます。医療水準もかなり高く、途上国への技術支援などもしているそう。医者も先生も、職業に関わらず給料はほとんど同じ。一見聞こえはいいけれど、居れば居るほど、この国の負の側面を知らざるを得ません。

国民の平均月収は、20$以下。物資配給はあるものの、あまり上手くいっていないと聞きました。海外へ出ることもほとんどできず、貧しい生活を強いられています。一言で言うと、「お金を稼ぐ手段がない」のです。努力しても知恵を絞っても、裕福になれないのです。一緒にゴハンを食べたノリス夫妻のように、外国人旅行者から入ってくる外貨を稼ぐのが唯一の手段。

2014年末にアメリカが発表した経済制裁の緩和。これはキューバ国民にとって歴史的大事件です。どこまで緩和され、経済に影響があるかはわかりません。旅人や観光客からすると、ノスタルジックなキューバでなくなるのが残念、とか無責任に言ってしまいそうですが、暮らしている人からしたら死活問題。現地の状況を肌身で感じてしまったからには、外野から軽々しくそんなことは言えない気持ちになります。

ただただ、キューバの人たちの暮らしが改善されて、楽になることを願うばかり。もし、それでも、旅人からひとつだけわがままを言わせてもらえるとするならば。ノリス夫妻のようにゴハンを振る舞ってくれる愉快な人たちは、これからも旅人を家に招いて一緒に食卓を囲んでほしいなと心から思います。

旅先での出会いの原点を教えてくれたハバナの食卓に感謝!Estaba muy rico, gracias! (めちゃおいしかった!ごちそうさま!)

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(2014年1月16日「KitchHike マガジン」より転載)