北インドの代表都市、デリーで食べる家庭料理!玄関先で育てるホーリーバジルは、5,000年の歴史がありました。[世界の食卓を実際に訪ねてみた vol.9 インド編]|KitchHike

ことごとく思い通りにはならないと定評のインド。しかし今回はむしろ、予想を遥かに越えたおいしい体験ができました。

●住所/インド・デリー

●家族/父(44歳)、母(38歳)、長女(10歳)

●住まい/RC造マンション2LDK+お祈り用の部屋

●キッチン/ガス

●得意料理/インドと日本のフュージョン創作料理

●今日のメニュー/全粒粉のチャパティ、コーンとカブのスープ、マッシュルームと挽肉のボロネーゼ、ラム肉とレバーの香草炒め、パプリカとホーリーバジルのサラダ

●コメント/夏は外の気温が50℃を越えるんだ。おかげで誰も外に出れなくなっちゃうね!

こんにちわ、KitchHike/食卓探検家の山本です。

前回のスリランカ編から、やってきたのは、世界一のカオスが渦巻く国インド! 何もかも思うように進まないと噂のインド。ならば、もはや予定を立てずに攻めてみようという荒療治。出たとこ勝負でどれだけ楽しめるか、インドの旅を充実させる一番の方法です。Let's ノープラン!

まずは、世界遺産のタージ・マハルへ。

1648年に建設されたタージ・マハル。当時の王であるシャー・ジャハーンが亡き妻のために造ったことは有名です。国家が傾くほどの予算を注ぎ込んだ結果、次の王に追い込まれ、タージ・マハルを臨みながら、アグラ城の牢屋でその人生を終えました。

メインのゲートは人がいっぱいだったので、人の少ないヤムナー河を挟んだ対岸へ。人もまばらの荒涼とした河原越しに、ぼんやりと佇むタージ・マハル。思わず見とれているとお腹がグーと鳴って我に返るのです。

お腹が空いたら人とつながるいいチャンス。世界遺産よりもドキドキする、旅先で一番行きづらい場所、現地の人の食卓へ!

デリーのお家で家庭料理をふるまってもらいます。

待ち合わせ場所に渋い原付きカブで現れたのは、ジョッキーさん。今回のCOOKです。切れ長かつ大きな目と橙色に染めた髭が放つ異様なオーラに、あ、もしかして怖い人?と思い、急に食欲が失せてしまったのがホントのところ。

が、話し始めると礼儀正しく笑顔がこぼれるごきげんなあんちゃん。おいおい、不安にさせないでくれよ!と思いつつ、いつまで経っても慣れないKitchHikeの初対面は、この不安をドキドキとして楽しむに限ります。

20年以上乗っているという小さなカブが、大きな体に妙にミスマッチしていました。

まずは、近所のローカルマーケットで材料を買い出します。最近のデリーでは、行政が運営する食堂が繁盛しているそう。街の屋台やレストランの半額以下で提供しているらしく、民間のお店は逆にちょっと困っている状況だとか。

お家におじゃまします! お祈り用の部屋がありました。

リビングに併設する形でお祈り用の空間がありました。今回のCOOKであるジョッキーさんは、シク教徒。髪と髭を伸ばし、頭にターバンを巻くのが特徴です。

宗教上は、お酒やタバコが禁止されているらしいのですが、まぁ〜あんまり厳しくしてもね、と穏やかに話すジョッキーさん。実は、このシク教徒、インド人口の約2%ほど。思った以上に少ない!

それでも、どうやらシク教徒はそもそも教育水準が高かったり、経済的に恵まれていたりする家庭が多いらしく、給与や地位の高い仕事に就くことがわりと多いみたいです。

馴染みのキッチンで背筋を伸ばして調理をするジョッキーさん。実は、奥さまが日本人ということもあり、過去に名古屋のレストランでシェフとして働いていたこともあるそう。これは期待できる! 早くごちそうを放り込んでくれ、とばかりに胃袋も活気づいてきました。

包丁さばきや調理の手順を見ていると、確かにどうみても素人ではありません。切って、茹でて、漬けて、を同時にマルチタスクでこなします。調理しながら片付ける、ができる人の生活は間違いなく整理整頓されていて清々しいものです。

宗教の教義とは別に、柔軟なマイルールを持つこと。

台所にさりげなく置いてあったラム酒の瓶。これは料理で使うの?と聞くと、まぁ想像にお任せするよ、と笑うジョッキーさん。あれ? もしかしてお酒好き?

実は、KitchHikeの旅で出会う人は、無宗教の人が多く、特定の宗教を信仰していたとしても、かなりリベラルな考えを持っている人が多いのです。

旅行者を家に招いて料理をふるまえる人の暮らしは、そもそもとてもオープン。自分とは違うものを受け入れる度量があるように見えます。豊かな生活を送るために、自分にとって何が心地いいかを常に模索して実践しているようです。

宗教とは別のレイヤーで、ヨガや禅、サーフィン、アート、それこそベジタリアンや料理、食などを一番の"教典"として持つ人が増えている気がします。一部の宗教がより過激になる一方で、宗教から開放されてよりリベラルに生きられる時代になっているのかもしれません。

ホーリーバジルを収穫するのは、陽が出ている時だけ。

玄関とベランダに小さな家庭菜園がありました。ミニトマトや、ハーブやパクチーなどの香草がたくさん。中でも注目すべきは、インドで5,000年の歴史を持つホーリーバジル(3枚目の写真)! 別名、トゥルシー。何百もの薬効があり、一説には不老不死の葉とも呼ばれているとか!

更には玄関先や庭先で育てると、魔除けや邪除けになり、幸運を呼び込むと言われています。さすがインド! そんな凄まじい植物が各家庭で普通に栽培されていて、気軽に食べれちゃうなんて、この上ない贅沢なのではないでしょうか。

10歳になる娘さんが、丁寧にホーリーバジルを摘んでくれました。調理中のジョッキーさんの元へ届けます。う〜ん、味も効能も楽しみだ! しかし、ホントに不老不死になったら何しよう?

北インド家庭料理の主食、チャパティ!

インドのパンというと、ナンを思い浮かべがち。しかし実は10種類近くあるんです。その中でも北インドで主食とされているのが、このチャパティ!

全粒粉を塩と水で混ぜた生地を、薄く伸ばしてフライパンで焼いていきます。凄いスピードで20枚ほど焼き上げたジョッキーさん。このチャパティに具材を挟んで食べるのが北インド流だそうな。

家でもチャパティって焼くんですね!というと、そりゃそうでしょ!という返事。チャパティは日本人にとってのお米のようなポジションなんです。

シク教の代名詞、ターバンを巻き直します。

いよいよ実食!!!

と思いきや、その前にジョッキーさんのターバン巻き講座が始まりました。下地には薄手のオレンジターバン、その上に褐色の赤いターバンを力強く巻いていきます。

あまりにキツく巻くので、頭に血が回らなくなるんじゃないか!と心配になるほど。キツい方が仕上がりが綺麗になるそうです。確かに髭と合わせて、決まってますね。

最近では若い世代を中心に、派手な色のターバンが人気になっているとか。中には、水泳キャップのような帽子をカジュアルに被る若者も増えてきているらしいです。

ついに完成! 北インドの家庭料理をいただきます!

ついに実食!!! 正直腹ペコ! もう待ちきれない!

時計回りに、全粒粉のチャパティ、コーンとカブのスープ、マッシュルームと挽肉のボロネーゼ、ラム肉とレバーの香草炒め、パプリカとホーリーバジルのサラダ。

ラム肉とレバーの香草炒めは、ジョッキーさんのオリジナルの味付け。北インドでは馴染みのスパイスの数々と一緒に、隠し味に使ったのはなんと日本から持ってきたという焼き鳥のタレ!

これが本当に合うんです! チャパティに包んで食べるといくらでも食べれそう! 毎度同じくお腹がパンパンになるまで食べてしまいました。

国や地域ごとの伝統的な味付けは確かに大事ですが、こうして伝統をベースにしたおいしい創作料理を食べると、まだまだこれから世界中で新しい料理が生まれていくんだろうなと期待してしまいます。

これも家庭料理の柔軟性、やってみたら意外とおいしかった!という暮らしの延長線上から生まれるものなのかもしれません。

食後には、生姜とカルダモンが入ったチャイをいただきました。 とにかく甘いけど、何度でも飲みたい癖になる味。インドでは食後のチャイは欠かせませんね! 北インドの歴史にも詳しくなれたし、とにかく大満足のKitchHike体験。

「KitchHikeはインドでも受け入れられる文化だと思うよ! だって家の料理が一番おいしい。応援してるからがんばってね!」とジョッキーさん。またどこかで再会することを約束して、デリーを後にするのでした。

ことごとく思い通りにはならないと定評のインド。しかし今回はむしろ、予想を遥かに越えたおいしい体験ができました。予定調和の出来事や料理はおもしろくないんだな!と改めて思わせてくれたインドに感謝。

お腹が人とつながるいいチャンス! 世界の食卓と家庭料理を巡る旅は続きます!

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(2014年11月5日「KitchHike マガジン」より転載)