■世界一周!郷土菓子レッスンの旅 in アルゼンチン
こんにちは! 2016年から世界の郷土菓子を巡る旅に出た、"旅するパティシエ"鈴木あやです。
目標は、「国と国、人と人とをつなぐスイーツ・ストーリーテラー」になること。世界中で現地の人々から郷土菓子レッスンを受けながら、レシピだけでなく歴史・文化・暮らしと、立体的にその地域の魅力を発信していきます。
前回は、アルゼンチンで初の海外キッチハイクに挑戦、そして首都・ブエノスアイレス在住のアルゼンチン人COOK・ペフェン(Pehuen)さんと出会うまでの模様をお伝えしました。
今回はいよいよ、「一般家庭では、郷土菓子はどんなポジションなの?」「そもそも郷土菓子を食べるのは一般的なこと?」などなど、【アルゼンチンの郷土菓子】ストーリーをお届けします!
■アルゼンチンの郷土菓子レッスン、スタート!
......というわけで、ペフェンさん直伝、アルゼンチンの郷土菓子には欠かせない「ドゥルセ・デ・バタタ」「ドゥルセ・デ・レチェ」の2大パーツと、それらを使ったスイーツをご紹介♪
【ドゥルセ・デ・バタタ(Dulce de Batata)】
「ドゥルセ・デ・バタタ」は、直訳すると「甘い芋」のこと。サツマイモの原産地、南米アンデスのタイノ族の言葉で「バタタ(Batata)」は、「サツマイモ(スペイン語ではジャガイモ)」を意味します。
サツマイモのペーストをギュっと固めたもので、舌触り含め、味は和菓子の芋羊羹に限りなく近いパーツ。
ペフェンさん曰く「ドゥルセ・デ・バタタ」は、例えば"マロンペースト"や"マロングラッセ"のような位置付けで、家庭でイチから作るのは困難なため、市販のものを手に入れるのが一般的なのだとか。
確かに、スーパーには「ドゥルセ・デ・バタタ」がずらりと並んでいます!
瓶詰めタイプものや、チョコレート味、カボチャ味など種類も豊富。
そして、この「ドゥルセ・デ・バタタ」を使って、どんな郷土菓子が生まれるかというと...
1. ビヒランテ(Vigilante)
「ドゥルセ・デ・バタタ」とチーズを一緒に楽しむ郷土菓子で、直訳すると「自衛団員」の意。
諸説ありますが、守衛が立ったまま時間をかけずに食べられるように考え出されたお菓子と云われ、安い・早い・腹持ちが良い......ということから、広く親しまれるようになったそうです。
クラシカルな食べ方は、一切れの「ドゥルセ・デ・バタタ」に、スライスしたフレッシュチーズをのせるというもの。元々はアルゼンチン北部で一般的だったスタイルなのだそうです。
「ドゥルセ・デ・バタタ」の甘さが、チーズの塩気で中和され、サッパリとした味わい。ペフェンさんのおすすめは、さらにそこにフルーツを合わせるスタイル!今回使ったチェリーのように、酸味のあるフルーツがおすすめなのだとか。
2. パスタ・フローラ(Pasta Frola)
イタリアをルーツとする郷土菓子。 現在では「パスタ・フローラ」は、"タルト生地"や"タルトケーキ"を指す名称として広く使われ、南米の中でもアルゼンチンやパラグアイでよく見かけるお菓子です。
アルゼンチンのパティスリーに並ぶタルトは、もはやほとんどがドゥルセ・デ・バタタ味!
味はシンプルな"お芋のタルト"そのもので、日本人の私たちにも食べやすい一品。モンブランやマロンパイをなどと同様に、日本の秋の味覚を彷彿させます。
3. エンパナーダ(Empanada)
スペインとポルトガルが由来のスナック。「覆う・包む」の意味から、この名前が付いていることからもわかるとおり、 小麦粉ベースの生地に多種多様なフィリングを包んで、揚げたり焼いたりする軽食です。
中南米各地に、様々なスタイルの「エンパナーダ」がありますが、なかでもアルゼンチンでは種類が豊富で専門店があるほど。
また、アルゼンチンの「エンパナーダ」の生地は餃子の皮や、ピザ生地に近く(例えば、ペルーのエンパナーダ生地は甘いクッキーのよう)、中身の味を邪魔しないので、甘いフィリングを詰めることはよくあるのだそうです。
そこで登場するのが「ドゥルセ・デ・バタタ」。しっかりと生地で包んだら、オーブンで焼くか、油で揚げます。ペフェンさん曰く、アルゼンチンでは朝食としてよく食べられるのだとか。
4. パステリートス(Pastelitos )
小麦粉ベースの生地で、お花型になるようにフィリングを包み、油で揚げたお菓子。今回頂いたものは、パリパリとした餃子の皮のような生地を使っていて、歯ごたえがよく、甘い「ドゥルセ・デ・バタタ」との相性がばっちりでした!
元々、5月25日の革命記念日と、7月9日の独立記念日という、アルゼンチンでも最も重要とされる祝日に楽しむものだったそうです。それが今や、朝食・オヤツなどでいつでも食べられる定番の郷土菓子に変化したのだとか。
【ドゥルセ・デ・レチェ(Dulce de Leche)】
中南米の郷土菓子を語るには欠かせない、コンデンスミルクベースのキャラメルクリーム「ドゥルセ・デ・レチェ」。乳製品が豊富なアルゼンチンでは、最もメジャーなパーツのひとつです。
コンデンスミルクの缶をそのまま熱湯の中へ入れ、数時間ほど火にかければ手作りできるそうですが、あまりにも人気のパーツのため、様々な種類がスーパーなどで市販されています。
そして、この「ドゥルセ・デ・レチェ」を使って、どんな郷土菓子が生まれるかというと...
1. アルファフォレス(Alfajores)
スペインをルーツとする、中南米全域で大人気の郷土菓子。
クッキー生地にドゥルセ・デ・レチェをサンドし、ココナッツファインを飾るスタイルが基本ですが、今やその数は計り知れないほどバリエーション豊かな郷土菓子です。
国民的なお菓子のため、アルファフォレスのためのクッキー単体が、スーパーでも売られているほど!
このクッキーと「ドゥルセ・デ・レチェ」 、そしてココナッツファインを購入して、自宅で気軽に楽しむのがアルゼンチン流とのこと。
2. ピオノノ(Pionono)
薄いスポンジ生地を使った細いロールケーキ。語源は、ローマ教皇のピオ9世。「ノノ(nono)」はラテン語で「9番目」という意味で、このお菓子はピオ9世の時代にスペインで生まれ、ピオ9世の頭の形に似ていたことから、その名前が付いたのだとか。
原型は、薄くて細いロールケーキにカスタードクリームを挟み、その上にクリームとグラニュー糖を振って焦がすスタイル。
それがスペイン植民地時代にアルゼンチンに伝わり、南米の気候に適したクリーム「ドゥルセ・デ・レチェ」を塗るスタイルが人気になったのだとか!
なおアルゼンチンでは、出来上がったロールケーキの生地も、スーパーなど市販で手に入るというから驚き!
■郷土菓子レッスンを終えて......
たくさんの郷土菓子を知ることができたのはもちろん、なによりも、アルゼンチンでは諸外国に比べると、郷土菓子が人々の生活により身近なもなのだということを実感できました。
日本では、和・洋を問わず、特別な日にプロの作るスイーツを楽しむことの方が主流。もし自宅で手作りする場合には、材料から揃えなければなりませんし、そもそも自宅で"手作りの和菓子"は、なかなかハードルが高いものです。
しかしアルゼンチンでは、ある程度の市販のパーツを購入して、自宅で好きな時に・好きなだけ・好きなように食べるのが一般的。実際に街中のスーパーには、誰にでも手軽にカスタマイズできるようなお菓子のパーツが沢山並んでいました。
また、幼い頃からおばあさんの手作りのお菓子に親しんできたペフェンさんのように、郷土菓子はアルゼンチンの家族団らんの場に、ごく自然とあるもの。
パラグアイの取材でも感じたように、アルゼンチンでもやはり、単なるモノとしてではなく、コトとしての郷土菓子の価値を強く感じました。
この背伸びをしていないアルゼンチン・スタイルを、パティシエとして日本にも広げていたい......そんな想いが芽生えた、今回の初・海外KitchHikeでした。
ペフェンさん、ごちそうさまでした!!
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(「KitchHike マガジン」より転載)