音楽パクリ問題を著作権的に考える

ポップチューンのパクリ疑惑問題は定期的に話題になりますが、著作権的に検討してみましょう。まず世の中でパクリ騒動になるものをパターン分けしてみます。

NTTドコモのCM曲で使われている「ずっと」という曲の冒頭がORIGINAL LOVEの1993年のヒット曲「接吻 kiss」に似ているというのが話題になっています(参照記事)。また、きゃりーぱみゅぱみゅの新曲「ゆめのはじまりんりん」のAメロがGAOの1992年のヒット曲「サヨナラ」とほぼ同じというのも話題になっています(参照記事)。該当曲へのリンクはここには貼りませんので、ご興味ある方は別途音源を入手して聞いてみて下さい。

このようなポップチューンのパクリ疑惑問題は定期的に話題になりますが、著作権的に検討してみましょう。まず世の中でパクリ騒動になるものをパターン分けしてみます。

まず、本来的にはパクリとは言えないものです。

パターン1.音楽ジャンルとしての定型パターン

音楽のジャンルによっては形式美が確立しているというか、バリエーションが少ないものがありますので「この曲はあの曲とコード進行が同じだ、パクリだ」なんて議論してもしょうがないケースがあります。

パターン2.意図的な引用・パロディ・インスパイア

こういうのも広義には「パクリ」とされてしまうのかもしれませんが、表現方法のひとつとして当然に認められるべきです(たとえば、プロコル・ハルム「青い影」→荒井由実「ひこうき雲」)。ただし、グレーゾーンはあるので元作品の著作権者との見解が相違して、下記のパターン5に当たるかどうかが争われることもあるでしょう(これはおもしろいテーマですが長くなるので別の機会に書きます)。

パターン3.多重ライセンス

要はカバー曲のようなものですが「パクリ」と勘違いされるパターンです。(特に北欧系の)ソングライターチームが世界の各地域ほとに楽曲をライセンスするというビジネスモデルを採用していることがあります。たとえば、少女時代の「Genie」はノルウェイのDSIGN MUSICというチームの作曲なんですが、同曲はヨーロッパではNathalie Makomaというオランダのシンガーの「I Just Wanna Dance」としてライセンスされてます。詞以外はまったく同じなので完全なパクリと騒がれたりしましたが同じ曲なので当然です(余談ですがこの曲改めて聴くと結構凝ってて名曲ですね)。

次に本来的にパクリとして検討すべきパターンです。

パターン4.偶然の一致

Aメロやサビが偶然丸ごとそっくりになるということはないと思いますが、曲の一部のフレーズが偶然似ることはあり得ます。特に上記のように音楽のジャンルとしての定型パターン部分だったりするとその可能性は高くなります。

パターン5.意図的な盗用

どうせばれないだろうと言うことで故意に他人の作品を盗用するケースです。これが狭義のパクリですね。昔であればマイナーな海外の作品をパクれば、ばれないケースもあったのかもしれませんが、今はネットのせいでバレバレのケースも多いと思います。

パターン6.無意識の盗用

作曲の過程において過去に聴いて潜在記憶に残っていた曲が無意識のうちにでてきてしまうケースです。自分もちょっと作曲したりしますが、いいメロディができたと思っても一晩寝かせておくと「あの曲と一緒だった!」なんてケースは多いですね。

では、上記パターン4、5、6を著作権的に見ていきましょう。

重要なポイントは著作権侵害が成立するためには、依拠性(元作品に基づいていること)、および、類似性(結果として著作物として元作品と似ていること)の両方が必要という点です。

つまり、パターン4は著作権的にはセーフです。有名な判例として「ワンレイニーナイトイントーキョー事件」があります。私も、ある著作権法のセミナーで元曲(「夢破れし並木道」)と比較して聴かせてもらったことがありますが、まあ偶然の一致でもおかしくないなというレベルでした。

著作権法的にはパターン5とパターン6はあまり変わりません(裁判官の心証には影響するかもしれませんが)。これも有名な判例である「記念樹事件」では、曲の類似性があまりにも顕著であるため偶然の一致はあり得ないとして(故意かどうかは関係なしに)著作権侵害が認定されました。元曲は小林亜星の「どこまでもいこう」ですが、聞き比べてみると、これはパクリ(社会通念的にも著作権的にも)と言われてしょうがないと言えます。たぶん、上記のパターン6にあてはまるのではないかと思います。

さて、冒頭の2つの例に戻って考えてみましょう。パターン4、5、6のいずれにあたるかは微妙なところです。元曲は20年近く前の曲なので作曲者が聴いたことない(つまり、上記の依拠性の要件を欠く)可能生もあります。

ただ、仮に偶然の一致(つまり著作権上はセーフ)だったとしても、誰でも知っているようなヒット曲とフック部分(曲の特徴的な)がそっくりの曲を出すのは社会通念的にまずいでしょう。このような場合は、エグゼクティブプロデューサー的な人が「これは昔流行ったxxxと同じなんでまずいんでは」と指摘すべきだと思うのですが、まあ、現実には、たとえば中田ヤスタカにダメ出しできるプロデューサーなんていないんでしょうね。

これに関連して、小室哲哉が飛ぶ鳥を落とす勢いであった時に「Hate Tell A Lie」とかめちゃくちゃな英語タイトルの曲に対して、レコード会社には普通に英語教育受けてきた人も帰国子女もいるだろうに誰も何も言えないのだろうかと思ったことがありますが、まあ言えなかったんでしょうね。

追記: 鼻歌で歌うとデータベースサーチして曲名を教えてくれるアプリがあります(たとえば、SoundHound)。2ちゃん情報なんですが中田ヤスタカはそういうアプリで過去に似た曲がないか調べているという説もあります。試しに、自分が「ずっと」の冒頭を歌ってみたところ「接吻」がリストアップされました。「ゆめのはじまりんりん」を歌ってみたところ、「はじまりんりん」も「サヨナラ」もリストされず似ても似つかない外国曲がリストされました。自分の歌が下手だからなのかデータベースに登録されてないからなのかはわかりません。まあ、こういうテクノロジーがあるので、ソングライターの方は、偶然にしろ、無意識にしろ過去曲と酷似してないかチェックしてみてもいいんじゃないかと思います。

(2014年2月19日「栗原潔のIT弁理士日記」より転載)

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