オタマジャクシの救出。野うさぎと羊。猫と鷹。

私は、とても、幸せな気持ちで、洗濯を続けた。

今朝は、晴れて、青空が広がっていた。ツバメが2匹、風に乗って旋回し、空気を切るように鋭くターンして飛んで行った。春になってから、初めてのツバメだ。先乗りして、夏の間に滞在する場所をチェックしているのだろう。すぐに、何十匹も群れでやって来て、庭を飛び回るようになるに違いない。

Paul Coleman

空を仰いでいると、キティーが茂みの陰から出てきて、獲物を口にくわえながら、「ニャア、ニャア」と低い声で鳴いた。この声は、「プレゼントを持って来たよ」という合図だ。キティーは、私の足元までやって来て、プレゼントをポトリと落とし、「食べて!」と言わんばかりに、私を見上げた。今朝のプレゼントは、息絶えた野ネズミだった。

「ありがとう、キティー」

私は、キティーをがっかりさせないように、感謝の気持ちを表して言った。それから、木の枝を2本探してきて、ネズミを拾い、いつもの場所に持って行った。いつもの場所というのは、森に住んでいる鷹のカップルのために、キティーが食べなかったネズミを置いておく場所だ。

ネズミを置いた場所から少し離れ、キティーを肩に乗せると(キティーは、肩に乗って、庭を散歩するのが大好きなのだ)、頭のすぐ上で、シュッと風を切る音が聞こえた。見上げると、鷹が1匹、私たちの真上を飛んで行った。鷹は、地上に降りて、ネズミをくわえると、素早く飛び立って行った。鷹のくちばしから、ネズミがぶらさがっているのが見えた。

「ワオ!あっという間だったね!」私は、言った。キティーは、鷹の飛んで行く方向を目で追っていた。

家に戻ると、今度は、ポールが窓の外を見て、叫んだ。

「あれ、何だ?あそこで、何してるんだろう?」

見てみると、それは、大きな野ウサギだった。身体は茶色で、耳の縁が黒い。ウサギは、小道の真ん中に座って、しばらく、何かを眺めていたかと思うと、家の方へ向かって、ぴょん、ぴょんと跳ねて来た。ポールが、カメラを取りに行った。

Paul Coleman

ウサギは、小道をぴょん、ぴょんと跳ねて、家から10メートルぐらいのところまで来た。若く、丸々と太って、健康そうだった。ウサギは小道に座り、そのまま、また、長いこと、じっと動かず、遠くを見つめていた。まるで、景色を愛でているかのようだった。

春から夏にかけては、野ウサギが庭を横切って行くのを、よく見かける。時には、子ウサギたちが草原を走り回って遊んでいたり、寝そべって、日向ぼっこしたりしているのを見かけることもある。彼らが、安心して、ここで暮らしているのは、嬉しいことだ。私たちは、彼らの邪魔をしないし、彼らも、畑の野菜を食べたりしない。多分、草がたくさん生えているので、野菜を食べる必要がないのだろう。

朝食を済ませた後、今日は、池の修理をした。この池は、去年の夏、近所の犬が暑さのあまり、飛び込んで、池に敷いてある防水シートを引っかいて破ってしまったのだった。防水シートを取り替えるには、まず、池の水を全て排水しなければならない。そのために、池の中で冬を越していたオタマジャクシを掬って、他の池に移すという救出作戦が待っていた。

そこで、ポールが網を持って池に入り、オタマジャクシを1匹ずつ掬った。どれも、もう、小さな足が生えていた。身体は、黒と金色で、とても、美しかった。

ポールが、オタマジャクシを掬っているのを見ていたら、子供の頃に行った金魚すくいを思い出した。私の田舎では、夏に神社の境内でお祭りがあり、両親が毎年、私と妹たちを連れて行ってくれた。神社の参道の両側には、たくさんの出店が並んでいた。中でも、私のお気に入りは金魚すくいだった。でも、私は、とても、のろくて、何度やっても、紙が破けてしまい、金魚を掬えたことが一度もなかったのだった。

「お!もう一匹、掬った!」

ポールは、嬉しそうに、とても素早くオタマジャクシを掬った。私は、それを、バケツに入れて、他の池に移した。すると、タビーが、楽しそうな雰囲気に誘われて、どこからか、やって来た。タビーは、防水シートを抑えるために池の周りに敷いておいた草のブロックの上にゴロリと寝転んで、楽しそうに、ゴロゴロと転がっていたけれど、太陽があまりにも気持ち良かったらしく、うとうととし始め、眠ってしまった。

Paul Coleman

最終的に、20匹以上のオタマジャクシと、蛙を1匹、救出し、残りの水を排水して、新しく防水シートを敷いた。その後、敷地の後ろに流れている小川から水を引き、池に水を入れた。この池は、5000リットル入るので、畑に水を蒔くために重宝する。多分、2、3日もしたら、新しい蛙の家族が入居することだろう。

天気が良く、気持ちが良かったので、私たちは、池の周りに座ってコーヒーを飲み、しばらく、久しぶりの晴れの日を楽しんた。

ちょうどいいタイミングなので、午後は、洗濯をすることにした。

ハーブガーデンの傍で、手洗いで洗濯をしていると、また、タビーがやって来て、私の足元に寝転んだ。すると、何かが、ゴソゴソと動いている音がした。振り向いてみると、フェンスの向こう側で、羊の群れが、草を食べていた。群れの中には、まだ、生後数日の小さな赤ちゃん羊が何匹もいた。

タビーは、フェンスまで走って行って、じっと、羊の赤ちゃんを眺めた。羊の赤ちゃんは、ぎょっとして、顔を上げ、タビーと目が合って、立ちすくんでいた。赤ちゃん羊は、白黒のブチで、とても可愛かった。もっと、観察していたかったけれど、「メエ、メエ、メエ」とお母さん羊の声がすると、あっという間に、赤ちゃん羊たちは、丘を駆け下りて行ってしまった。

Paul Coleman

そこへ、キティーがやって来て、また、地面に何かをポトリと落とした。タビーが気づいて、走って行くと、キティーは、素早く、段々畑の上に飛び上がった。タビーは、じっと、キティーが落としたものを見ていたけれど、興味がないらしく、戻って来て、また、私の足元に寝転んだ。

「何だったんだろう?」

洗濯の手を止めて、見に行ってみると、それは、死んだ野ネズミだった。タビーがネズミを食べないのは、珍しい。キティーも、興味がなさそうだったので、木の枝を使ってネズミを拾い、鷹のためにネズミをいつもの場所に置きに行った。すると、キーキー、キーキーというハイピッチの鷹の鳴き声が聞こえた。鷹は、2、3回、屋根の上を旋回すると、近くの木のてっぺんに止まった。キティーとタビーは、少し、警戒しながら、鷹を見ていた。

「あれ?今朝も同じようなことしてなかったっけ?」

私は、一人で笑った。今朝と全く同じ光景を繰り返しているのが、可笑しかった。

洗濯に戻って、シャツやズボンを洗い始めると、また、鷹の鳴き声がした。見上げると、鷹は、私の頭の上で、何度も旋回していた。まるで、「ありがとう」と言っているかのようだった。

鷹は、森の方へ飛んで行き、キティーとタビーは、それぞれ、気の向くままに、どこかへ歩いて行った。

「なんだか、今日は、たくさんの生き物たちに出会った一日だったな」

私は、とても、幸せな気持ちで、洗濯を続けた。

~「シンプル・ライフ・ダイアリー第22回 10月15日の日記」より~