南米チリのパタゴニア地方、アンデス山脈の麓で暮らす私たちの日常のストーリーを綴っています。今回は、その11回目です。
「シンプル・ライフ・ダイアリー」8月3日の日記より。
朝、起きると、空は、雲に覆われていた。外に出ると、かすかに暖かく、春の気配を感じた。グーズベリーの木から、黄緑色の芽が出始め、水仙の可憐な花が咲き始めた。
オウムの群れが、庭を横切って、低く飛んで行った。美しい緑の羽と赤い尾が見えた。隣りのマリアの農場から、「メエー」という、か細い声が聞こえた。子羊が生まれたらしい。春が近づいているというサインだ。
今日は、オーガニック協会顧問のカロリーナから、グッドニュースが届いた。コミュニティーレベルで有機の蜂蜜を作るために、政府が主催するスタートアップ・コンテストに応募したことを知らせてくれたのだ。
もし、資金援助を受けられれば、協会のメンバーは、養蜂の仕方を学ぶ講習会に参加したり、養蜂を始めるために必要な道具や、ミツバチのファミリーを買うことができる。
「わお!ファンタスティック!」私たちは早速、コンテストのページをフェイスブックでシェアした。たくさんの人から「いいね!」がつけば、コンテストに勝てる可能性が高まる。
すると、今度は、キノコ栽培の専門家をラフンタに呼べることになったというメッセージも入ってきた。
「おお!!なんか、ワクワクしてきた!」私は、踊り出したいような気持ちだった。
ハチミツとキノコを自分たちで作りたいというのは、ずっと私たちの夢だった。数日前、私たちのキャビンでオーガニック協会のミーティングをした時に、キノコの専門家が来てくれたらいいねという話をしたばかりだったし、偶然、薪からキノコが生えていることを発見したのも、その日だった。その上、ハチミツを作れる可能性も出てきたなんて!なんだか、クリスマスが来たみたいだった。
「たぶん、ミーティングの時のエネルギーが、良かったんじゃないかな」とポール。
「みんなのエネルギーが、あの日は、とても良かった。それが、いろんなことを起こす手助けをしているのかもしれないよ」
「うん、私もそう思う。いろんなことが、ものすごくスピードアップしている気がするよね」
昨日は、ラフンタの農業局の局長、ハイメが突然、訪ねて来た。ハイメは、これからは、私たちがやっているような持続可能な農業プロジェクトをもっと資金援助して行きたいというビジョンを話してくれ、援助プログラムの利用者として登録してみないかと誘ってくれた。
ハイメは、9月に赤ちゃんが生まれる予定で、子供を育てることを考えた時、地元でできた安全な食べ物を子供に食べさせたいと思い始めたのだと言う。願ってもいない話なので、喜んで、利用者として登録することにした。もしかしたら、キノコ栽培のために必要な資金援助を受けられるようになるかもしれない。
ハイメからの申し出に触発されて、ポールは、キノコ栽培についてのリサーチを始めた。薪から生えてきているキノコを大きくして、もっと、生やすようにするためには、一晩、木を水に浸すといいと書いてあったので、早速、一輪車に水を入れ、キノコが生えている薪を浸した。
さらに、壊れた薪小屋に行って、ずぶ濡れになっていた薪を見てみると、そちらにも、キノコがたくさん生えていた。中でも、一番多く生えていたのは、ブルー・オイスター・マッシュルームだった。早速、この美しいキノコを写真に撮った。
「これを一年中、育てられたら、いいよね。もし、栽培に成功したら、地元の人にとっても、新しい収入源になる。すでに森に生えているんだから、環境は、完璧なはずだよ」ポールは、興奮していた。
考えてみれば、薪からキノコが生えてきたなんて、ミラクルだ。ずっと、キノコを育てたいと思って、キノコの菌を売ってくれる人を探していたのだけれど、何年も見つからなかったし、まさか、薪から生えてくるとは、思ってもいなかった。
薪は、ドゥベさんの森から来る。ドゥベさんからは、毎年、薪を買っているけれど、キノコが出たのは、初めてだ。たぶん、薪小屋の屋根が崩壊したことが、功を奏したのだろう。大雪で屋根が壊れて、薪が、ずぶ濡れになったおかげで、偶然、キノコが生えるのに完璧な環境が整ったらしかった。
屋根が壊れた時、春になったら、修理をしようと、のんびり構え、そのままにしていたおいて、本当によかったと思う。薪小屋が雪で壊れるなんて、一見、大惨事に見えるけれど、人生、何が幸いするか、わからない。
たくさん、キノコが取れたので、夕食は、オリーブオイルと海の塩、ガーリックで、ブルー・オイスター・マッシュルームをソテーして食べた。これは、本当に、頬が落ちるほど美味しかった。
さて、キノコの栽培の夢は叶った。ハチミツを作る夢も実現しつつある。
あと、もう一つ、やってみたいのは、ブルーベリーの栽培だ!
ブルーベリーも、どうやって手に入れるのか、今は、全くわからないけれど、きっと、いつか、私たちのところにやって来るに違いない。
そう、まるで、魔法のように!