創造すると、生きるエネルギーが湧いてくる

原生林と川と湖と氷河に囲まれた南米チリのパタゴニア地方で暮らす私たちの日常のストーリーを綴っています。

原生林と川と湖と氷河に囲まれた南米チリのパタゴニア地方で暮らす私たちの日常のストーリーを綴っています。今回は、その26回目です。

「シンプル・ライフ・ダイアリー」11月15日の日記から

今日は、雨が降っている。昨日、たまっていた洗濯物を手洗いしたら、4時間かかってしまった。そのせいで、腰が痛むので、ゆっくりするには、ちょうどいい。外に干した洗濯物は、雨が濯いでくれている。

肌寒いので、今朝は、ポールが蒔ストーブに火をつけた。私は、昨夜一晩、発酵させておいたチアバタ・パンの種を二次発酵させるために、焼き型に移した。パンの準備が出来たところで、次は、ココナツ・クッキーを作ることにした。「ココナッツ・クッキーを作る」と言うと、「おお、ファンタスティック!」と、ポールは、大喜びだった。

ココナッツ・クッキーは、砂糖を使わないので、甘過ぎないし、とても、簡単に作れる。材料は、ココナッツ・フレーク、ココナッツ・オイル、熟したバナナ、オートミール、砕いたアーモンド、レーズン、ココア、乾燥ラズベリー(これは、うちの庭から採れたものを使った)。これらを混ぜ、スプーンで掬って丸め、オイルを薄くしいたベーキング・トレイに載せて、焼くだけなのだ。

そうこうしているうちに、ストーブの薪の火が弱まったので、まずは、チアバタを入れた。ストーブは、オーブンではないので、温度計や火力の調節機能はない。火の加減を目で見て、手を入れて、温度を確認するというアナログ式。もちろん、火傷をしないように、さっと手を入れて、さっと出す。パンを焼くのには、少し高めの温度。クッキーやケーキを焼くには、低めの温度。これも、試行錯誤しながら、何度もパンを焦がして、感覚的に習得した。チアバタは、やや高温で30分。その後、低温になったところで、ココナッツ・クッキーをストーブに入れ、20分で焼き上がった。

手作りのチョコレート・ココナツ・クッキー
手作りのチョコレート・ココナツ・クッキー
Paul Coleman

「うーーん」ポールも私も、ココナッツ・クッキーを頬張った。外はサクサク、中は、しっとり。バナナとココナッツ、ラズベリーとココアの味と香りが広がった。

考えてみれば、子供の頃から、お菓子を焼くのが好きだった(食べるのは、もっと好きだったけれど)。15歳の誕生日には、父にねだって、電気オーブンを買ってもらった。私には、妹たちとお菓子やケーキを分け合って食べるのではなく、全部、独り占めにしたいという夢があった。そこで、私は、自分でお菓子を焼くことにしたのである。

電気オーブンを買ってもらってからは、チーズケーキ、クッキー、アップルパイ、シュークリーム、イチゴケーキなど、夢中になってお菓子を焼いた。ノートにレシピを書き込んで、自分専用のレシピ本も作った。でも、大学に入ってからは、お菓子作りのことは忘れてしまった。それが、今、この歳になって、また、お菓子を焼く喜びを味わっているのだから、人生とは面白い。

「さて、次は何をしよう?」

雨は止みそうもないので、次は、苗ポットを作ることにした。今年は、30種類以上のハーブや花の種を買った。その中には、アニス、キャラウェイ、フェヌグリークなど、「土に還る苗ポット」に植えなければならないハーブがいくつかあった。でも、「土に還る苗ポット」など、ラフンタには売っていない。ならば、作るしかないのである。

そこで、段ボール箱を探し、ハサミと紙の粘着テープを使って、苗ポットを6個作った。そこに、コンポストと土を入れ、アニス、キャラウェイ、フェヌグリークの種を蒔いた。これもまた、子供に戻ったようで楽しかった。子供の頃、大好きだった図工の時間を思い出した。

Handcrafted Biodegradable Pots
Handcrafted Biodegradable Pots
Paul Coleman

そう言えば、6歳か7歳の時に、みかん箱を使って、リカちゃんマンションを作ったことがある。買ってほしいと、父にねだったのだが、「そんなもの買う余裕はない」という一言で却下されたので、自分で作ることにしたのだった。ドアや窓を切り抜き、テーブル、椅子、ベッドなども、ダンボール紙で作った。なかなか、立派な出来だったけれど、本物のリカちゃんマンションを持っている友達のことが、うらやましく、自分で作ったリカちゃんマンションは、恥ずかしくて、見せることが出来なかった。

当時は、欲しい物を買ってもらえず、地団駄を踏んで大鳴きしたりしたけれど、子供の頃、何でも買ってもらえる環境でなかったことは、良かったのだと今では思う。必要に迫られて、私の中にある創造性が発揮され、物づくりの喜びを味わうことを覚えたのだから、父に感謝しなければならない。

物づくりの喜びは、パタゴニアに住んでから再発見したことの一つである。畑で野菜を育てるのだって、物づくり。そこには、創造性が必要とされる。学びの連続。試行錯誤。うまくいった時には、喜びと達成感があり、自信につながる。

私たちの家も、創造性の賜物だ。家を設計したことも、建てたこともないポールが、世界に一つしかないユニークな家をデザインし、建築することができたのは、彼が創造性を発揮したからだし、その上、家具まで全部作ってしまったのだから、それには、彼自身も驚いていた。(家具は、ラフンタに売っていないし、売っていたとしても、市販の家具は買いたくないというのが理由だった)

ポールが、最初に作った家具は、食料が収納できるベンチである。6年間、ほとんど、毎日座っているし、この日記も、ベンチに座って書いている。家具の出来栄えは、職人並みで、ポールは、隠れた才能を発見したことにとても喜んでいた。若い頃、ヨットで働いていて、ヨットの本体をやすりがけしたり、ペンキ塗りやニス塗りなどをした経験も役立ったらしい。

Food storage bench - beautiful and practical for a farm house
Food storage bench - beautiful and practical for a farm house
Paul Coleman

造園デザインが大好きだということも、ポールは、ここで発見した。もともと、牧草地でたった2本しか木が生えていなかった土地に、木を植え、森を作り、遊歩道を作り、池や段々畑、ハーブガーデン、花壇を作った。今、この土地にある全てのものは、彼の想像力(イマジネーション)と創造力(クリエイティビティー)から作られた。

菊池木乃実オフィシャルウェブサイト

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