「世界最強のネットニュースメディア」ハフポストの力で、草の根的な「シビック・ジャーナリズム」を日本にも

このたびハフィントンポスト(ハフポスト)日本版の編集長に就任しました高橋浩祐です。よろしくお願いします。
The Huffington Post

このたびハフィントンポスト(ハフポスト)日本版の編集長に就任しました高橋浩祐です。よろしくお願いします。

今夏、編集長という大任をお引き受けすべきかどうか、正直悩みました。軍事関連の年鑑で有名な英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」の東京特派員の仕事も順調にいっているし、そして何より、英文記者を目指して日本の新聞社を辞めてアメリカ留学までしたのに、また日本語のニュースサービスの仕事に戻ってしまえば、元の木阿弥に戻るだけではないか、と。

しかし、ハフポストにはいくつもの魅力がありました。まずは将来性です。今、アメリカの新聞社は、ニューヨークタイムズ(NYT)でもウォールストリートジャーナル(WSJ)でも、従来の紙媒体からデジタル媒体重視の「デジタルファースト」の経営に移行してきています。2005年に誕生したばかりのハフポストのサイト訪問者数は既にNYTやWSJをしのぎ、「世界最強のネットニュースメディア」に躍り出ています。独自の取材にも力を入れ、アメリカ最高のジャーナリズムの賞とされるピューリッツァー賞も受賞し、アメリカではすでに名声が確立した主要メディアになっています。かつて私が寄稿していた香港拠点のネット新聞、アジアタイムズ・オンラインが、ビジネスモデルがうまく築けず、私を含むジャーナリストたちへの給与未払いの事態に陥ったのとは大違いです。

そして、私がより一層、ハフポストに魅力を感じたのは、日本社会に必要な新しい時代のジャーナリズムの力を持ち合わせていることです。それは、実際の暮らしの場で起きている社会問題を市民の視点から掘り起こすシビック(市民)・ジャーナリズムの力です。ハフポストは、ニュース速報や特集、エンターテインメントの情報源であると同時に、読者が活発に意見交換や対話を行うコミュニティーです。記事のコメント欄やブログを通じ、さまざまな問題を抱える市民に発言と議論の場を提供し、解決を手助けできる役割を担っています。

これに対し、日本の伝統的なメディアは、強固な記者クラブ制度を足場に、永田町の政治家や霞ヶ関の中央省庁といった権威や権力から発信される情報を上意下達のごとく報じる傾向があります。中央省庁や主要政党の記者クラブを拠点にした取材では、複雑化する現代社会のニュースを十分にすくいきれなくなっているにもかかわらず、記者は日々の取材に追われ、なかなか記者クラブの席を立って、街に繰り出すことができずにいます。私も日本の新聞社に勤めたころは、情報が集まる永田町や霞ヶ関周辺からニュースを得ることに必死でした。

その結果、何が起きているのでしょうか。日本の朝刊一面や二面に載る記事は、「政府は」「安倍首相は」「厚生労働省は」「日銀は」といった権力や権威が主体の主語で始まるニュースが圧倒的になっています。また、記者たちは、ニュースを提供してくれる政治家や役人、企業関係者ら中央のエリート層とばかり話し、読者でもある一般市民と対話することを忘れがちになってはいないでしょうか。

もちろん権力に接近し、内実に迫って、権力を監視するウォッチドッグ(監視者)機能は、ジャーナリストの最も大事な仕事であることは理解しています。ただ、日本の場合、多くの記者が夜討ち朝駆けといった権力への「べた張り取材」を続けることで、読者がいる市民社会と価値観を共有する機会が十分に確保されていると言えるでしょうか。

ハフポスト日本版では、そんな政治家や役人のエリートたちの声に耳を傾けがちなジャーナリズムよりも、市民生活の苦しみや葛藤をすくいあげるシビック・ジャーナリズムを目指したいと思っています。市民レベルの生活に視点を置き、社会の現場の問題点をあぶりだす市民のためのジャーナリズム。政治家や役人に対し、「こんな問題が市民生活では起きているけど、政治や行政はいったいどうするの?」と、問いかけるような記事やブログを多く掲載していきたいと思っています。これまでの日本の報道ではあまり目立たなかった草の根レベルの「下」から、権力側への「上」へ、情報を発信し、政治家や行政を下から突き動かすようなジャーナリズムを実践していきたいと思っています。幅広い意味で、これも草の根レベルから、権力を監視するウォッチドッグ機能の一つだと思っています。

いろいろな違った意見や背景を持った読者が、ハフポストの提供する交流と議論のフォーラムに集う。そして、草の根レベルで問題を掘り起こしたり、地道な議論を交わしたりしていただいて、みんなで一緒になって問題解決に向かっていく──。こうしたシビック・ジャーナリズムの精神をもって、日本の市民文化や市民社会の活力を強めていけることに一役買えれば、と祈念しております。特に教育や医療、環境、街づくりなどクオリティー・オブ・ライフ(生活の質)にかかわる問題に積極的に取り組んでいきます。

放送ジャーナリストとして第一線を歩んでこられた編集主幹の長野智子さんからも「シビック・ジャーナリズム、大いにやりましょう!」と太鼓判をいただいております。

また、国際メディアの利点を生かし、世界で今、何が起きているのか国際的な視点から日本の読者にもニュースをお伝えしていきたいと思っています。日本から海外への発信にも力を入れたいと思います。

おかげさまで、編集スタッフのみなさんも、新米編集長で戸惑う私を温かく迎えてくださいました。ハフポスト日本版に多くの皆様にご参加頂けるよう、編集スタッフ一同、引き続き、頑張ります。今後ともハフポスト日本版をよろしくお願い致します。

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