「英断」を期待するのではなく、「意思決定の質」を上げよう! 誰にでもできる6つのコツ

「意思決定力」とは、「意思決定の質を高める能力」のことです。

最終回【スタンフォード流、インテリジェントエイヤ!で日本企業とビジネスマンを強くする!】

「意思決定力」とは、「意思決定の質を高める能力」のことです。

古今東西、優れた指導者や経営者の素晴らしい決断、すなわち「英断」を賛美する傾向は非常に強いのですが、「決断」の瞬間にとりうる自由度は実はほとんどありませんから、そこだけを取り上げることに大きな意味はないのです。

一人のトップに「英断」を求めるのは、無い物ねだりの妄想的願望であり、「神話=ありえないお伽話」としての「決然たる天才的トップマネジメント」なのだと割り切り、この際、忘れてしまいましょう。

それよりも、組織・チームとしての「意思決定の質を高める能力=意思決定力」の修得を目指した方が、ずっと実践的なのです。

「意思決定力」と「決断力」は違う!

「意思決定力=意思決定の質を高める能力」が高くなって来れば、同じ時間の中で到達できる意思決定の質は高くなり、結果的に意思決定に必要な時間も短くなります。そこでは、意思決定までの時間を短くしたりスピードを上げるのは「目的」ではなく、「意思決定力」を高めることによって達成される「結果」にすぎません。

つまり、社長や上司に最後の瞬間の「決断力」を妄信的に求めるのでなく、その前後も含めた「意思決定力」をチームとして高めることを目指すべきなのです。

日本の多くの識者なる人たちが「日本企業の意思決定は遅い。それが日本企業の競争力を弱くしている。だから米国企業を見習って意思決定のスピードをあげるべきだ!」と言っているのは、見習うべきと言っている米国企業の意思決定力、つまり意思決定の質を上げる能力 が高いことの結果としてスピードが速くなっている、という本質を見落とした、たいへん表層的・短絡的で危険なメッセージ、ということになります。

許されるデッドラインを見極め、その範囲内で意思決定の質を高める努力を最大限に行い、「これ以上の時間をかけても質の向上は見込めない」という到達点までは、むしろ十分に時間をかけるべきなのです。

意思決定力を高めるための6つのコツ

では、意思決定の質を如何に高めるか、企業経営・戦略的マネジメントの観点から、6つのコツをお伝えしましょう。

どれもごく普通のことでありながら意外にできていないことが多いので、すぐにでも実践してみてください。

① 常に事業全体の観点で考えること

技術・生産・販売などの、一つの機能の視点だけで捉えるのでなく、必ず事業全体の視点で発想することです。

企業の組織運営や業績評価の仕組みが邪魔をして、「事業全体で捉える」ことが意外にできていない、という自覚を常に持ちましょう。

②顧客への価値提供、という観点で課題・問題をとらえること

〇〇年以内に売り上げ倍増、利益率△倍、粗利率□□%、ROE☆☆%必達といった、自社都合の発想だけで考えると、結局顧客に離反され、競合に負けてしまうからです。

③捉われからの解放

どんな企業にも、自社のこれまでの成功体験に根差した暗黙の前提やタブーがあり、それらが、新しい発想を阻んでいるものです。

こうした捉われが新たな事業環境における自社の戦略的自由度を狭め、結果的に競争力を弱めます。

自分たちの発想がこうした捉われに陥っていないか常に目を見開き、それを打ち破る選択肢を俎上に載せることを意識しましょう。

その際、自分たちが陥りがちな暗黙の前提やタブーをあらかじめリストアップし、具体的課題への取り組み場面で、積極的にそれらを打ち破るアイデアを出す、というのも有効なアプローチです。

勿論この場合、新たな発想からの選択肢がベストである保証はありませんから、現状の発想からの選択肢と同一俎上に載せて取捨選択する冷静さは持っておく必要があります。

④課題や悩みに関する論点や要因を洗い出し、それらを意思決定項目と不確実要因と価値判断尺度の3つに分類し整理する

④以降は、第1回目のブログでご紹介した熟断思考の基本と重なってきます

⑤意思決定の基本3要素(意思決定項目/不確実要因/価値判断尺度)それぞれにつき、「ポリシー/戦略/戦術」の3つの階層に分けて捉え、戦略レベルにフォーカスする

意思決定項目:

  • ポリシーレベル:ここからの検討の前提・与件条件と位置づけるべき意思決定項目
  • 戦略レベル:長期的業績に大きな影響を与える意思決定項目として、ここから先の検討を通じて、どのオプションを選んだらよいかを検討すべき項目
  • 戦術レベル:影響度の大きくない意思決定項目として、今回はこれ以上の具体的な検討はする必要のないと判断される項目

不確実要因:

  • ポリシーレベル:万一とても悲惨な、あるいはとてつもなくラッキーなシナリオが起こったら、事業価値への影響は甚大なものの、起きる確率が極めて低いため、とりあえず今回の検討ではそうしたシナリオは起きない、と想定しておいても問題ないと考えられる不確実要因。「万一、その 悲惨な状況が起こったら、その場合は諦めるしかない」と割り切れる不確実要因
  • 戦略レベル:長期的業績に大きな影響を与える不確実要因として、ここから先の検討において、起こりうる複数のシナリオを想定し、それらの事業価値への影響を勘案すべき不確実要因
  • 戦術レベル:長期的業績への影響度の大きくない不確実要因、ないし振れ幅が極めて小さく不確実要因として無視して支障のない不確実要因

価値判断尺度:

  • ポリシーレベル:ここからの検討において、絶対に揺るがすことのできない価値判断基準 。制約条件として扱うことになる価値判断基準
  • 戦略レベル:今回の意思決定における重要な価値判断尺度として、各選択肢の評価尺度として扱うべきもの 。それらの価値判断尺度を統合したものが「トータル嬉しさ総額=Net Pleasure Value」
  • 戦術レベル:トータル嬉しさ総額を考える際、その重要度が大きくなく、今回の検討では無視しても構わないと考えられる価値判断尺度

⑥基本3要素の戦略レベルの項目を構造化してとらえ、ディシジョンツリーなどを使って意思決定する

各選択肢を、

  • 様々な不確実要因の影響において分析し、
  • 各価値判断尺度に照らして、それらの「良さの程度」を測定し、
  • 最終的には価値判断尺度のトレードオフを勘案し、
  • 「トータル嬉しさ総額」の観点から最も優れた選択肢を選び、
  • 従って納得性の高い意思決定に到り、
  • 関係者たちのコミットメントのもとに着実な実行へと進める

というアプローチです。

以上、意思決定の質の向上の重要性と、そこでの6つのコツ---どれも極めて基本的なことですが---をお伝えしました。

今回の計6回のブログを通じて、熟断思考の内容とその意味合いをざっとお話ししました。

また2014年10月に上梓した『スタンフォード・マッキンゼーで学んできた熟断思考』では、熟断思考の基本を学んで頂くために、まずは個人の課題・悩みにフォーカスしました。

次回の著作では、是非とも、この本で熟断思考の基本を学んだ読者の方々が、より深く悩むであろう、企業の課題・問題を取り上げたいと思っています。

企業の戦略課題への取り組み、組織としての意思決定力の強化方法についての熟断思考は、より複雑かつ難度も高いのですが、それだけに効果も非常に大きいからです。

『企業編の熟断思考』の書籍に取り掛かる上での強力な後押しとして、このブログ読者の一人でも多くの方々に、まずは『スタンフォード・マッキンゼーで学んできた熟断思考』を手に取ってお読みいただき、私へのフィードバックを頂ければと願っています。

これまでの記事と次回以降のテーマは以下の通りです。

第6回:「英断」を期待するのではなく、「意思決定の質」を上げよう! 誰にでもできる6つのコツ(←本稿)

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