〔本原稿は、カエルチカラ・プロジェクトの一環として「なかのまどか言語化塾」に参加した女性たちが書いたものです。ライターや専門家ではなく、問題の当事者が当事者自身の言葉で発信することで、社会への問題提起や似たような立場に置かれた方々への情報共有を目指しています。編集協力:中野円佳〕
ワーママも「36協定」がほしい
サラリーマン川柳の候補作を眺めていたら
「主婦業も 36協定 結びたい」(臨時専業主婦さん)
という句が目にとまった。私も2人の子供の育児休業中に「臨時専業主婦」を体験しており、子供の面倒を見ながら家事をするというのがどれだけ大変であるか身にしみてわかったので、とても共感できる一句だ。
鬼嫁だなんだと夫側の自虐的な俳句にうんざりしていたところだったこともあり、この句のインパクトは大きかった。しかし、家庭内36協定が必要なのは、主婦業だけではない。共働きの「兼業主婦」もだ。
昨年末に同じ会社で働くオットが3週間ほど海外出張に行った。周囲からは「大変だね」と声をかけてもらったが、実のところ平日に関して言えばオットの分の洗濯や食事作りがない分むしろ楽だった。
つまりオットがいてもいなくても私が1日に家事育児に費やす時間に大差がなかった。裏を返せば日常のほぼすべての家事育児を妻である私が負担しているのが我が家の現状なのだ。
ちなみに私が10日間出張に行くことになったときは子供の送迎のためのベビーシッターを毎日手配し、朝晩の食事作りや洗濯のために義母にもわざわざ遠方から泊まり込みできてもらった。わずか10日の出張、土日を除けば8日間。それでもオットが対応することは不可能だった。
まだまだ育児は女性の仕事?
5年前の統計だが、保育園に子供を預けている177万世帯のうち父親がお迎えを行っているのは1割のみだという。お迎えに行くのは妻だけど、家で夫が晩ご飯を作って待っていてくれる、なんて家庭はわずかだろう。
内閣府の男女共同参画局の調査によれば6歳未満の子供がいる家の男性の家事に費やす時間は1時間7分だというデータもある。女性は約6時間だというから平日だけでも月の「残業」は120時間となる。36協定を結びたくなる気持ちもわかってもらえるだろうか。
ひとりで家事育児を抱え込み体を壊したり、仕事との両立ができなくなってやむを得ずやめる女性は少なからずいるだろう。やめなかったとしてもこの状態で新しい業務などにチャレンジしていく勇気が持てない人を責めることはできない。
逆にワンオペ状態であったとしてもばりばり仕事をこなし、業績を出していても「在勤時間が短い(時短や残業していない)から」という理由で評価してもらえないパターンもあるという。
こういった課題の背景にあるのが、育児は女性が担うものだという意識だと思う。
進む女性活用、残る課題
政府の掲げる働き方改革や2030運動に鑑み、私の勤める会社でも「女性が働きやすい」環境作りが進んでいる。
半休が取得できるようになったり、子供の看護休暇が取得できるのは本当にありがたい。10年前、20年前に出産育児をしていた世代から比べたら雲泥の差だ。
幸いにも私は上司や同僚に恵まれており、残業時間の多少ではなくちゃんと「成果」で評価もしてもらえている。もし残業時間だけで判断されていたら、やさぐれていない自信はない。その点では本当に感謝してもし足りない。
これ以上望むのはわがままなのかもしれない。
しかし、男性の働き方を変えるような施策が少ない、というのがどうしても気になる。例えば昨年10月から育児費用補助というものが出るようになった。
これは出張ややむを得ない残業のときのベビーシッター代や親族の呼び寄せ交通費を一部負担してくれるというものだ。これ自体は非常にありがたいし、私も活用させてもらっている。
しかし、この制度を使えるのは育児休職を取得した人だけ。つまりは現状の男性育休取得率の低さから、ほぼ女性のみが対象になっている。
予算の問題もあるだろうからどうしようもないのかもしれないが、同じように共働きで子育てをしている男性からしてみたら、女性だけ優遇されているように見えるだろうし、この制度によってますます育児は女性のものだという刷り込みが進んでしまう。
何よりも、使っておいて文句を言うのもなんだが、私はこの制度から「夫(男)に頼るな、ひとりでがんばれ!」という声が聞こえてきてしまうのだ。理解ある上司や同僚も本質的なところでは、私の抱える問題を理解してくれてはいないと感じる。
私が重要な会議を子供の発熱のために抜けなければいけないときに、オットが私に変わって対応するという発想が私の会社にはない。
結果的に、長時間労働を強いられているオットも、家事育児をワンオペ(ワンオペレータ)でやらざるを得ない私も心身ともに疲弊してしまい、可能な限りの自由時間を睡眠にあててしのいでいる日々だ。
女性活躍のためには、男性の働き方改革を
私は私の仕事が好きだ。仕事をしている自分も好きだ。会社の上司や仲間たちも。そして彼らと一緒にモノを作り上げていくことにはもらう給料以上の喜びがある。だからもっともっと頑張りたい。同じように思っている女性は私以外にもたくさんいるはずだ。
そのためにも多くの女性がワンオペ育児で時間も体力もすべてを使い果たしてしまっている今を変えていきたい。もちろん夫だけがワンオペで育児をすることがあってもいけない。
それには男女ともに会社に拘束される時間を減らし、家に早く帰ることが必要となる。業務内容が変わるわけでも減るわけでもないから業務の効率化はしなければいけないと思うし、子供がいない人に負荷が集中しない仕組みも必要だ。
そのためにもまずは残業せずとも成果をだしている従業員をきちんと評価する仕組みが明確になることが大切だと思う。この評価されないことがネックで無駄に会社に残らざるを得ない人は少なくないはずだ。
長時間労働や深夜までの居残りを美徳とするオジサンもぐっとこらえて1か月間毎日18時に退社してみてほしい。18時に帰るために業務を効率化させることの達成感を得られるはず。
達成感を得てキラキラした上司になったオジサンは部下から見たら憧れること間違いなしなので、一石二鳥の効果も期待できるかもしれない。少なくとも私は「毎週月曜は夕方テニスに行きたいから」と言って実行できる管理職はかっこいいと思う。
趣味や家族を犠牲にして仕事だけに生きているというような自虐ネタはもはや受けない。サラリーマン川柳はネタだから自虐的でも受けるだけであり、実生活でそんな人がいたら憐れまれるだけだ。
荒唐無稽な話かもしれない、でも20年後には当たり前になっているかもしれない。少なくとも何十年か前には土曜日も働くことが当たり前だった。でも今は土曜日も働くなんてことは決して「当たり前」ではない。
どうかその一歩を女性だけでなく男性も一緒に踏み出してほしい。
【(著者)羽深 藍】
東京都出身。埼玉県在住。工業高専卒業後、2001年より自動車会社の農機・建機エンジンの開発研究部門に勤務。同じ会社に勤務する夫と1歳児、3歳児4人家族。夫の駐在先で第1子、第2子を出産。3年間の育児休業を経て2016年4月よりフルタイム勤務で復職。目の前の問題を言葉にして解決への一歩を踏み出すことを目指す"カエルチカラ・プロジェクト"の「なかのまどか言語化塾」一期生。
女性を中心に何らかの困難を抱える当事者が、個人の問題を社会課題として認識し、適切に言語化し、データを集め、発信することで、少しでも改善の一途につなげたい。「どうせ変わらない」という諦念、泣き寝入りから「問題を解決できる」「社会は変えられる」と信じることができる人が増えることを願っています。
発起人: WILL Lab 小安美和、研究機関勤務 大嶋寧子、ジャーナリスト 中野円佳■合わせて読みたい記事
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