波照間、最南端の島へ

波の照る間の島と書いて、はてるまと読む。このなんとも美しい響きを持つ島の存在を知ったのは、ずいぶんと大人になってからのこと。

波の照る間の島と書いて、はてるまと読む。このなんとも美しい響きを持つ島の存在を知ったのは、ずいぶんと大人になってからのこと。日本の最南端に、こんなにも浪漫溢れる島があるとは、とその名の美しさに思わずうっとりしたことを覚えています。それからというもの、私の頭の中にあるのは波照間という文字ばかり。ネットで波照間の情報を調べ、波照間に関する書籍を読みあさり、まだ見果てぬ最南端の島へと想いを馳せる日々。石垣島まで行くものの、天候理由により波照間には辿り着くことができないという幾度かの挫折の後、ようやく波照間島を訪れる機会に恵まれたのが2006年のこと。八重山の空は、こぼれんばかりの入道雲が浮かぶ、完璧に真夏の色。

波照間島へ到着した旅人が、取るものもとりあえず向かうのはニシハマ。灼熱の太陽に照らされながら、自転車で小さな集落を抜け、暑さに負けず草を食む牛の姿を見やり、背の高さほどもあるサトウキビ畑を過ぎると、突如、視線の先に瑠璃色の水平線が現れます。それは、心臓が止まるかと思うような鮮明なブルー。待ちきれない気持ちでビーチまでの坂道を一気に下る時の、汗をかいた身体を包み込む潮風の心地よさ。そして、辿り着いた砂浜の向こうに広がるのが、この世のものとは思えない青い蒼い色彩の世界。マリンブルー、セルリアンブルー、ターコイズブルー、コバルトブルー、プルシャンブルー、ピーコックブルー...etc. 海と空の境界線が限りなく青く混ざり合う、ブルーのグラデーションを描く風景。風の揺らめきや、波間を走る光のプリズムによって、刻々とトーンを変えるニシハマの海は、まるでこの地球上に存在するすべての青色を集めた天然パレットのよう。ハテルマブルー。人々はニシハマビーチのこの青い色彩をそう呼びます。それは、何かに惹かれるようにして最南端の島へやってきた旅人たちを一瞬にして虜にしてしまう、魔法のブルー。その昔、島人は、このハテルマブルーの海の彼方に、誰もが幸せに暮らせる素晴らしい桃源郷のような島が浮かぶと信じていたという......。

煌めく珊瑚の海に抱かれて、ただぼんやりと波に揺れ、生きていることへの奇跡を感じるその瞬間、旅人はなぜ自分が南の果ての島までやって来たのかを、そっと紐解くのではないでしょうか。

ハテルマブルーの海に生きる精霊たちに逢いに、今年も波照間へ。

文章:小林 繭(編集ライター)

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