北朝鮮大洪水に隠れた真実

問題の圓峯貯水池は、日帝による植民統治時代に建設されたが、ここの堤防が決壊したら豆満江(トゥマンガン)の水位がなんと7メートルも上がるのだ。

=====ソウルを灰の山に?まず足元の水浸しの収拾を

米・韓両国は、北朝鮮の継続的な核実験とミサイル発射挑発の威嚇に対し、強固な同盟関係を基に世界最高レベルの爆撃機B-1Bを韓国に展開した。

B-1Bはグアム島から平壌までたった2時間で到達して北朝鮮指導部に絨毯爆撃ができる爆撃機であり、B-1Bの韓国派遣は北朝鮮当局に強力な警告を送るための強手だった。

北朝鮮は予想通りに神経質に対応した。北朝鮮の総参謀部は朝鮮中央テレビを通じて

「もし米帝がB-1Bなどを引き続き我々の上空に送り込んで軍事的挑発の危険を高めるなら、我々は挑発の本拠地であるグアム島を地球上から消し去る」

「我々が発射する懲罰の核弾は、青瓦台と反動統治機関が集まっているソウルを完全に灰の山にするだろう」

と宣言した。

しかし、私は北朝鮮に、他国を「灰の山」にすることに躍起になるより、足元の「水浸し」に目を向けて対策を立てることを求めたい。

=====水害で数万世帯が居場所失う

北朝鮮駐在の国連人道問題調整事務所(OCHA)が先月咸鏡北道で発生した洪水被害を「50~60年ぶりの最悪水準」だとし、北朝鮮当局に総合的な対策づくりを促した。OCHAが公開した「2016年咸鏡北道合同実査報告書」によれば「茂山郡の被害世帯が5万世帯以上、延社郡と会寧市は1万~5万世帯」だという。

一方、国境地域に住んでいる北朝鮮住民たちは、中国製携帯電話を利用して会寧(フェリョン)・延社(ヨンサ)・茂山(ムサン)・白岩(ペガム)・大紅湍(デホンダン)など今回深刻な水害を受けた地域の状況についてリアルタイムで伝えてくれている。私と電話で話したこの地域の住民は、洪水に関するいかなる対策も指示も聞いたことがないと話した。

うわさ話で何かを聞いて高台に避難した人は命は守ったが、避難できなかった住民の中には氾濫した川にそのまま流された人もいるという。逆に、犬や豚のような家畜は財産価値があるから山の方に避難させたが、多くの人が避難できず被害が拡大したらしい。

電話で話した人のほとんどは、鳴き声で暗い未来について吐露した。

避難していた山から戻ってくると、家が丸ごとなくなった人もいれば、かろうじて家は残っているものの所帯道具が全て流されてしまって廃墟になった人もいると、もうすぐ寒い時期なのにどうやって過ごすかお先真っ暗だと話した。

水魔が襲った跡には、伝染病と飢えと寒さだけが残っている。しかし、北朝鮮の指導者、金正恩は水害現場には影も見せずに核実験にばかり熱を上げている。

=====金正恩の核実験が大洪水の原因か

今回の洪水は、金正恩政権が招いた人災中の人災である。

洪水が発生した地域は、金日成の森林開発政策の当時に千年の樹林を誇る高原地帯が裸山に化した地域。その上、この地域にある西頭水(ソドゥス)水力発電所の圓峯(ウォンボン)貯水池は老朽化し、普段から水漏れの危険が指摘されていた。そんな中、今年8月の集中豪雨で水量が急速に増し、貯水池の堤が耐えられず切れそうになると、危機感を感じた北朝鮮当局が地域住民に何ら予告もしないで(!)水門を開けて放水をしたそうだ。

一方、この地域の住民の多数は、圓峯貯水池は5回にわたって核実験が行われた豊渓里(プンゲリ)よりわずか70キロメートルの距離なので、核実験によって地盤が揺れた影響で貯水池の堤防が弱くなった可能性も否定できないと主張している。

問題の圓峯貯水池は、日帝による植民統治時代に建設されたが、ここの堤防が決壊したら豆満江(トゥマンガン)の水位がなんと7メートルも上がる。川の水が7メートル増すということは地獄に近い災いだろう。

今回の洪水の時には、北朝鮮当局が住民への被害が明らかにもかかわらずに貯水池の水を放流し決壊だけは免れた。しかし、堤防の亀裂が数回の核実験の振動によるものということを考えれば、「核実験の中止」がもっとも常識的な判断である。なんて、核実験をする度に古いダムが壊れるのを恐れて「愛する人民」たちが過ごしている村に向けて放水するわけにはいかないじゃないか。

核実験の影響を置いといても、北朝鮮の水害は既に予告されていた。

豆滿江と鴨綠江(アムロクガン)に接している北部地域は、豪雨の際に氾濫の危険が大きいため水害対策が特に大事だが、むやみに森林を開発してから裸山のまま放置してしまい、土砂崩れの危険がさらに大きくなっている。なお、上下水道などのインフラと建物の整備にしっかり投資していれば、デジャビュのように大水害を繰り返すこともないだろう。

今年の水害地域復旧作業の様子をニュースで見たが、住民たちがスコップ一本以外まともな道具もない状態で作業をしていた。私が北朝鮮で経験した水害復旧作業を思い出したら、数十年も過ぎた今も昔と同じく原始的である。

それに今年は核実験やミサイル開発などに資金をつぎ込んだせいで、復旧に必要な基本的な資材も支給されず、復旧が滞っているそうだ。

要するに、今回の咸鏡道地域の大洪水は、金正恩が没頭している核開発の弊害の一つであり、自然災害予防への無関心が被害を膨らませた人災なのである。

=====口先だけの「愛民指導者」

いつからか、金正恩は自分自身を「愛民指導者」と称して住民向けに宣伝をしている。

しかし、金正恩は「愛民」という言葉が恥ずかしいほど、住民を水害から救う対策はそっちのけでソウルを灰の山にするなどトンチンカンな事を言っている。「灰の山」「火の海」を云々する前に水浸し状態で苦しむ北朝鮮住民を助けることが、愛民を歌う指導者としての急務であろう。

金正恩は既に、核実験によって放射能被爆の被害を受ける住民のことは考えずに核実験を続けることで「愛民指導者」はただのキャッチコピーに過ぎないことを証明している。

そう考えると、核実験の揺れで弱くなったダムの決壊を避けるために予告もしないで水門を開けて村ごと水浸しにする金正恩の行動は、予想できなくもなかった。

そして、住民の凄絶な暮らしから目を逸らす指導者、金正恩の未来も想像に難くない。

イ・エラン 韓国・自由統一文化院 院長、1997年脱北

注目記事