カストロ前議長の死と東北アジア

キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長が25日、90歳で死去した。遠いラテンアメリカの島国の出来事から、私たちの住む東北アジアについて考えてみたい。

キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長が25日、90歳で死去した。遠いラテンアメリカの島国の出来事から、私たちの住む東北アジアについて考えてみたい。

ラテンアメリカはメキシコからアルゼンチンまでの北中南米大陸にまたがる地域とカリブ海の島々を指す。主にスペイン語が話されている。東北アジアは日本を含めたアジア大陸の極東地域だ。韓国、北朝鮮、台湾、中国に加えてモンゴルとロシアの一部も東北アジアだと私は考えている。ラテンアメリカと東アジアの間には巨大なアメリカ合衆国がある。(カナダや太平洋の島国もある)

私は今年1月にキューバを訪れた。社会主義という体制を見ていたいという思いがあった。東北アジアの身近な場所にも社会主義体制をひく北朝鮮があるが、北朝鮮にはまだ行けないという気持ちが強くあった。(これについては後で述べたい)

私は留学していた頃のツテをたどって、メキシコで亡命キューバ人の大学教授にハバナで訪れるべき場所をピックアップしてもらった。Casa de Asia(カサ・デ・アシア)というアジア関連の美術館に行くと面白い情報があるかもしれないといって、大学教授は美術館館長の連絡先を教えてくれた。そこで実際に面白いものを発見できたことをここで報告したい。

私が発見したのは、ひとつの刺繍アートである。写真かと見間違うほどの細かいつくりで2人の指導者の姿が描かれている。左にフィデル・カストロ国家評議会議長、右に金日成主席。2人は硬い握手を交わしている。1986年8月に、フィデル・カストロの60歳の誕生記念として金日成から贈られたアートだという。

自分がこれまで意識してこなかった、ラテンアメリカと東北アジアのつながりの「盲点」を目にしたような気がして、私はくらくらしてしまった。

美術館館長の女性に聞くと、他にも北朝鮮から贈られた作品があるという。それは北朝鮮の風景が美しく描かれた、もうひとつの刺繍アートであった。私が何度となく訪れたことのある祖父の故郷、韓国の風景とどこまで似ていて、とても馴染み深い作品だった。美術館に韓国からのアート作品はないのかと聞くと、館長はないと答えた。

スペイン語では韓国のことを Corea(コレア)という。北朝鮮のことも Corea という。これは英語にすれば Korea である。アメリカで Korea といえば普通は韓国を意味する。メキシコでも Corea といえば韓国だ。ところがキューバで Corea といえばまず最初に北朝鮮という意味になる。

日本では朝鮮半島の南を「韓国」といい、北を「北朝鮮」という。そんな呼び方を続けて数十年も経てば、やがてその2つが元は同じ国であったことが思い出せなくなってしまう。私もつい最近まで、自分のルーツは韓国にあり、北朝鮮には関係がないと思い込んでいた。在日コリアンのルーツは朝鮮半島にあり、本当はそれは、北と南で分ける必要がないものであるはずなのに。

朝鮮中央通信によると、北朝鮮の金正恩党委員長は故フィデル・カストロ前議長について「西半球で初めて真の社会主義制度を樹立した卓越した指導者で、反帝国主義の偉業遂行に特出した貢献があった」と弔電で述べたという。

経済優先で韓国との関係構築に傾きつつあるキューバにおいて、北朝鮮との関係重視の立場を最後まで貫いたフィデル・カストロ前議長の死は今後、東北アジアの社会主義国にどう影響するのだろうか。

1月のハバナ大学で私は、学術交流締結のために韓国外国語大学校から訪れている教職員の団体と出会った。またハバナ大学で医学を学ぶ地元の女子大生は、キューバの若者の間で最近韓流ドラマが流行っていることを教えてくれた。キューバと韓国が確実に接近していることは間違いないだろう。しかしだからといって、それがキューバと北朝鮮が疎遠になる理由には、全くならないと私は思う。ラテンアメリカの島国から南北朝鮮の融合が始まることを期待したい。

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