ITで地域のつながりをバージョンアップすることに挑戦する人たちと「共」の力を考える #civictechjp

3月29日科学技術館で、WIRED主催のイベント「CIVIC TECH FORUM」が開催され、マチノコトでもいくつかのセッションを取材しました。

3月29日科学技術館で、WIRED主催のイベント「CIVIC TECH FORUM」が開催され、マチノコトでもいくつかのセッションを取材しました。

公共とITのあたらしい関係「地域のつながりをITでバージョンアップする方法」というパネルディスカッションでは、地域でITを活用しながらコミュニティづくりに取り組んでいる方々が登壇。

まずモデレーターを務めた巡の環の信岡良亮さんからの「海士町がどこにあるかわかる人?」という問いかけからスタート。わからない人は手を挙げ、わからない人がいなくなるように会場で助け合うというワークからスタートしました。

ワークを通じて、公が担うべきなのか、共で助け合うべきなのか曖昧になっている部分があることについて言及した信岡さん。公からのサービスだけに頼っていると、人口が少なくなり税収が減って、行政からのサービスが縮小してしまうと、課題が解決されなくなっていってしまいます。

「これからの社会ではパブリックではなく、互いに助け合うコモンが重要です。「共」の力をみんなで考えていける社会にしていきたいと考えています」という信岡さんの言葉が会場に投げかけられ、パネルディスカッションがスタートしました。

パネラーとして登壇したのは、以下の3名。

  • 福島健一郎さん(Code for Kanazawa)
  • 宮島真希子さん(NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ理事)
  • 杉山智明さん(青森県 商工労働部 新産業創造課)

オープンソースと地域アプリ

Code for Kanazawaの福島さんからは、マチノコトでも紹介したことのある「5374(ゴミナシ).jp」というアプリの紹介。これはいつ、どのゴミが収集されているかを見やすく表示したウェブアプリです。

金沢で開発されたこのアプリは、他の都市でもアレンジされて開発されており、別のエリアでは多言語対応するなどの展開をしているそうです。ベースのアプリを開発したことにより、別のエリアでも利用できるようになり、かつ地域ごとの特性が現れる、これもシビックテックのおもしろさですね。

地域とシビックジャーナリズム

横浜コミュニティデザイン・ラボの宮島さんは、元々地域に根ざした新聞で記者をしていたという人物。記者として活動しているときに、河北新報社の寺島さんが書いた「シビックジャーナリズムの挑戦」という書籍に出会い、新聞社は「地域のつながりをつくる仕事」という言葉に胸を打たれたそうです。

今は、横浜コミュニティデザイン・ラボを始め、3つのNPOの理事を務めている宮島さん。「ヨコハマ経済新聞」と「LOCAL GOOD YOKOHAMA」という2つの媒体の運営に携わっており、テクノロジー化される前の段階、取材をする、地域の人とつながる、取材された人や記事を読んだ人を元気にするという部分を大切に活動しているそうです。

相互理解を促進するためのコミュニティづくり

青森県 商工労働部 新産業創造課に所属して活動している杉山さんが実施しているのは、「新時代ITビジネス研究会」などITに関心がある人たちを分野を集めたり、ハッカソンなど年間90本イベントを開催することでコミュニティづくりをしているそうです。

このコミュニティづくりは、地域に関わる人たちがお互いのことを知り、どういった役割分担で活動をしていくのがいいのかを理解し合うためのもの。認識のすり合わせや相互理解の場としてコミュニティ運営を行っているそうです。

パネラーの自己紹介が終わり、会場を巡って出てきたパネラーへの質問は、大きく以下の4つ

  • 個人として地域に関わるモチベーションは何?
  • NPOの運営を持続可能にするためにどうしたらいい?
  • 既存コミュニティとの関係は?
  • 無理解との関わり方は?

個人を動かすエネルギーは?

まずは信岡さんからパネラーの方々に、「個人としてどういうモチベーションで地域に関わっているんですか?」という質問が。

杉山さん「出発点は、もっと真剣に仕事をしようよという「怒り」ですね。

宮島さん「地域に関わることって、仕事のようで仕事じゃないんですよね。自分が、地域が変わっていくことに参加できている、小さなことだけどそれがわかるというのが嬉しいというのはありますね」

福島さん「あまり難しいことは考えていなくて、みなさん多分こういうことに関われるなら関わりたいと思っているんじゃないかなと思うんです。そのきっかけがあるかどうかの違いだと思うんですよね。自分で作れば、自分の想いで地域を変えていける。せっかくなら自分が解決したいと思う課題を解決していきたいですよね」

地域内からの無理解にはどう対処する?

杉山さん「わかってくれない人にわかってもらうことは大変なので、無理しないようにしています。一度、先に形にしたものを見せてしまって、そんなに変なものではないことを見せて、わかってもらうようにしています。

最初に構想を立ち上げちゃうとそれに合わせた説明が必要になってしまう。「リスクないんでちょっとやってみましょう」と言ってますね。あとは、外圧を利用する。色々実践して、外から人を呼んで、その人たちから「なんか変わったよね」という評価をもらって、それを伝えるようにしています」

宮島さん「私の場合は、自分の中の心配のほうが問題ですね。「批判されるんじゃないか」ということを心配してしまうことのほうが多いです。心配して色々考えても、いつまでたっても確信はもてないのに、いつまでも準備しようとしてしまう。これをどう乗り越えていくのかが課題ですね」

福島さん「批判的な人は気にしないようにしていますね。そこのことは考えずに、活動を理解してくれる人たちとで動いてしまうようにしています。さっきお話したアプリもそうですね。アプリを作って「こんなことができるんだ」とわかったら理解してくれたりする。それでも否定的な人のことはあまり考えないようにしてます」

コミュニティが持つ力

信岡さん「コミュニティが持つ力ってすごいなと思っていて、コミュニティの力が合ったから可能になることもあると思うんです。みなさんはなにか感じることはありますか?」

宮島さん「小さな勉強会やワークショップを重ねていくことで、影響を受けた人が別のコミュニティに影響を与えていっています。こういう連鎖を生み出せたり、仕掛けを作っていけるといいなと考えています。あとやりたいと考えているのは、発信する立場の人を増やすこと。同じコミュニティにも多様な人がいるので、自分のことを自分で発信できるようになると、多様な情報が流通するようになります。その情報が届くことで救われる人もいるのではないかな、と思っています」

杉山さん「最初は付き合いで参加してくれている人が多かった。継続していると、面白がってくれている反応が見えるようになった。ゆるやかなコミュニティとして、小さな勉強会を行っていると「今度一緒に勉強会をやりませんか?」という話をもらえたりする。全国規模のイベントが青森に来てくれたりする。それが次につながるといいなと考えています」

福島さん「Code for Kanazawaは、初期メンバーは一人一人口説いて集めました。そのときに、「よく作ろうと思ってくれたね」と感謝されたんです。同じようなことはやりたいと思っていたけれど、自分が団体が作ってまでやれないという人がいたんですね。自分でも、ひとりだけだったらできなかったと思います。コミュニティができたことで継続して活動できていると思います」

このパネルディスカッションで出てきたのは、「等価交換ではない」や「ちょっとした勇気」という言葉。地域に関わる活動をしている自分は、どんなことに喜びを感じてるのかを考え、何か一歩を踏み出すためには少しだけの勇気を出すことが重要なんだという話が登場していました。

一人一人が「共」を担っていくという意識をし、自分ができることを活かして、ちょっとしたことでもいいから始めてみる。それがこれからの社会には大切なことなのだと思います。

(2015年3月29日の「マチノコト」から転載)