複数の地域で暮らし働くことで見えてくること−−京都わかもんナイトでまちづくりライターが語った「地域×情報発信」の可能性

日本には国内旅行客や訪日外国人が多く訪れる「観光地」と呼ばれる地域が多くあります。そのなかでも代表的な日本の「観光地」と呼べるのが「京都」ではないでしょうか。

日本には国内旅行客や訪日外国人が多く訪れる「観光地」と呼ばれる地域が多くあります。

どの「観光地」にも共通しているのは、伝統的な寺社仏閣を持つ地域や、流行の先端をいくカフェやファッション文化を発信する地域など、訪れる人々の好奇心を満たす資源を持っていることです。

そのなかでも代表的な日本の「観光地」と呼べるのが「京都」ではないでしょうか。言わずと知れた伝統的な建造物や、古くからの資源に現代的な発想を加えリノベーションを施した施設など、多くの魅力ある資源が溢れています。

しかし、こういった「観光地」を持つ都道府県特有の問題も存在しているのです。

観光地を抱える都道府県の問題

「京都」を例に取ってみましょう。

私たちが一般的に持つ「京都」のイメージはどういったものがあるでしょうか。先述のように、訪日外国人や伝統的な資源の多さなどを挙げる方もいるかもしれません。

しかし、そのイメージは「京都」というよりは「京都市内」の姿から形成されており、「京都府」全体で見たときに、注目の焦点は京都市内に充てられるのみで府内の他地域に興味の目が移されることはあまりないようです。

先行するイメージを深掘りするまでに至らないという問題は、観光都市を抱える都道府県ならではの悩みとも言えます。

京都では、京都全体の魅力をさまざまな土地から集った「わかもん」で共有し、「京都」という土地で何が出来るのか考え、行動する場作りが行われているようです。

8月27日に開催された「京都わかもんナイトvol.5」

8月27日に若者が集い、「京都わかもんナイト」というイベントが開催されました。テーマは、「まちづくりライターが語る『地域×情報発信』の可能性」。

ゲストは、1988年生まれで、沖縄・伊平屋島出身の大見謝将五さん。この「マチノコト」でもライターをされています。

バーテンダーとして、お酒づくりとお酒のある場作りを始めて以降、ITベンチャーのお手伝いを経て、現在はフリーランスとしてライターや企画プランナーなどのお仕事も行う大見謝さん。

沖縄へは、去年8月にUターン。商店街ユニット「ぺとぺと」として、コミュニティスペース「水上家」を月イチペースで運営を行いつつ、商店街のチラシづくりや、「水上学舎」という商店街のなかでの学校作り、「まちライブラリー」という持ち寄りによる図書館の運営も行っています。

沖縄の活動と並行して、京都・東京を中心に複数の拠点を周りながら活動を行いつつ、「京都移住計画」の旅する広報としての活動や、地域の食材や陶器を用いたカクテル作りを行う「Bar OTTO」、移住の前段階となる各地域での試住など、多様な「働く」を実践されています。

「京都」にはあり「沖縄」にはなかった交わりの場

現在、もともとの出身地である沖縄でもユニットとしてさまざまな活動を行う大見謝さんですが、当初は沖縄に戻りたいと思っていなかったそうです。

大見謝:「沖縄は面白くない、刺激がないと感じていたんです。東京や京都の方が刺激があるなあと。東京・京都と比較したときに、面白い人や、人が集まる場所がなかったんですね。

そこで、京都という場所に来てみると、京都市内はすごく良かったんですよ。働く場所と、観光地と、生活する場所がごちゃ混ぜになっている。

沖縄は、観光客が多く訪れるにも関わらず、行き交う場所がない。観光地、生活地がばらばらで、沖縄の人も外に出たいと思わずに、ずっと沖縄でいいと思っている。」

京都市内と同じように、観光と暮らし、観光客と地元住民が隣接するにも関わらず、人と人が交わる拠点のない沖縄。その沖縄で大見謝さんは、課題意識を持ち、人が集う場づくりを行っています。

大見謝:「僕たちが運営する『水上家』は、リトルキョウトのような場所だなと感じます。国際通りという立地から観光客も多く訪れるし、すぐ近くが県庁で、オフィス街の面も持っている。商店街の奥に行くと、おじぃとおばぁがいる生活の部分も残っているし、僕らみたいな若者もいる。

ここで人が混ざり合う、つまり『ちゃんぷる』のような場所を作れるのではないかと。人と動きの可視化が出来る場所、交差点のような場所を形成するために運営しています。」

複数の場所で暮らし、複数の場所で働くことで達成されること

さまざまな地域を行き来し、時にライター、時にバーテンダーと、姿を変えながら多様な動きを見せている大見謝さん。複数の場所で暮らし、複数の場所で働くことで気づいたことがあると言います。

大見謝:「バーテンダーだった頃、メディアの学びはバーのなかにありました。当時、昼は編集やライターのアシスタントをしながら、夜はバーテンダーとして働く生活を送っていたんですが、凄く情報が行き交っていたんですよ。

沖縄でたまに行くスナックがあるんですけど、そこのママは昔、新聞社の記者だったそうです。女性の新聞記者は、昼は新聞社で働いて、夜はスナックで働いてネタを掴むというような働き方もあったようですね。

そう考えるとライターとバーテンダーの組み合わせはとてもいいなあと。メディアとコミュニティは同義であって、人が集まれば場が生まれ、情報が行き交い、定期的に更新されていくことで、メディアが形成されていくと思います。」

メディアとは、リアルな人と人の動きを支えるためのものであり、地域として情報発信を行う際も、どういった行動に結び付けていきたいのか、意図を整理した上で発信していく必要があるんですね。

個人による発信を継続していくこと

今回の参加者として集まった人々は、既に地域のなかで、活動を起こしている人がほとんどだったように思います。

地域の情報を発信していくために自分たちに何ができるのか、ライターを見つけるためにはどうすれば良いのか、より実践的な話が展開されていきました。

最後には今回のイベントを主催し、司会を務めていた滋野さんから、以下のような振り返りがあり、会のクロージングが行われました。

滋野:「地元のライターが増えていくといいですね。地域の人たちが自分たちの手で発信しようという動きが生まれ、その情報が蓄積されていくことで、盛り上がりや動きが可視化されていく。個人個人が発信していく重要性を改めて感じましたね。」

リアルの場づくりと、ウェブ上での場づくりを重ね合わせる

今回の場では、各都道府県が持つ先行するイメージによって、他地域が可視化できなくなる問題を改めて感じました。

求められるのは、その地域で生まれそだった、あるいは魅力に気づいた者による発信であり、長期的に重ね合わせていくことではないでしょうか。

大規模なイベントを単発で終わらせるのではなく、小規模であったとしても持続して開催していき、その動きを見える形で記録し発信していくことで興味関心の輪は広がっていくように思います。

大見謝さんや滋野さんの言葉や活動にもある通り、想いを持った者たちが集うことのできる拠点作りは、リアルの場でも、ウェブ媒体でも重要になってくると感じました。

「京都」という町を改めて問い直す、「京都わかもん会議」

リアルの場で地域に対して想いを持った者が集う取り組みとしては、2015年2月7日から8日にかけて開催された「京都わかもん会議」の存在が挙げられます。30歳以下の若者が集まって京都の未来について語り尽くしたイベントです。

その熱量を持続していくために、月に1度のペースで行われているのが今回行われた「京都わかもんナイト」です。「京都わかもん会議」に参加したメンバーたちを1人ゲストに招き、テーマに設けて集う場作りが定期的に行われています。

現在は、京都わかもんナイトのなかで「ワカモン.リンク」というウェブメディアを制作中だそうです。会議と発信を並行して行っていくことで、普段の場と、遠くからでも確認が出来る場作りを構想しています。

「京都わかもん会議」において実行委員長として大きな役割を果たしているのが、滋野正道さんです。

「京都わかもん会議」実行委員長、滋野正道さんインタビュー

―滋野さんの普段の活動内容について教えてください。

滋野:「普段は、若者と地域をキーワードにしながら、京都・綾部で古民家を活用し、若者が集まり、地域で仕掛けていく拠点を3年前ぐらいから作り、それと並行して、「京都わかもん会議」の実行委員長を務めています。」

―「京都わかもん会議」開催にどんな想いを持たれていたんでしょうか?

滋野:「『京都』という地域は賑わいがあるように思われますが、実は盛り上がっているのは『京都市内』に限られています。『京都市内』だけでなく、京都の他の地域にも目を向けてもらいたいという想いが大きかったですね。」

―月イチのペースで開いている「京都わかもんナイト」に対する反響はどうですか?

滋野:「『京都わかもんナイト』では、『京都わかもん会議』に参加してくれた人たちが、それぞれゲストとしてトークを行います。1年に1度きりのイベントではなく、定期的に継続して小規模なイベントを行い、発信を行うことで熱量が保たれているように思いますね。

2015年2月に1回目の『京都わかもん会議』が終了してからも、京都に訪れた際や活動報告をTwitterで行う際に、ハッシュタグが活用されていて、参加者の動きが可視化出来ているのは良いことだなと感じます。」

―現在はウェブメディアの準備も進んでいるようですね。

滋野:「年に1回の『京都わかもん会議』、月に1回の『京都わかもんナイト』と並行して、『ワカモン.リンク』の構想も進んでいます。直接集う場との連動としてウェブメディアを活用し、日々行っている活動を発信することで遠方の方にも届けていけたらと思います。」

綾部(京都市内から2時間半ほど)では人の集まる拠点作りや高校生を対象にした地域での学びの場づくりも行われているんだそう。また、京都府内の他地域でも同じような動きが広がっているようです。

2016年2月6・7日開催、「京都わかもん会議」

先述のように、「京都わかもんナイト」は定期的に京都市内でさまざまなイベントを行っています。

2016年2月には、35歳以下100人が24時間京都について語り尽くす「京都わかもん会議」も計画されているんだそう。

まずは同じ共通項を持った者同士で集まり、お互いが持つ価値観を共有するところから始めてみてはいかがでしょうか。そのきっかけとして、「京都わかもん会議」の取り組みは、効果的に作用するはずです。

(2015年9月2日の「マチノコト」より転載)

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