地域住民がマチのためにできることとは?−これからの都市とコミュニティを考えるイベントレポート−

住民同士の共助・互助、周辺住民との連携による持続可能な地域づくりを研究する「サステナブル・コミュニティ研究会」によるイベント『これからの「都市とコミュニティ」を考える〈その1〉』が開催されました。

1950年代に誕生し、今や都市における住まい方のおよそ半分を占める「マンション」という形態。プライベートを重視する人たちが進んで暮らしていた集合住宅ですが、震災以降、いざという時に助け合える隣人関係を求め、集合住宅におけるコミュニティ形成が注目されはじめています。

猛暑の続く8月1日、住民同士の共助・互助、周辺住民との連携による持続可能な地域づくりを研究する「サステナブル・コミュニティ研究会」によるイベント『これからの「都市とコミュニティ」を考える〈その1〉』が開催されました。

地域・マンションの活性化に「ファシリテーション」を

まずは、本イベント発起人であり、自身も日夜マンションでのコミュニティづくりに参画する吉澤卓さん。

今、共助、防災、高齢化など、色々な都市の課題解決の役割を誰が担うんだ?という議論が行われています。

その中で、コミュニティ、地域の人が自身で何かをやっていかなきゃいけないという期待がある。今日は、そんなマチの中に住まうわたしたちが「マチの中でどんなことをやっていけるんだろうか? マチの中だからこそできることってなんだろう?」っていうことをぜひ、考えていきたいな、と思っています。

テーマは「ファシリテーション」。地域、マンションに住む人はこれから先、もっと自分の生活に自分で責任を持って積極的になっていかないといけません。例えば、地域のマンションや管理組合の中で人と人を繋ぐ役割を担っているファシリテーター。暮らしの場面においても、ファシリテーションスキルは重要になってきているし、今後もっと活用されていく必要があります。

開会挨拶をした吉澤さんは登壇される3人のゲストを紹介。2人はマンションの現場で実際にファシリテーション、対話によって色んなことをやっていこうと活動されている方。もう一人は、地域の防災のテーマに関して弁護士としての立場から、住まい方と震災にまつわる情報を発信されている方。イベントではこの三人のゲストの話を聞いた上で、参加者との対話が行われます。

地震から72時間経った後、どう最初の一歩を踏み出すか?

一人目のプレゼンターは弁護士、マンション管理士、医療経営士、大学教授など、様々な肩書きを持つ岡本正さん。法律家としての視点からマンションにおける防災・個人情報・耐震問題について話されました。

今回は、震災から72時間経った後、どうやって最初の一歩歩き始めるか、という観点でお伝えしたいことがあります。みなさん、本当に大きな災害が起きた時、専門家がその場にいなくても、生き抜く力を持たなくてはいけない。東日本大震災の時、情報は届きませんでした。ただ、それは情報があまりにも氾濫し過ぎていて、任せても情報は入って来なかったからです。

私は、弁護士だったので自らルートをつくって適切な情報が流れるようにやってきました。だけど、他の人もそうだったわけではありません。「家族の安否がわからないんだけど、買ったばかりの家が流されてしまった。どうすりゃいい」「貯金ないけど、どうすればいいんですか」「亡くなってしまった稼ぎ手の夫が、わたしも震災までわからなかった」とか「毎月の公共料金、印鑑とか全部流れてしまったけど、誰も教えてくれない」「雨漏りが」「避難所行っても、ミスマッチで僕たちどこに行けばいいんですか?」、こんな疑問が頻発していました。

私は「こういう問いにどういうふうに答えるのか?」ということを考えたい。今言った基本的な知識を自分で全部説明できる必要はありません。でも、あそこに行けばなんとかなる、そういう事前の知識を持っていたらいいのではないかとは思っています。そして、そういうことをみなさんと一緒にやれるんじゃないか?と思っております。

災害時は情報が届かないのではなく、逆に情報が氾濫してしまう。このような事実を知らない方は多いのではないのでしょうか。「地震に備える」ために、過去の地震の経験から学ぶ。欲しい情報が欲しいときに得られるような適切な情報の流れをつくる。それをコミュニティでやっていく。岡本さんは、被害に備える行動の具体的な一歩目を参加者に提示します。

活性化は"先輩マンション"との協働が鍵

2人目は、自身が1000世帯以上の集合住宅における理事を経て、マンションのコミュニティ形成を実践する山本美賢さんです。自身の活動についてお話されます。

私はパークシティ溝の口という、1100世帯ぐらいのマンションに住んでいます。2011年の震災の年に引っ越してきました。その年にマンションの選挙があったらしいんですが、知らずに、不在者投票で理事になってしまいました(笑)。わたし、web制作の会社を経営していまして、1年目にスタッフに教えてもらいながら、ホームページをつくりました。3年が経過してて、今、ページビューが毎月10000。1週間以内に、何かの情報が更新されている状態です。

例えば、ウチの9歳の息子が、ウチのマンションから小学校に行く途中に見通しの悪い交差点があって、そこに30年間完全ボランティアで緑のおばさん(学童擁護員)をやっているおばさんがいて、その方に自分で取材をして、文章書いたりして、そして、HPに書いて「書きましたよ!」と言う。すると、そのおばさんすごくよろこんでいただけて、でも、おばさんも含めみなさんHP見れないから、紙に出力して、それを囲んで会談している。すごく嬉しいんだけど、ページビューに入っていない(笑)。そういう嬉しいなってところからどんどんどんどんモチベーションが上がっていて、やっていました。そんな中で、どんどんマンションが好きになってきました。

自身のリソース(WEB制作会社)を活かし、マンション暮らしに役立てている山本さん。メディアを媒介させることで地域の気づかれにくい声を拾っていき、同じ場所に住む人たちに届け、コミュニティ形成のキッカケをつくっていった方法はうまい。

その後、この試みは拡大していきます。住民同士で定期的に話し合える場が必要なことに気づいた山本さんは、お互いの意見を受け容れ合う場「パークCafe」をつくりはじめました。このようにマンションコミュニティ内で様々なプロジェクトを展開する山本さん。最後に、山本さんの考えるこれからのマンション構想を語ってくれました。

例えば、マンション一棟の子どもの人数が60人しかいないところでイベントをやって、子育て世代の人同士のコミュニティをつくろうと思ってもコミュニティは出来にくい。なぜなら、子育て世代の人が10%いたとしてもせいぜい6人とか7人なので数が少ない。イベントに全員が参加するとは限らないし。だから、それは、近隣のマンションやその地域の自治体と横の連携をとる。うちのマンションは毎年予算を使って、秋祭りっていう子どもの祭りを30年やっているんですけど、近隣のマンションとそれに向けてもっともっと連携していきたい。そうやって、自分たちが60歳になっても、70歳になっても安心して住めるようなマチになっているように行動していこうとを思っています。

自身のマンションのコミュニティづくりを、メディア、対話の場づくり、を活用した山本さん。次は「祭り」という大きな出来事を近隣のマンションと協働して実施することを目指しています。マンションのコミュニティづくり、から、マチのコミュニティづくり、に。そして、自分の未来の暮らしを支えるマチを構想していきます。

全ての人がフラットに対話できる土台づくりを

最後は、ダイアログ・ファシリテーターの高柳謙さん、同じコミュニティ内で異なる利害関係を持つ人同士がいかに建設的に話し合うような場をつくるか、ということについてお話しされました。

ファシリテーターって場所の司会・進行をする人です。今回付箋用意されているんですけど、みなさん、なかなか書かないんですよね。なので、ちょっと2枚ぐらい付箋を持ってもらって、次に、利き手にペンを持ってもらっていいですか、ここまでやってもらうと書きやすくなる。端的に言うと、こういうことをやるのがファシリテーターです。マンションの問題、すべてをファシリテーターが解決するっていうのは無理ですが、人、テーマ、場があれば、ファシリテーターがいるといいかな、と思っています。

ダイアログ・ファシリテーターとして、自身が住んでいるのマンションの理事長として活躍する高柳さん。マンションの理事会を自身が担う上で気にかけているポイントをお話しします。高柳さんがお話ししたポイントは3つです。

1.「空中戦をしない」

「空中戦をしない」ということは、話が脱線をした場合もなるべく短く、かつ、嫌みにならないように論点を戻せるよう気を配ること。

2.「ルールを作る」

カフェの場で話せても、理事会では難しいものです。だからといって「みなさんのお話を聴くようなルールにします」って言うと、「なんで、そんなことしなきゃならないんだ、そんなことしなくても、みんな普通に話せるよ。」って言われることがある。なので、最初に作るのではなく、必要が生じた時に適宜ルールを明文化するというやり方です。

3.「話し合いの質を高める」

高柳さんは、決して「全員で話しましょう!」とは言わないそう。ずっと黙っている人は無理に話してもらわなくても大丈夫と考えています。それは、人それぞれ、自転車を持っている、車を持っている、子どもがいる、などと自分が関係している話題を持っているから。なので、ある話題だと黙っている人も、違う話題だと自発的に情報を出してくれることもあるんだとか。そのようなことを配慮することで、知っている情報を引き出しながら徐々に話し合いに参加してもらい、話し合いの質を高めていくそうです。

この3つのポイントを気にかけ、話し合いを進めていくと、その内、実際は「なんのために理事会をやっているのか」という話になってくるそうです。そして、最後に理事会で話し合いをするための前提の考え方を高柳さんが語ります。

今、やっていることがどんな未来に繋がっているか、を意識して理事会をすることが大事です。例えば、「今までのやり方はオカシイので全部変えます。」とやってもうまくいきません。それは、必ずこれまでどんな方でも短い期間であがいてきたことがあるからです。それらが正しいか、正しく無いかは未来でわかることです。その長い歴史には、悪い部分も、良い部分もあります。その時にいいものでも、未来では、悪い状態になっていることがあります。なので、今、悪くても、それは過去にその場にいる住民の方がその時の最善策としてやったことなのです。未来に対しては、常に予測不可能な状態です。なので、その時、その時に良い未来を描いて、行動していくことも重要ですし、その上で、それ(未来が予測不可能であること)を理解していることが重要です。

今、よかれと思ってやっていることが未来では悪いことになるかもしれません。ということは過去によかれと思ってやったことが今、頭を悩ます種なのかもしれません。過去を否定するのではなく、それを受けて、今、私たちがどうしていくか。そして、今、よかれと思ってやっても、結果、悪いことになるかもしれない。その可能性を受け止めて、チャレンジしていく重要性を感じました。

同じ問題に異なるアプローチを取る専門家同士のつながり

呼びかけ人の方々からのプレゼンが終了した後、各ゲストを囲んだディスカッションタイム。その後、各グループでのディスカッションのまとめが発表されました。その後の懇親会でも盛り上がるディスカッションは続きます。

イベント後、吉澤さんにお話を聴くと、このイベントの背後には「どうやったら異なる価値観を持つ人(住民)同士の関係性の溝を埋め、コミュニティづくりを促せられるか」という問いがありました。そして、その問いを現場の違う実践家と話すことが狙いだったそうです。

今日は3人のゲストに、理事会での話し合いの方法の観点から、WEBメディアの活用やセンパイマンションのネットワークを活用した方法の観点から、また、法制度やインフラづくりという前提を整える方法の観点からお話をいただきました。どのアプローチも観点は違えど「コミュニティづくりを促す」という力点では共通していて、吉澤さんの問いに違った角度から応えるお話だったと思います。

唯一の解決法がある、という考え方ではなく、様々な立場の方の様々な解決法を共有し、互いのやり方を尊重し合い、それぞれの立場でできること、そしてを共にできることを探っていく。そういったあり様も、個々が分断されがちな忙しない現代の都会でできる「協働のあり方」の一つのカタチなのでないでしょうか。

これからのマンションの可能性を考えるサステナブル・コミュニティ研究会は、今月末11月26日に「ミライ×マンション×ミーティング」を開催されます。当日は、建築家の視点、テクノロジーの視点、ママさんの視点、ソーシャルデザインの視点などを持った多様なゲストの話を受けた上で、参加者みなさんでマンションの可能性を考える3時間になるそうです。

気になる方はぜひ、参加してみてはいかがでしょうか?

(2014年11月8日の「マチノコト」より転載)

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