「私たち、管理職を目指します」 営業女子の意識が変わった3つのワケ

研修参加当初は誰も管理職になることを考えたこともなかったというあるチームが、4か月で「全員が営業で管理職を目指したいと思えるようになった」と発表。

こんにちは、女性活用ジャーナリスト/研究者の中野円佳です。これまで3回にわたりお伝えしてきた、リクルートホールディングス、サントリーホールディングス、日産自動車、IBM、キリン、三井住友銀行、KDDIの7社合同の「新世代エイジョカレッジ」。2014年度にはじまったこの取り組みは、先日2期目の最終報告会を終えました。前回ご紹介したように、一部提言が実現したりもしているのですが、この取り組みがもたらしている一番大きな変化は参加者の意識だという気がします。

先日の最終プレゼンでも、研修参加当初は誰も管理職になることを考えたこともなかったというあるチームが、4か月で「全員が営業で管理職を目指したいと思えるようになった」と発表。2014年度も当初は「なんでこんな研修に呼ばれたんだろう」という様子だった参加者が多く、中には「実は一刻も早く営業を出たいと思っていた」という人もいました。それが、数か月後には非常にいい表情で発表を終え、その後に妊娠し産休に入った女性も4人いたのですが全員が「営業職で戻ってくる」と宣言しているそうです。

何があったのでしょうか。1つは、女性自身が漠然とした不安に徹底的に向き合い、その過程で様々な固定概念が打破されていったということがあると思います。2015年度の最終プレゼンでは、「育児前の女性は、思い込みで出産後に営業は続けられないと感じていた」という指摘が複数のグループからありました。

よく「ロールモデルがいない」と言いますが、確かに女性の数が圧倒的に少ないことで社内ではなかなか参考になる人がいない、いたとしても特別な機会がない限り話を聞かないので、ライフイベント後のイメージが沸かない

でも、実際に出産後も営業を続けている女性は探せば、少数ながら存在するわけです。エイジョカレッジを通じて、そういう人がチームの中にいたり、データを収集するために話を聞きに行ったりしてみると、「意外と何とかなる」「効率化してむしろ自信をもって働いている」ということが分かります。

今回優勝したチームは、このような出産後の女性と自分たちの働き方を比較し、顧客先への時間を減らさずにいかに時間を削減できるかという実験をしたチームでした。提言内容は、営業スタイルを学んだり営業としての志を高めたりする営業職のネットワークを作るというものと、時間意識をする「エイジョタイマー」を導入するというもの。

審査員である各社役員からは「長時間労働に基づくハイパフォーマーを認めてきてしまったが、女性の評価が男性に比べて低くなってきてしまった一因」「つい仕事が素早くできる人にどんどん仕事を振ってしまうが、これからは時間が限られているという観点が大事」などの声があがっていました。

本人たちの固定概念が打破されただけではなく、それを男性含む既存の営業スタイル変革まで広げて日本の営業を変えようという提言の趣旨。こうして女性の意識も登用する側の意識も変われば、営業で管理職に就く女性を実質的に増やすことにつながりそうです。

もう1つ、エイジョカレッジが女性たちの意識変革にもたらした要因としては、実際に経験値が上がり、目線が高まるという点があると思います。

このプログラムは提言を考える過程で、チェンジウェーブ佐々木裕子の厳しい突っ込みや各社マネジャーからのフィードバックを経ています。最後は役員に向かって提言をするので、ある程度「経営目線」が求められます。普段の「現場目線でこそ言えること」もあるでしょうが、その視点を離れ、多様なチームメンバーをまとめあげていく経験が管理職になることのイメージにつながるようです。

昨年度の参加者、サントリー酒類の小園奈緒子さんは「普段は1人1人営業の目標に向かっている中で、多様なメンバーが半年間1つのテーマに向き合って、様々な意見を戦わせながらまとめあげていく機会自体がとても貴重だった」と言います。

他社の管理職にプレゼンをする経験を通じて、会社ごとに異なるフィードバックの仕方やロジカルなモノの考え方が非常に刺激的になったとのこと。「自社の中だけではとても経験できないものを持ち帰ることができて、マネジャーになる、リーダーになるということのイメージが沸くようになった」そうです。

最後に、同志を得られたことの効果です。今年度の初回合宿には、昨年度の参加者たちが激励に訪れたのですが、プログラム終了後1年経ち口々に言っていたのが「何より一番の収穫は、一緒に戦ったこの仲間を得られた」ということ。

会社単位、支社単位で見ると非常に女性が少ない中、ロールモデルもいなければ、悩みを共有できる仲間も少ないという営業職の女性たち。会社は違えど、同じような環境に置かれても頑張っている人がいるということは営業を続け、ゆくゆく管理職になっていこうと思う上で非常に重要なようです。

とかく女性活躍推進の障壁とされる「女性自身の意識」も、適切な機会があれば打破していく余地は大いにあることが分かります。エイジョカレッジは複数社が合同で役員のコミットも含めて参加している点に非常に意義があったと思います。でも、モチベーションの維持に苦労している女性は、他社でもいい、断片的でもいいのでロールモデルやフィードバックをくれるメンターを探してみる、同志を探してみるということなら個人単位ではじめられることもあるかもしれません。

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