営業女子の提案でサテライトオフィス実現 サントリーは「時間当たり生産性」を重視

移動時間を削減するために7社合同のサテライトオフィスを作るという提案が高い評価を得た。

こんにちは、女性活用ジャーナリスト/研究者の中野円佳です。リクルートホールディングス、サントリーホールディングス、日産自動車、IBM、キリン、三井住友銀行、KDDIの7社合同の「新世代エイジョカレッジ」。2014年度にはじまったこの取り組みは、先日2期目の最終報告会を終えました。私は当初記者として、今年度は事務局として見守ってきましたが、この1年半で1期目の大きな成果が2つ出ていたので、今日はそれをご紹介したいと思います。

2014年度、「女性が営業として活躍するため」の提言をチーム対抗でまとめた参加者たち。優勝したのは、移動時間を削減するために7社合同のサテライトオフィスを作るという提案をしたチームでした。このチームは、営業特有の長時間労働が女性にとって出産などのライフイベントを経た後に営業を続ける壁になっているという問題意識から、子供のお迎えができる時間に帰れるような営業スタイルを考えようとしました。

実際に自分たちの1日のスケジュールを洗い出してみると、顧客先と自社との移動に結構な時間が割かれていることが分かり、逐一会社に戻らなくても電話対応や報告、決済などが可能になれば...と考えた参加者。せっかく7社合同で実施したエイジョカレッジですから、すでにある各社の拠点を使ってみてはどうか。試算してみると、人によって1日1~2時間が短縮できることが分かりました。

たった1時間と思われるかもしれませんが、実際にお子さんがいらっしゃるメンバーが実感をもとに、働く母にとってこの1時間がどれだけ重要かを力説。「お客様に割く時間を減らさない、むしろ増やすにはどうしたらいいか」を考えた結果ということで、役員たちの評価も高く、見事に優勝を勝ち取りました。

そして、期間限定のトライアルではあるものの、実はこの提言が今夏実現しました。8月後半から9月4日まで、7社が渋谷(KDDI)、赤坂見附(サントリー)、中野(キリン)、新橋(リクルート)などの場所をそれぞれ「どこでもオフィス」として提供し、2014年度、2015年度のエイジョカレッジ参加者が利用できるようにしたのです。

ちょうどリクルートグループの一部では週3回自社に出社しないようにするテレワーク推奨期間だったこともあり、利用していた2015年度エイカレ参加者の営業職女性は「モバイルのプロジェクターと投影用スライドを顧客先にもっていきます。印刷していくよりも直前まで作業ができるし、その場で直してデータで渡したら持ち帰りの仕事もなくなって助かります」と話していました。実際に恒常的に実施するにはセキュリティや光熱費の負担などの課題もあるものの、まずはやってみることで見えてくる効果もあり、7社は今後の連携の余地を探る予定です。

もう1つの成果は、7社のうちの1社、サントリーホールディングスの取り組みです。2014年、最終プレゼンで「ワーマノミクス」というチームは、営業部門で長時間労働になりがちな要因を顧客対応や提案資料作りなど「営業として業績を上げる上で必要なもの」と、付き合い型、残業代取得型、スキル不足型など「業績に結び付かないもの」を分類。長時間労働が必ずしも営業成績につながっていないとするデータも提示しました。

そのうえで彼女たちは、①マネジメント層の人事評価制度に労働時間削減項目を追加する、②チームで「業績と結びつかない業務」「非効率業務」を洗い出し、どのように労働時間を削減するか決める、③売上目標の達成率と労働時間削減の達成率の両面で評価した成績優秀者を表彰するという提言をしました。

サントリーの営業部門では、今年度から年休取得率や過勤状況を営業拠点の評価項目の1つに設定。サントリーからも参加者がいた「ワーマノミクス」チームの提言があったこともあり、「時間当たり生産性」が毎月支社の経営会議の議題に上がるようになったとのこと。実際に営業部門の女性からは「出産して戻ってくる女性は増えているし、営業でも17時に帰るということが意識されている」「ダラダラ残っているのは仕事ができないから、という雰囲気が醸成されてきた」という声が出ていました。

エイカレを通じて、参加者はチームごとに提言内容で競うのですが、どのチームが提言した内容も、実現すれば参加者全員、そしてエイカレに参加していない営業職女性にもメリットがあるはず。最終プレゼンは提言を受け止める会社側にそれを実現させる度量、力量があるかが問われるシーンでもあり、役員側にもピアプレッシャーがかかります。

9月8日に開かれた今年度の最終プレゼンでは、「上司も女性も成功体験を作るために、出産後の女性が営業で活躍できるエイママポストを作る」「お互いのライフイベントに関する情報やチームに対して貢献できることを共有するシートを作り、ダイバーシティの効果を実感しやすい仕組みを作る」「長時間労働を打破し、労働生産性を意識するタイマーアプリを導入する」などの提言が出ました。

陪席した役員や審査員からは「キャリアデザインなど自分を知ってほしいというニーズがあることが分かり、面談でやっているつもりだったが反省や気づきもあった」「労働生産性は男性も含めて変えていかないといけない。タイマーはぜひ導入したい」という声がありました。今後、どのように企業に提言が反映され、実現されていくかが楽しみです。