俳優式、とっておきの英語学習法

ニューヨークで英語を学んでいる、もしくは学びたいと思っている日本人のみなさん、試しに演技のクラスをとってみませんか?

ニューヨークで英語を学んでいる、もしくは学びたいと思っている日本人のみなさん、試しに演技のクラスをとってみませんか?

ニューヨークには、一般の方でも参加できる演技学校のクラスや、不定期で参加を募集しているワークショップがたくさんあります。わたしが2年間通った演劇学校にも、アーティスト、弁護士、ミュージシャン、医者などを本職にしながら演技を学んでいる生徒がたくさんいました。

演技のクラスとひとくちに言っても、台本の中の1シーンを発表する「シーンスタディ(Scene Study)」や、ゲーム感覚のエクセサイズを行う「インプロ(Impro, Improvisation = 即興)」など、教えてくれる内容はよりどりみどり。

経験ゼロ、英語の台詞、人見知り...などなど不安要素はたくさんあるかと思いますが、今回は、英語で演技を学ぶことによって、演技を通して英語を学べるメリット(ややこしくてすみません)についてお話したいと思います。

☆演技のメリット1:言葉と感情がリンクする

脳科学の研究者池谷裕二氏の著書によると、人間の脳は、感情が盛んなときほどものごとを覚えやすいように働くそうです。確かに、「事故にあって怖かった」「失恋して悲しかった」「旅行に行って楽しかった」など、強く感情が絡んだ出来事は、思い出として後々まで覚えているものですよね。

演技のクラスは、感情を絡ませながら言葉を学ぶには格好の場です。

例えば、台本に「I love you(わたしはあなたのことを愛しています)」という台詞があるとします。演技の中で台詞から学んだ「I love you」の身に付きかたは、単語帳や小説などから学んだ「I love you」とは違います。

演技の中で「I love you」という台詞を口にするときに感じるのは、相手を心の底から愛しいと思う気持ちや、どんな反応が返ってくるかわからない恐さ、または、心が丸裸にされたような居心地の悪さかもしれません。

さらに、感情の動きだけでなく、顔や身体が熱くなったり、緊張でお腹が引き締まるように感じたり、手に汗がにじんだり、といった感覚の動きにも気がつくでしょう。また、相手役の彼/彼女が、泣いていたり、まっすぐこちらを見つめていたり、感極まって胸を抑えていたり、声が震えていたり、触れた手が温かかったり、 などという情報も一緒に受け取るでしょう。

このように、感情、感覚、相手の状態といった、文字や映像から受け取る以上の生きた情報を、台詞の言葉にリンクさせることができるのが演技です。そうした情報が、必要な場面で必要な言葉を語彙の棚から引っぱり出すためのトリガー(引き金)となってくれるので、演技をすることで覚えた言葉は自分のものとして定着しやすい、というのがわたしの考えです。

それでもクラスはちょっと...という方は、好きな映画やテレビドラマの好きなシーンを心を込めてひとりで演じてみるなど、感情を絡めることに重点を置いた別の方法を試してみるのもよいでしょう。

ただ、人前でパフォーマンスをすることで得られるメリットを逃すのは、惜しいように思います。その理由は以下に続きます。

☆演技のメリット2:とっておきの度胸が身に付く

ネイティブ英語スピーカーと話す場面で、こちらの言葉を聞いた瞬間に、戸惑うような、身構えるような「あ、この人は英語あまり話せない人だな」という反応が自分に向けられて萎縮してしまった経験が、わたしには数えきれないほどあります。ほんの一瞬のことですし、相手は悪気がないどころか無意識なことがほとんどだと思うのですが、英語にコンプレックスがある身にとっては毎回きびしい試練に思えます。しかしながら、相手のこうした反応に出くわす度に気後れしていては、英語習得への道のりはさらに長くなってしまいます。

演技のクラスは、気後れしないで英語を話す度胸を身につけるには格好の場です。

自分が他人の目からどう見えるかを気にしすぎていたら、演技はできません。普段は他の人に見せたくないような部分をさらけ出すことは、俳優の大切な仕事のひとつです。怒ったり、恥をかいたり、泣いたり、服を脱いだり、犯罪を犯したり、キスをしたり、実生活では人目をはばかるようなことを観客の前で堂々とする、それがストーリーを伝えるために俳優に与えられた役割です。観客は、日常ではそうそうお目にかからないような人間ドラマを求めて劇場や映画館に足を運びます。

これを繰り返していたら、嫌でも度胸が身に付きそうではありませんか。実際、すべてをさらけ出して演技に没頭している最中は、台詞の英語がうまく話せているかどうかの心配などしている余裕はありません。アドレナリンが洪水状態になりながら必死で演じるどさくさに紛れて、英語の恥ずかしさの壁も一緒に壊してしまいましょう。

☆☆☆

会話というのは、言葉がなくても表情やジェスチャーでかなりの部分が成立してしまいます。ですので、言葉を上達させたければ、話す必要に迫られる機会を多く作るのがよいと思います。演技のクラスは、英語を話す必要に迫られるには格好の場所です。そして何より、演技はとっても楽しいですよ!

もしピンと来た方がいらっしゃいましたら、ぜひとも英語上達の手段のひとつとして検討してみてはいがでしょうか。

(2015年4月10日「気まマホ日記」より転載)