止まらない格差拡大:原因と対処は?

各方面から警鐘が鳴らされる格差の課題。その進行は急速にそして確実に進んでいます。

各方面から警鐘が鳴らされる格差の課題。その進行は急速にそして確実に進んでいます。現在、世界で最も裕福なわずか62人が世界の貧しい半分(36億人)の総資産に匹敵する資産を所有するにまで至っています。

オックスファムは、1月20日よりスイスのダボスで開催される世界経済フォーラム(通称ダボス会議)に先駆けて格差に関する最新の報告書「最も豊かな1%のための経済(An Economy for the 1%)(2016)」を発表しました。

先般、世界の上位1%が残り99%より多くの富を所有することが明らかになりました(Credit Suisse (2015) 'Global Wealth Databook 2015')。オックスファムの発表した最新の報告書では、世界で最も裕福な62人が世界の貧しい半分の36億人の総資産に匹敵する資産を所有するに至ったことを指摘しています。この62人という数字がわずか5年前には388人、2年前には85人だったということ(オックスファム報告書「少数の利益のために―政治権力と経済格差(Working for the Few; Political Capture and Economic Inequality)(2014)」)が事態の深刻さを示しています。

世界の貧しい半分の人々の総資産額は、2010年と比較して1兆ドル、41%も減少しました。これは、同時期に世界人口が4億人増加しているにもかかわらずです。一方で、世界の最も裕福な62人の資産は、5000億ドル以上増加し、1.76兆ドルに。男女の格差も顕著で、世界で最も裕福な62人のうち男性は53人。女性は9人に過ぎません。

PHOTO:マニラ・フィリピンのトンド・スラム街(2014)Dewald Brand, Miran for Oxfam

各国首脳、世界銀行やIMFなどの国際機関が格差に取り組むことの必要性について相次いで訴える中、昨年9月には国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の一環としても、格差の課題に取り組むことが合意されました。

しかし、この1年間で格差は縮まるどころか広がり、昨年のダボス会議に先駆けて発表されたオックスファム報告書「富:飽き足らない所有への欲望 (Wealth: Having It All and Wanting More)(2015)」で予見された「世界の1%が残り99%より多くの富を所有する」という現実は、オックスファムの予想よりも1年早い、2015年に実現してしまいました。

極度の格差は、貧困を克服するためのここ四半世紀の取り組みを無駄にしてしまう可能性があります。世界の貧困問題に取り組んできたオックスファムは、深刻化する格差は喫緊の課題だと考えます。

最優先事項として、裕福な個人や大企業が租税回避のために活用するタックスヘイブンの問題に対処しなければなりません。租税回避により、世界の富裕層や多国籍企業は、社会が機能するための大前提である納税義務を果たさないでいます。各国政府は、税収入の減少により、貧困、そして格差の問題に対処するための重要な財源を失っています。

2015年、G20各国政府は、BEPS行動計画(税源浸食と利益移転行動計画)の合意を通じて多国籍企業の租税回避の問題に取り組むことに合意しました。しかし、その合意内容は、タックスヘイブンの課題にはほぼ触れていません。世界的に見て、タックスヘイブンの口座に預けられている個人資産は、約7.6兆ドルと言われています。この資産に対して本来支払われるべき税金が各国政府に納められた場合に追加的に捻出される税収入は毎年1900億ドルにのぼります。

アフリカの金融資産の多ければ30%がタックスヘイブンに置かれていると予測され、このことによって毎年140億ドルの税収入が失われています。140億ドルの財政予算があれば、母子保健の充実などを通して年間400万人の子どもの命を救うことができるばかりか、アフリカのすべての子どもたちが学校に通うために必要な教員を雇用することができます。

ダボス会議の企業パートナーである10社のうち9社が少なくとも一つのタックスヘイブンに登記されています。多国籍企業による租税回避による途上国に対する損失は最低でも年間1000億ドルと言われています。2000年から2014年にかけてタックスヘイブンに対する企業投資はおおよそ4倍になりました。

昨年9月に合意された国連の「持続可能な開発目標」を達成し、2030年までに極度の貧困をなくすためには、各国政府が企業と個人を問わず、富裕層からしっかりと税収入を得ることが不可欠です。極度の貧困に暮らす人々の数は1990年から2010年にかけて半分になったものの、過去25年間で最も貧しい10%の人々の収入は年間3ドルも増加していません。

これは、各個人の収入が年間1セントも増加していないということです。1990年から2010年までの間、各国の格差が広がっていなければ、貧困を抜け出すことのできた人の数は2億人多かったはずです。

本報告書でも取り上げているように、ほぼ全ての先進国、そして大半の途上国に見られる格差拡大の背景にある傾向の一つが、労働賃金が国民所得に占める割合の低下です。これに加えて、所得規模における格差拡大も傾向として見られます。所得格差の拡大、そしてタックスヘイブンの活用が、経済における富と権力の集中を促しているのです。

日本も決して例外ではありません。先日のフィナンシャル・タイムズでも、経済論説主幹のマーチン・ウルフ氏が、日本の場合、GDPに占める労働賃金・世帯収入の割合が極端に低く、一方でGDPに占める企業収益が大きいことを指摘しています(該当記事)。経済の活性化のためには、賃金を上げること、もしくは法人税を上げることが必要だという議論へとつながります。また、日本は、管理職における女性の割合の低さ、そして男女の賃金格差の大きさが、先進国の中で際立っているのが実態です。

オックスファムは、拡大する格差への対処として三つの柱を提唱しています。一つ目がタックスヘイブンに代表される租税回避の問題への対処です。二つ目は、貧しい人々の生活に大きな利益をもたらす保健や教育などの必須社会サービスへの投資にこそ税収入が向けられなければならないという途上国内の政策における対処です。そして三つ目は、各国政府は、しかるべき賃金が裕福な人々に対してだけでなく、貧しい人々に対してもきちんと支払われるようにしなければならないということです。最低賃金を生活賃金の水準に引き上げ、男女間の賃金格差にも取り組まなければなりません。

ほんの一握りの人々が独占する極度の富は、病める世界経済の表れです。一部の富裕層に集中した富は、世界の過半数の人々、そして特に最も貧しい人々の犠牲の上に成り立っているのです。

かつて一億総中流と言われた日本。日本の社会や文化の素晴らしい部分を大切にしつつ、高齢化が進み、新興国に見られるような経済成長を成しうることが困難であるからこそ描ける未来を提起していきたいものです。

オックスファムは、今後も貧困と格差の課題に関する調査提言に引き続き取り組んでいきます。また、格差の問題、気候変動、シリア危機をはじめとした人道問題への取り組みを各国政府やビジネス界に促すため、ダボス会議への出席と働き掛けを予定しています。

本報告書の発表に関する日本語プレスリリースはこちらよりご確認ください。

詳しい注記・出典、調査手法などについては、英語版をご確認ください。

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