働き方改革をきっかけに考える「兼業」と「副業」

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが実施した調査では、「兼業」と「副業」に対して、抱かれているイメージが異なることが明らかになった。

本稿は、注目を集めている「兼業・副業」に関する議論や調査結果を踏まえ、本業先以外での就業機会を普及していくにあたっての可能性や課題について、考察を行うものである。

1.「兼業・副業」への関心の高まりと問題意識

昨年度、首相官邸に設置された「働き方改革実現会議」では、同一労働同一賃金や長時間労働是正等に並び、「兼業・副業などの柔軟な働き方」が議題に取り上げられた。経済産業省(中小企業庁)にも兼業・副業に関する研究会が設置され、また、民間でも専業禁止や副業解禁を謳う企業が現われるなど、社会的関心が高まっている。

こうした関心の高まりに乗じて、2016年末から2017年にかけて「実際どの程度の割合の企業が兼業・副業を認めているのか」について、複数の実態調査が行われてきた。図表1に結果をまとめている。

図表1:兼業・副業の実態に関する直近の先行調査

(資料)東京商工会議所(2016)「東商けいきょう集計結果(中小企業の景況感に関する調査)2016年10月-12月期」、日本経済新聞「(働く力再興)日経調査から(1)兼業・副業は『禁止』7割 本業への支障警戒強く」(2017/1/11朝刊)、経済産業省(2017)「『多様で柔軟な働き方』の実態について(各種調査まとめ)」、リクルートキャリア(2017)「兼業・副業に対する企業の意識調査」、商工中金(2017)「中小企業の『働き方改革』に関する調査」をもとに、三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成。

調査結果を概観すると、調査対象企業数や設問の聞き方などが違うとはいえ、兼業・副業を認めているか否かに関する回答割合に大きな幅が出ていることがわかる。

細部をみると、例えば「現在認めておらず、今後も認める予定なし」という回答割合では、東京商工会議所調査は43.0%、経済産業省調査は35.9%だが、商工中金調査では82.8%と、2倍近いポイント差がついている。

この結果から、回答者がどのような活動を兼業・副業と捉えているか、人によって抱くイメージが異なっている実態があることが推測される。そもそも、上記(図表1)の調査では、いずれも「兼業・副業」(もしくは「副業・兼業」)というように、2つの言葉を併記する形で調査票が作成され調査が実施されているが、「兼業」と「副業」は並列で論じて良いのだろうか。

2.「兼業」と「副業」は同じなのか?

2-1.「兼業」と「副業」のイメージ

弊社が2017年3月に実施した調査では、「兼業」と「副業」それぞれの活動に対して、抱かれているイメージが異なる実態があることが明らかになった。

「兼業」は、平日の勤務時間内に実施し、本業とも関係し、競合する可能性もあるイメージが多いのに対して、「副業」は、平日の勤務時間外や休日に実施し、本業とは直接的な関係はなく、本業にも生かせない内容というイメージが多い。また、「兼業」、「副業」ともに、基本は無報酬で行うものというイメージも、2割程度持たれていることも分かった。

図表2:「兼業」と「副業」のそれぞれのイメージ

(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2017)「本業先以外での就業経験に関する実態調査」。調査概要は、本稿末に紹介。

2-2.「収入を得るために携わる本業以外の仕事」とは何か

さらに、経済産業省(2017)は、「兼業・副業とは、一般的に、収入を得るために携わる本業以外の仕事を指す」という定義を示し、当該報告書の中で、平成24年度就業構造基本調査の結果から、全就業者のうち副業をしている就業者は3.6%(234万人)であることを紹介している。

だが、前述した、弊社実施のアンケート調査結果にもとづくと、「本業以外で報酬や収入を伴う活動」を、「現在やっている」もしくは「現在はやっていないが経験がある」割合は、全体の31.1%に達しており、具体的な活動は、株式投資、FX投資(61.0%)、他組織への出向(16.1%)、転売・ネットオークション(15.8%)などが高い割合になっている。

図表3:「本業以外での報酬や収入を伴う活動経験」とその活動

(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2017)「本業先以外での就業経験に関する実態調査」。

上記の調査結果に関して、経済産業省の定義に沿えば、株式投資やFX投資も兼業・副業と扱われるが、政府が働き方改革の一環として推進する兼業・副業はそうしたイメージとは異なると思われる。

今後、兼業・副業の普及のために議論を深めていくにあたっては、現在議論されているような、過重労働防止や雇用保険・社会保険の適用範囲等も極めて重要な論点であるが、その素地として、兼業や副業とはどのような活動を指すのかについて、改めて認識を共有する必要があるのではないだろうか。

3. 普及している出向制度等を活用した新たな潮流

我が国における兼業・副業の議論は緒についたばかりだが、人材育成やキャリア形成、イノベーション創出などの観点から、兼業・副業も含めた「本業先以外での就業」を行うことの意義については多くの指摘があり(石山2015、中原2012など)、その普及・拡大に向けた活発な議論を続けていくことが期待される。

他方、すでに我が国の企業や官公庁等では、本業先以外での就業機会の一つである、出向制度や研修派遣制度が普及しており、このことは議論のヒントになり得ると考えられる。

これらの取り組みでは、出向期間や派遣期間中の就業時間や場所は、基本的には受け入れ先で定められ、また組織間の送り出し・受け入れに関わり、雇用契約や給与の設定方法、情報漏洩防止に関わる取り交わしなど、兼業・副業の懸念としてしばしば挙げられる点に対する実務面のノウハウも蓄積されてきている。

こうしたなか、近年新たにみられ始めている潮流として、出向や研修派遣の枠組みを活用し、大企業と中小企業・ベンチャー企業間や、大企業と新興国のNGO団体間等での人材交流事業が拡大している。

当該事業の意義は多方面から指摘されており、企業の視点に立てば、これまで業務で関わりのなかった企業・団体同士がつながることでイノベーションの契機になると捉えられる(入山2015)。また、個人の能力開発・人材育成の観点からも、社会の中に企業「外」のOJTの機会を広く生み出す必要性が言及されている(梅崎2017)。

加えて、当該事業は、転職市場にいる(もしくは転職市場に入っていく予定の)人材を対象にした人材サービス業のビジネスモデルとも異なる発想による取り組みであり、本業先への「リターン」を前提として、本業先で更なる活躍をするために敢えて外部で経験を積むという点も特徴的である。

ただし、当該事業の普及・拡大のためには、実態として様々な検討事項はある。

例えば、我が国企業における出向は、資本関係にある系列企業間が大半であり、特につながりを有していない中小企業には外部と関わる機会が限られていること(図表4)、我が国企業では企業別特殊技能が発達しているためにスキルの他社通用性が低いこと、送り出し・受け入れ企業間のカルチャーギャップがあることなどである。

また、能力開発の機会が限られてきた正規雇用以外の労働者を包摂する内容にできるかという点や、対象者の年齢が高まるにつれて、「出向」という言葉にネガティブなイメージがついてしまうことへの懸念も考えられる。

図表4:出向制度の有無と出向先

(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2017)「本業先以外での就業経験に関する実態調査」。

だが、働き方改革の議論をきっかけに、既存の枠組みに着想を得つつ、イノベーションや能力開発の契機として、中長期的な観点から人材流動による新たな取り組みを模索する企業やサービスが現れ始めている点は注目される。

こうした先進的な取り組みについて、事例を通して、その意義や期待される効果等の検討・検証が引き続き求められる。

【参考文献】

入山章栄, 2015, 『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』日経BP社.

石山恒貴, 2015, 『時間と場所を選ばないパラレルキャリアを始めよう!――「2枚目の名刺」があなたの可能性を広げる』ダイヤモンド社.

経済産業省, 2017, 「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査業務研究会提言~パラレルキャリア・ジャパンを目指して~」.

中原淳, 2012, 『経営学習論――人材育成を科学する』東京大学出版会.

梅崎修, 2017, 「人材育成力低下による『分厚い中間層』の崩壊」玄田有史編『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』慶應大学出版会: 85-99.

【弊社実施調査概要】

  • 「本業先以外での就業経験に関する実態調査」(2017年3月実施、クロスマーケティング社調査モニターへのweb調査)
  • 対象は、中小企業基本法で定められる中小企業以外(≒中堅・大企業)に勤務する、全国の30歳代~50歳代の管理職及び一般従業員4,000人(役員、非正規雇用等を除く)。
  • 回答者属性は、性別:男性92%、女性8%、年齢層:30歳代18%、40歳代・50歳代ともに41%。
  • なお、本調査では、「本業」を「現在、企業から雇用されており、週当たりの就業時間が最も長い職業」と定義の上実施した。

1 株式会社ローンディールによる「企業間レンタル移籍」、NPO法人クロスフィールズによる「留職プログラム」、NPO法人二枚目の名刺による「サポートプロジェクト」など。

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