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2018年03月09日 10時01分 JST | 更新 2018年03月14日 19時51分 JST

原発停止による火力燃料焚き増しが2013年度3.6兆円だったのは、脱原発には良いニ ュース?

あくまでも「経産省の試算を信じるならば」、という条件が付いています。



経済産業省審議会、総合資源エネルギー調査会、基本政策分科会電力需給検証小委員会

平成27年10月20日第13回会合 資料4 、5枚目より

 最近国会では、裁量労働制を巡って厚生労働省の調査による数値が法案の根拠の一つとしては不適切であったことが明らかになり、安倍総理が答弁を撤回するだけでなく法案から関係する部分を削除する事態となりました。衆議院公聴会でこの問題について意見を述べた法政大学の上西教授は、省庁の統計数値の出し方に問題があることを指摘しています。学術研究と比べ、省庁による調査はその方法等がそれほど明らかにされず、チェックが受けにくいようです。学術調査は、そのデータや分析手法を明らかにすることが求められ、他の研究者の厳しい指摘に晒されます。更に分析・調査の公表過程だけでなく、学術の世界ではデータ捏造がバレてしまうと、研究者としてのキャリアが絶たれてしまいかねない問題となるでしょう。省庁による統計調査や試算は、有識者会議や審議会に提出されたりします。そのような会議に出席する有識者や専門家が、学術調査に対するように厳しく精査できればよいでしょうが、「うるさい」ことを言う出席者が次回から呼ばれなくなるとすれば、どうしようもありません。今回は私の直接の専門分野とは言えませんが、以前から釈然としない、ある省庁の試算を一つの例として書きたいと思います。

 現在、エネルギー基本計画が見直される時期にきていますが、20144月に閣議決定された前回の基本計画の「第2節東京電力福島第一原子力発電所事故及びその前後から顕在化してきた課題」の「2.化石燃料への依存の増大とそれによる国富の流出、供給不安の拡大」p.8)に

原子力発電の停止分の発電電力量を火力発電の焚き増しにより代替していると推計すると、2013年度に海外に流出する輸入燃料費は、東日本大震災前並(2008年度~2010年度の平均)にベースロード電源として原子力を利用した場合と比べ、約3.6兆円増加すると試算される。

とあります。この試算は様々なところで引用され、よく目にしたものです。今回の基本計画は恐らく再生可能エネルギー利用により焦点があたるようですし、また当時より燃料価格が下がっていることもあり、このような試算は、今回はそれほど重要視されないかもしれません。

 一方、この前回のエネルギー基本計画からの引用文の直前に

日本の貿易収支は、化石燃料の輸入増加の影響等から、2011年に31年ぶりに赤字に転落した後、2012年は赤字幅を拡大し、さらに2013年には過去大となる約11.5兆円の貿易赤字を記録した。貿易収支の悪化によって、経常収支も大きな影響を受けており、化石燃料の輸入額の増大は、エネルギー分野に留まらず、マクロ経済上の問題となっている。

とあります。ここで強調したいのはマクロ経済学的に言って、貿易収支や経常収支は、単なる対外的な支出入の一期間における差に過ぎず問題とはなりません。赤字には悪いイメージがありますが、それは企業の会計上の赤字は収入が生産費用を賄いきれない、という意味があるからでしょうが、貿易収支はそのようなものとは違います。貿易赤字で国富流出と言われますが、代金の支払い、すなわち外国が日本のものに対して購買する権利を与える(あるいは以前に貿易黒字によって獲得した海外の生産物を購入する権利を行使する)一方で、貴重な燃料ともまた国富として獲得しているからです。電力会社が不適切に火力燃料を高値で買って電力利用者に転嫁しているなら(していなくても)、その差額は国富流出と言っていいかもしれませんが、そういうこととは違います。結局はたとえ高価であっても燃料の利用が支払いに見合う便益を得られればよいわけで、一時的に貿易赤字になることを避けるために電気を使わなければ方が、私達の暮らしを悪くするでしょう。また、燃料費のように一部の発電の費用だけを取り上げることには経済学的に意味はありません。原発と比較したいなら、使用済み燃料処理などの原発を使って発電する全ての費用と火力発電の費用を比べ、更には事故のリスクに見合うものか考える必要があります。従って、燃料費購入費だけを取り上げても意味はないのです。従って、この意味でも焚き増し燃料費の問題自体にはあまり意味はなく、あくまでも省庁の試算の信憑性の一例と考えて下さい。

経済産業省の原発代替火力発電の燃料費の試算について

 原発停止による燃料費の増加の経済産業省の試算として例えば、経産省の有識者会合の一つである電力需給検証小委員会の第13回会合の資料42014年までの確定した試算としてとして原発停止分による代替火力発電の燃料費が2013年度と14年度でそれぞれ、3.63.4兆円であったとされました(p.5)(冒頭の画像参照)。これらはどのような試算なのでしょうか?まず、もし原発が稼働していたらどのくらい発電していたか、ですが、先のエネルギー基本計画からの引用に「東日本大震災前並(2008年度~2010年度の平均)」とあるように、この資料では2008年から2010年の間の3年間の原発の発電量の年間平均の2748kWhが基準となる原発の発電量となっています(kWhは発電量の単位)。ただし、この中にはもう事故で稼働しない福島第一原発のような廃炉が決まっている原発の発電量も含まれていますが、これに従うことにします。つまり、火力発電による発電量のうち2748kWhは原発停止による火力の焚き増しとみなすということです。2013年度はそれから大飯原発の稼働による発電量を引いた2625kWhが、14年度は原発稼働ゼロだったので2748kWh全部が原発停止によって火力を炊き増した分ということです。これらの火力発電の炊き増し分にかかった火力年力費が2013年度、14年度それぞれ3.6兆、3.4兆円だったと試算されているわけです。

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電気事業連合会、2016 年 5 月 20 日会長定例会見資料より

 一方、電気事業連合会(電事連)によると電力大手10社の発電量の総量は2013年度、14年度はそれぞれ9397億、9101億kWhであり、火力発電のシェアはそれぞれ88.3、87.8%であったことが分かります(直上図参照)。従って、2013年度、14年度の火力発電量は約8297億、7990億kWhとなります。これから原発停止非代替分の火力発電量は2013年度、14年度でそれぞれ8297-2625=5672、7990-2748=5242億kWhとなります。また、経産省の試算では、2013年度、14年度ともに、原発代替分の燃料費には使用されなかった原発の燃料費分0.3兆円が引かれていますので、原発停止代替分の火力発電燃料費は、この分を戻し入れてそれぞれ、3.6+0.3=3.9、3.4+0.3=3.7兆円となります。一方、冒頭の表から2013年度、14年度の大手電力会社の火力発電燃料費総額はそれぞれ7.7、7.2兆円となっていますので、原発非代替分の燃料費はそれぞれ、7.7-3.9=3.8、7.2-3.7=3.5兆円であるはずです。

             表 2013、2014年度の火力発電量と燃料費

2013年度

2014年度

原発代替

非原発代替

合計

原発代替

非原発代替

合計

発電量

(億kWh)

2625

5672

8297

2748

5242

7990

燃料費

(兆円)

3.9

3.8

7.7

3.7

3.5

7.2

kWh当たり

燃料費(円)

14.86

6.7

9.28

13.46

6.68

9.01

(経産省審議会等の資料及び電事連資料から算出)

 さて以上から、原発代替分(焚き増し)と非代替分の火力発電のkWh当たりの平均燃料費がそれぞれ計算でき、表にまとめておきました。原発代替分の平均燃料費2013年度、14年度でそれぞれ14.8613.46円で非代替分のそれぞれ6.76.68円よりだいぶ大きくなっていますが、私はまだこの段階で原発代替分の試算そのものについてとやかく言うつもりはありません。このことは次回で触れる予定ですが、火力発電には燃料費が高い順に、石油、ガス(LNG)、石炭の違いがあります。電力会社はより低費用で済む発電所を優先的に動かすでしょうから、原発停止に代わり稼働した火力発電所により費用がかかってもおかしくはないからです(例えば石油火力の比率が上がる)。

 私が今回言いたいのは、経済産業省のこの試算を信じるなら、2013年度や14年度のようにエネルギー価格が歴史上特別に高い水準にあっても、原発が停止しなければ日本の火力発電の平均的な燃料費は1kWh当たりで7円を切っていたということも信じる必要がある、ということです。エネルギー価格が落ち着いている現在なら軽く5円を切っているのではないでしょうか!つまり、これが本当なら日本の火力発電の燃料効率の良さを示すものと言えます。従って、原発が停止したから仕方がなく使っているような古い燃料効率の悪い火力発電を、このような効率の良い火力発電へとリプレースしていけば、原発が停止しても火力燃料購入費用による電気代の値上がりなどにそれほど大きな心配はないと言えるでしょう。また、これなら十分なCO2排出対策もできそうです。

 しかし、これにはあくまでも「経産省の試算を信じるならば」、という条件が付いています。これを信じられるでしょうか?残念ながら私はこのあまりに不自然な試算を信じることはできません。このようなデータを確かめてみるのが本来の専門家というものでしょう。この試算を引用するエネルギーアナリストや自称専門家がいますが、この経産省の試算を何の疑問も持つことがない、あるいは自分の主張に都合がいいから目をつぶっているとすれば、そういう人達を私は専門家として信用することはできないでしょう。