【スペイン・サンティアゴ巡礼】徒歩の旅に必須の秘密道具とは...?

日本人女性と結婚し、ハネムーン代わりにそのサンティアゴを目指して巡礼路を歩くことにした、ドイツ人のマンフレッド・シュテルツ氏の手記をお届けしています。

世界でもっとも有名な巡礼地のひとつである、スペイン北西部のキリスト教の聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラ。

日本人女性と結婚し、ハネムーン代わりにそのサンティアゴを目指して巡礼路を歩くことにした、ドイツ人のマンフレッド・シュテルツ氏の手記をお届けしています。

巡礼6日目、ふたりは「ワインの泉」を越え、さらに西へ。奇妙なディナーのシーン、徒歩旅に欠かせない秘密の道具も必読です!

6th day 〈Lorca → Villamayor de Monjardin, 18.4km〉

パッキングを済ませてから朝ごはんを食べるためにアルベルゲ*の階下へ降りて行くと、おや? バルスペースのドアに鍵がかかっている。裏口から建物の外に出て、ぐるっと回ってみたけれど、メインの入り口もしっかりと施錠されていて、どこにもスタッフの姿ははない。

*サンティアゴ巡礼者専用の宿

......ええ、ってことは朝ごはんなし!? お腹ぺこぺこなのに!!

さぞかし楽しい夜だったのだろう、路上にはまだパーティーピーポーがたむろしていて、お酒を飲みながら騒いでいる。そんななかを、僕たちは空腹を抱えたままスタートした。

僕の風邪も治りきっていないし、妻の足のためにも、今日は控えめに20km弱を歩く予定にした。

5kmほど歩いたところでバルを発見。OLE! またいつもと同じスペイン版サンドイッチのボカディーロとカフェ・コン・レチェ、妻はフレッシュオレンジジュースを注文した。

スペインのコーヒーはとても美味しく、どんな小さな古ぼけたバルでも、しっかりとしたコーヒーマシンが置かれている。僕はもう1杯、同じコーヒーを飲んだ。ようやく人心地だ。

幾人かのアメリカ人が近くに座っていたけど、なんだかいかつくて怖そうな人たちだったのでそちらのほうはあまり見ないようにながら、バルの店主にお金を払って、僕たちは巡礼路に戻った。

昨夜のアルベルゲで一緒だった日本人男性が前を歩いている。彼はちょっと......というかかなり奇妙だ。どこにもその気配はなかったのに、突然僕らのすぐ前や後ろを静かに歩いていて、ぎょっとさせられたのは一度や二度ではない(ニンジャか!?)。妻が笑いながら「神出鬼没」という日本語を教えてくれた。なるほど。

風邪のせいで体はすでに疲れ切っている。空気が澄んで、乾燥しているせいだろうか、日差しがとても強い(あとで調べたら、標高500mを超える地域だったようだ)。僕らはいったん荷物をおろし、むき出しになっている顔や手の甲に日焼け止めクリームを入念に塗った。

昼過ぎには、今日の目的地のビジャマヨール・デ・モンハルディンという小さな町に到着した。

僕たちは最初に見つけたアルベルゲに入ったが、ほかに到着している旅人はさすがにまだいないようだった。共同部屋でひとり15€と値段はやや高めだが、2013年に建ったばかりだというアルベルゲはとても新しくて快適そうだったので、ここに宿を取ることにした。

荷物を置いて、シャワーを浴びる。ラッキーなことにまた洗濯機(と乾燥機まで!)が設置されていたので、6€を支払って僕らはできる限りの洗濯物をぎゅうぎゅうと押し込んで洗った。

洗濯が終わるまでの間昼寝をしていたら、次々とほかの旅人たちが到着してきた。スペイン人の自転車グループもいて、妻は「"マッチョ"がいっぱい」だと言ってにやにやしていた。

ところで僕たちの足だが、実はまったく「マメ」に悩まされていない。ほかの旅人たちの様子を見ると、真っ赤になって皮が大きくめくれていたり、血のにじんだテーピングでがちがちに固めてあるような人も多く、なんとも痛そうだ。足に刺激を与えないように、まるで老人みたいにそろりそろりと歩く人の姿もよく見かける。

僕たちの足がいつも以上につるんとキレイなのは、ドイツから持ってきた足用クリームのおかげだと思いが至る。その名も「鹿クリーム」(現在は鹿成分は入っていないらしいけど)! ドイツのドラッグストアなどに売っている安価なものだけど、その効果は抜群だ。旅の準備をしている際に、誰かのブログに「カミーノに行くならこれを持っていけ!」と書いてあったのだ。脂っぽいしっかりとしたクリームなので、靴との摩擦を大幅に軽減してくれているのだと思う。ありがとう先人! そしてありがとう自分!

僕たちは起き上がって、あたりを少し散歩した。昨日夕食を一緒に食べたアメリカ人の女性2人がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。彼女たちは、僕たちと同じアルベルゲの個室(40€!)にチェックインした。その後、彼女たちの姿を見ることはなかった。

風邪を治したくて、僕はもう一度ベッドに戻ることにしたが、夜7時頃に再び妻に起こされ、近くのバルに夕食を食べに出かけることにした。

前払いのシステムにちょっと混乱しながら注文を済ませて、席に着いた。料理がやってきたが.....これがひどいものだった!

このカミーノ上で初めて僕はパスタを注文したが、中のほうは冷たいままだった。妻が頼んだスープも正体不明だ。パンは古く、ふた皿目のチキンも、工場で作られたゴミみたいな味(失礼!)がした。オエッ。パンの皮が一番マシな味だった。前払いだったのも納得だ。

大きなテーブルには、ほかにもドイツ人、自転車旅のポーランド人、そしてイタリア人グループが座っていたが、彼らも「ひでえな、こりゃ」って顔。

ワインがサーブされると、ひとりのイタリア人がひと口なめて、大きく顔をしかめた。そして立ち上がるとスタッフのほうにつかつかと歩いていってこう言った。「冷えた赤ワインだって!?まるで酢みたいな味だ!!」そして彼は水を注文しなおしていた。ハハハ!

不完全燃焼のお腹を抱えたまま僕らはアルベルゲに戻って、僕はまた風邪薬を飲んで、この日記を書いている。

あ、そうそう、忘れていた。今日通ったイラチェという町には、地元企業の手によって「ワインの泉」が設置されていた。たくさんの人がきゅっとひねれば赤ワインが流れてくる蛇口に集まっていて、イタリア人の自転車グループがそのワインをがぶ飲みしていた。

ひとりのイタリア人が、まるで赤ん坊がママのおっぱいにしゃぶりつくみたいに必死で首を伸ばして口に直接ワインを受け止めようとしていたが、そのほとんどはこぼれて彼の服につたっていった。

イギリス人男性が空のペットボトルにワインを満たしてくれたので、僕らはそれを回し飲みして、疲れをひととき癒した。ワインはそれほど美味しいものではなかったけど、なにしろタダだ。旅人たちが必死になってそれを飲もうとしているのを見ているのは愉快だった。

今日はこんな感じだった。時間はもう夜9時。妻はもう眠っているらしい。外を見れば、なかなか素晴らしい景色だ。

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※この手記は、妻で編集者の溝口シュテルツ真帆が翻訳したものです。妻の手記はnoteで公開しています。